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002.桜の木によじ登る

あぁ・・・たまらん・・・・。

俺はあくびをかみ殺した・・・はずが、それは殺しきれずに、涙となってあふれた。
眠い・・・眠い・・・眠すぎる。
ありえんほど眠すぎる。

今日は高校の入学式・・・・俺たちの。
でも・・・ありえないほどに眠い。
視界がぼやけている。
まぶたが信じられないほどに重い。
世界がぐらんぐらん揺れる。
もぉ、ダメかもしれない。
先立つ不孝を・・・じゃなくて。

目の前の背中にゴツンと額を当てると、セシルが驚いたように身じろぎした。
「どうかした・・・?」
コソコソと小声でたずねてくるセシル。
ズリズリと額を押し付け「眠い」と呟いた。
「このまま寝る?」
「やだ、ちょー眠いし」
「・・・でも入学式だよ?」
「布団で寝たい」
いつものセシルのような台詞を吐いてみる。
お前も少しは困ればいいんだと思いながら。
っつーか、校長?の話長すぎるっつの。これからちゃんとやります。がんばります。だから寝かせてお願いママ。
「じゃぁ、抜けようか」
「ん?」
「だから、エスケープ」
「エスクード?」
「どう聞き間違ったらそういう風になるの?」
おぉ・・・すげぇ、セシルにつっこまれた。
んー・・・でも、エクレアの方がよかった?とか思いつつ、へへ・・・と力なく笑うと、呆れたようなセシルの顔がまぶたの裏に浮かんだ。
あー・・・もぉ、ほんと沈みそう。
なんなの?まだ四月なのにゴールデンウィークなみにぽっかぽっかなんだけど。
体育館の上の方の窓から差し込む陽の光が天国からのお導きのように見えるんですけど・・・って目は閉じてるけど。
「何?眠いの?」
「今更またそれ聞くのか?お前馬鹿じゃねぇ?っつか、バカだよな、馬鹿。バーカ」
すげぇねむいので、勢いで虐める。
と、ゴンっと頭に衝撃。
どうやら、セシルが頭を後ろに反らして頭突きをしてくれたらしい。「テッ」という俺。
セシルが腰をかがめると、セシルに体重を預けていた俺もまた下がるわけで・・・で、そこで久しぶりに目を開けた。
「なんだよ。」
「だーから、抜けようよ」
「抜け・・・なんてやらしぃなぁ・・・」
「何?カイン酔っ払ってるの?」
ムッとしたようなセシルの声。
「いや、酔ってはないけど。」
つーか、高校生だし?
仕方ない。少しだけ目を覚まそう。
「で、なんだっけ」
「何度目?それ」
「あ、エスケープだっけ」
「分かってるじゃない」
何度も言わせないでとばかりに口を尖らせるセシル。それにハイハイと適当に返事を返し、四つん這いの状態で生徒たちの足元を這う。
はいはい、ごめんよ。ちょいとどいとくれ・・・ってなもん。
ちょっとしたザワザワは起こったけれど、失神者が出た時ほどではないから多分目立ちはしない。
セシルを従えて四つん這いの行進。
だけど・・・ちょっと問題が発生。
並ばされている俺たち新入生(俺たちは四つん這いの脱走生徒だけど)と、体育館の出口までは5メートルほどの空白があったのだ。
先生たちは前の方に並んでいるので後ろの出口を目指しているわけなのだが・・・壇上からは俺たちは丸見えになる。
これは由々しき問題だ。・・・と、この時点で眠気は完全に覚めていたりするのだが、目先の事しか見えなくなるのはまぁよくあることだろ?
「どうする?」
こそこそと聞いてきたのはセシル。その不安げな顔を見ると、兄貴風を吹かせたくなるのが俺。(後々すごく後悔することになるのだが、このときはあまり自覚がなかった)
だから、「平気だろう」と気づけば口に出していたのだ。
「俺たちはまだ入学したてだぜ?エスケープしてる二人組みが見えたとしても、それがどうやって俺たちだとわかるんだ?」
と。
それは半分は正解かもしれないが、半分は完全な間違いだった。セシルは、パッと晴れやかな顔をしたけれど。
何故なら、俺たちは自分たちの容姿がどれほど目立つものかを理解していなかった。そして、誰が居ないかを調べるには点呼をかけるだけで十分だったのだ。
「いこうぜ」
そっと立ち上がって、開いたままの入り口に向かって走るのとセシルが続いたのはカンマ何秒かの時間差。
そして、扉を潜り春の陽の下に飛び出し、目を細めたのと・・・後ろからダダダッという不穏な足音が聞こえたのはまた少し後。
ぎょっとして振り返った俺たちが見たのは、いかにも体育教師・・・っつーか、体育以外には教えることが出来ませんっていうような、脳みそまで筋肉で出来ているような褐色の肌の巨漢だった。
「げっ」という言葉が果たして出たのか出なかったのか、それともセシルが発したのか・・・それは分からない。
しかし、俺たちは間違いなくその「げっ」を合図に走り出した。
「こらぁああああ!またんかぁあああ!」
男の声が地を揺るがすような男の声。
んな声で怒鳴られて待つやつ居ます?奥さん?
ってわけで、
「逃げろ!」
ま、言うまでもないのだけれど。
出てすぐに右に折れて校庭に出る。中学の時よりも随分と広い校庭だが、それ以外には殆ど違いがない。
周りを塀に囲まれていて、内側にはずらりと桜が植えられている。で、一箇所には野球部のためのバックネットがあるだけだ。
俺は校庭をまっすぐに横切って、手ごろな桜の木にとりつくと、ひょいと横枝に飛び乗り・・・それから振り返って
「手!」
無駄に泣きそうな顔をしているセシルの手を持って枝に引き上げる。そして、
「こら!!!お前ら!!!!!!」
だんだんと近づいてくる男の声に、振り返りもせずその足場を利用して塀の上によじ登り・・・表の道路へと飛び降りた。

そして、俺たちは近場の公園までを走り、それからゆっくりと昼寝を楽しんだのだが・・・・先ほども言ったとおり、俺たちは目立つ容姿をしていた。上に、点呼をとれば脱走者が誰かなんてたやすく分かったのだ。
だから・・・次の日、たっぷりとその報いを受けることになるのだが・・・ま、それはこの話とは関係ないので割愛することにする。

途中から明らかにテンションが変わっているのは、SFを読み始めたからである。

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