女王のルーレット

あーよみかえしてないな
バルバリシアにきっつい一打を食らって以来、お誘いのなかったパーティに俺たちは久々に呼ばれた。
今回もバルバリシアの付き添いでセシルとともにフォーマル。ただし今回は服装その他は彼女が用意したものであり、場所もでかい船の上。しかもきらびやかなカジノの会場がその舞台だ。合法なのか違法なのかはさっぱりわからないが、ちらと見た限りではかなりの額が動いているようだった。
客も裕福そうなやつらばかりで、船員たちの教育も行き届いている。
バルバリシアの連れという立場でさえなければ嬉々として、ご婦人を口説き、男の財布から金をくすねるところだ。
だが、俺たちは前回きっつく怒られたので、今日は真面目にやるつもりである。というのも、今度恥をかかせたら鮫の餌にするわよ・・・とバルバリシアにすごい顔(あれはメデューサもかくやという顔だった)で脅迫されたからだ。
セシルはともかくとして、俺は鮫の餌にはもったいなさすぎる。っというわけで今日ばかりは彼女の横で笑顔の大安売りだ。彼女が椅子に座るとなればそれをセシルに引かせ、喉が渇いたといえばセシルにカクテルを持ってこさせる紳士だ。

バルバリシアは長い金の髪をアップにし、背中が丸見えのスレンダーな赤のドレスを着ている。左右に若くて見た目のいい男(俺とセシルのことだ)を従えており派手なことこの上ない。
一目みただけで普通の神経の持ち主なら気後れするようなキンキンキラキラ。
見るからにブルジョア!な女につき従う俺はいったいどんな風にみられているんだろうか。
それを想像すると本当にうんざりするが、これも仕事だ仕方がない。バルバリシアの連れなので女の子に声をかけられないのは辛いが、彼女がビジネスの話をするためにパーティ会場から離れる際「適当に遊んでなさい」と渡してくれたチップの山には正真正銘演技ではない微笑みが出た。
女の子を取り上げられたのはキツイし、食事も酒もほんのちょっとしか食べられなかったが・・・カジノで遊べるとなればそれも相殺だろう。

俺はそれを二つのカップに平等に分けて一つをセシルに渡した。
彼はチョコレートのコインのようなチップを不思議そうに見つめ、ついで俺に視線を向けた。
「ほれ、受け取れよ、お前の分だ」
「いいの?」
「いいも悪いもあるか。どうせあのばー・・・じゃなくて、バルバリシアの金だ。」
ばーちゃん・・・なんて冗談であっても口にしては、明日の太陽が拝めなくなること必須だ。
「でも、僕、あまりギャンブルはよくわからないんだけど・・・」
「なんだよ。よくポーカーとかやるじゃないか」
「そうなんだけど・・・」
といって困った顔をするのは、チップのかけ方に不安があるということらしい。
なるほど・・・確かに、ルールは知っていても賭け方について不安があるのは分かる。丁寧に教えてやってもいいのだが(本当だぞ)、今はバルバリシアがいつ帰ってくるのか分からないので、時間が惜しい。
だから、
「だったら、スロットでもやってろよ」
にっこりと笑って突き放した。そして、セシルがブーブー言っているのを知っていながらアッサリと無視して・・・向かう先はブラックジャックの台だ。

ぶっちゃけ。俺はブラックジャックに目がない。
セシルと遊びでやるならポーカーが醍醐味だが、真剣勝負となれば断然ブラックジャックだ。
ポーカーもバカラも悪くないが、なんとなく客同士で張り合ってばかりいるような感じがして気に入らない。
その点、ポーカーは完全にカジノと・・・いや、ディーラーとの勝負だ。
ほかの客と会話していると時々プッチンきそうな俺も、ディーラー相手にはまだ抑えられる。
俺は、見目のいいタキシードを着た女のディーラーのテーブルにつき、にこりと微笑んだ。

ケン・ユストンという有名なブラックジャックのプレイヤーによると、ブラックジャックっていうのはどうやってもせいぜい勝てるのは6割だ。
つまり、勝ちの時にどれだけ多くを稼いで、且つ、負けるときの額を少なくするかってのが基本。
一流のプレイヤーになると、場に出たカードを記録したりディーラーのカードから勝率を計算したり、バンカー(手持ち)と勝率から算出したチップをかけたり・・・といったことをする。
少し説明すると、ディーラー・客ともにバストする可能性は28%といわれている。つまり、4回に1回以上はバストするってことだ。これはフェイスカードが4・5・6の時に一番高くなり40~43%になる。
つまり、黙っていても勝てる可能性が高いってことだ。
ほかにもテン・ファクター、ステップハンドといったいろいろな用語があって・・・まぁ説明したいのも山々なのだが、今はプレイの最中。これはこの辺で勘弁しておこう。
っと、それはそうと・・・いいカードが来た。
俺はにやにやしながらもう一枚カードを要求した。

数ゲームを消化し・・・・しかし、俺の勝率は多分4割にも満たない・・・・。
しかも、勝てると張ったところばかりが負けていて・・・かなりチップが心もとなくなってきた。
時折勝てるのは小さいチップの時ばかり・・・かなりマズイ流れにはまりこんでいるような気がする。
こういうときはいったんテーブルを離れて頭を冷やすのがセオリーだし・・・そうするべきなのだが・・・どうにも尻がスツールにくっついて動かない。
もう1ゲーム・・・もう1ゲームだけ・・・・と思っているうちに・・・・とうとう、残りが5枚に・・・。
ううう・・・・さ・・・さささささ最後の勝負・・・・
なけなしの五枚を掴もうとしたとき・・・・
ザザザザーーーっと横から大量のチップが注ぎ込まれた。

驚いて横を見ると・・・
「セシル・・・」
ニッコリと微笑むセシルの姿。
注ぎいれたカップのほかに一回り大きなカップを持っている。そして・・・そちらには山のようにチップが・・・。
「お前・・・それ・・?」
スロットで当てたのか?あんなボッタクリゲーム機(基本的にスロットは客が負けるように出来ている)で?!っと驚いて聞くと、彼はへらへら笑ったまま首を横に振った。
「違う違う、あれで・・・・」
と彼が指差したのは、カジノの女王と呼ばれる・・・ルーレットだった。
「マジかよ?」
言いながら、チップを場に置きカードを受け取る。
「どうやって?」
ルーレットのルールにはイマイチ明るくないが、確か1点賭けで36倍だったはずだ。
それだけを聞けば配当が良いように聞こえるかもしれないが、ルーレットの目は36+1(0)(アメリカンスタイルならば00も)ある。
1点賭けならば配当は大きいが1/36の確立だ。
・・・・怪しい・・・・。
バストしてしまったカードを表に放り出し、セシルをじっと見る。
「ん・・・?」
「お前・・・イカサマはしてないよな・・・?」
ボソリ・・・と小さい声で聞く。
すると彼はにっこにっことしながら、答えた。
「一度だけでいいから自分で回させてくれっていったんだ」
「は・・?」
「だからルーレットをね。」
「そんなこと・・・許されるのか?」
仮にもプロが素人に回させるなんてことがあるのか?
「あー・・・うんうん。最初はだめっていったんだけどね、ディーラーの指示したところにチップの一転賭けをするっていったらさぁ、オーナーと相談の結果オーケーがでたんだよ」
「お前・・・・そんなことしてたのか?」
そういえば、背後でなにやらゴチャゴチャしていた雰囲気があったが・・・・まさかコイツだとは思わなかった・・・(というか、思いたくなかったから無視していたのだが・・・やはりコイツだったのか・・・あーもーぐったり。)
「そうそう♪」
「・・・っていうか・・・・」
全部を1点賭けして・・・・こんだけ配当をもらっているっていうことは・・・つまり勝ったということで・・・・
「マジかよ!!!!!」
大きく驚くと・・・彼はテヘっと笑った。
その気持ち悪いこと・・・・っと、いや、今は許す。
うん。許しちゃうよ!
「えらい?」
「えろいえろい」
「そうじゃなくて!」
「あーはいはい、えらいえらい」
大サービスで頭をなでてやると、それこそうれしそうな顔をする。
あーもーほんとうざいな。コイツ。知ってたけど。
俺はその心を隠してとびっきりの笑顔をセシルに向けて、次はこのチップをまた倍倍に・・・といおうとしたところで、バルバリシアがセシルのすぐ後ろに立っているのに気づいた。

「それ、私の資金から増やしたものよね?」

外面だけの美女はにっこりと微笑んで、俺とセシルのチップをすべて没収した。

I'm A Cowgirl

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