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君への愛と免罪符 4

よみかえさない
そして久々すぐる
事は一刻を争う。

これまでじりじりしていたのが嘘のようにカインの行動は早かった。
先手は打たれたが、まだ後手にまわったわけではない。
ならばまだ間に合う。



夜会当日。
朝からハイウィンド家にくるように言われていたセシルは、家主に会うことなく侍女たちに囲まれ客室へと入れられた。
「カインは?」との言葉はまるきり無視され、瞬く間に下着に剥かれる。そして立ってください、腕を少しあげて、背筋を伸ばして、と色々な注文をセシルに投げると、あらゆる場所を測定しだした。
「まったく無茶をされるんですから」
「あら、でもやりがいがありますわ」
「あぁもぅ、間に合うかしら?」
「この生地、取り寄せておいて正解ね」
「あのレースはどこにやったかしら」
「まち針が足りないわ。誰かとってきてくれない?」
侍女たちはかしましく喋りながら、しかし一瞬たりとも動きはとめない。
セシルはしばらく唖然としていたが、やがて事態が飲み込めると声にならない言葉をもぐもぐと口の中で呟いた。

彼女はドレスなど持っていなかったから、カインがエスコート役を引き受けると言い出してから、そして夜会の当日の朝から呼びつけられた時から、ドレスアップをさせられるのだろうということは何となく気づいていた。
しかし、ここまで大がかりになるとは思っていなかった。
朝からは夜会に出る淑女としてのたしなみや、礼儀、最低限のステップを教え込まれ、それから夕方あたりに既製品のドレスを着て侍女に化粧くらいはされるんだろうという算段だった。
しかし、どうやらそうではないらしい。
セシルがちらっと見やった先には、たくさんのドレス…それも仕上がったばかりとみられるものが『さぁ、私を選びなさい』とばかりに並べられ、そのドレスたちをお針子たちが測定された数値にそってまち針をあてている。

「あら、騎士をなされているから大きなコルセットを用意したんですけど、そんな気遣いはいりませんでしたわね」

突然、がしっと腰を捕まれセシルはびくりと体を震わせた。
「あ、でもやっぱり筋肉質ですわね」
その侍女は、セシルが硬直しているのに気づいているだろうに、お腹を撫ですさりあまつさえ同僚に「あなたも触ってみなさいな」と勧める。
セシルはなんだか逃げ出したくなった。
彼女は女だが、騎士であり常に男社会に身をおいている。
そんな彼女にとって華やかな女性たちに囲まれているのは気後れする…というより、単刀直入にいうとひどく居心地が悪い。
「あら、照れていらっしゃるわ」
なんてクスクスと笑われると身の置き場がない。
なんという試練だ。
セシルは心の中で嘆いた。
これなら狭い豪に閉じ込められ、モルボルの臭い息を吹き付けられた地獄の訓練がいくばかましに思える。
しかし幸いにして、侍女たちは彼女をからかい続ける暇はないらしく、彼女はさっさと別のコルセットをとりだすとセシルの腰に巻き付け締め上げ始めた。



夕方、全ての準備を終え、セシルが控え室で一人魂を飛ばしていると、部屋がノックされカインが姿を現した。
カインは清楚な白いドレスを纏ったセシルを見て瞠目した。
朝から侍女たちに振り回されたのであろう彼女は、カインの入室にも気づかず、ぼんやりと窓に視線を投げている。
着飾らされた彼女の美しさはもちろんだが、そんな彼女の心ここにあらずといった横顔が若き未亡人めいた色香を漂わせているようでドキリとする。
「セシル」
名前を呼ぶと、彼女はぴくりと体を震わせカインを振り返った。
「あぁ、カインか。今日は一体どこにいっていたんだ?朝から姿が見えないようだったが…。ん?君、なんか痩せた?」
「あぁ、忙しくてな」
「なにかあったのか?」
表情を険しくするセシルにカインはそうではないと手を降った。
「うちのことだ。うちは小さいくせに格式だけは高いからな」
「うん?」
首をかしげるセシルにカインは苦笑して首を横に振った。
「なんでも…いや、先に…いいや、後にしよう。セシル、後で話がある」
「話?…そりゃいいけど…」
いつになく真剣な表情を見せるカインにセシルは戸惑う。
「ま、話は後だ。とりあえずエミリア姫のことを片付けちまおう」
「大丈夫かな?」
「あぁ、それ込みで駆け回ったからな」
「そうだったのか…。あぁ、だからそんなに疲れてるんだね」
すまなそうにするセシル。
自分のことなのだから、本来はセシル自身が動くべきなのだろうが彼女には後ろ楯もコネもない。ついでにまるきり根回しなるものの存在を今の今まで忘れていた。
「ほんとうにごめん…。何も考えてなかった…」
「あぁ、だからいいって。そのかわり、色好い返事を期待するってことで」
「あぁ、後でするって話だろう?もちろん、できる限りのことはさせてもらうよ」
「ならいい。言質はとったぜ」
カインはにやりと笑い、「じゃ、いこうか?お姫様」と、芝居がかったしぐさでセシルに膝まづき手を差し出した。

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