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ゼロの夜想曲 2-01

私は夢を見ていた。
遠く懐かしい夢だ。

故郷のラ・ヴァリエール。
懐かしい大きな屋敷で、私は息をきらせて走っていた。

「ルイズ、ルイズ!」

母が私の名前を呼ぶ。
だけど、私は母親に声を返さない。
母親のもとにも行かない。
むしろ、母親とその召使たちに捕まらないように庭を走り回っている。
何故?
だって、彼女は私を叱るから。二人の姉と私の事を比べて、出来が悪いと叱るから。
そんなの・・・私が一番わかってるっていうのに・・・私が一番悔しい思いをしてるっていうのに・・・。
植え込みの下に潜り込み、『秘密の場所』にでようとしたとき、母に言いつけられて私を探しているらしいメイドの声が聞こえてきた。
「ルイズお嬢様は難儀だねぇ」
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに・・・」
言われなれた言葉。
毎日のように聞く言葉。
だけど、それでも慣れることなんてできるわけがない。私は悔しくて悔しくて・・・涙が出そうになった。

私を探す人々の目を盗み、たどり着いた『秘密の場所』・・・それは、屋敷の裏手に作られた中庭のことだ。
表に作られた庭とは違い、こちらの庭にはあまり人がよりつかずほとんど私専用の庭といってもよかった。
季節の花が咲き乱れ小鳥が囀るその庭には池があり、池の中央には小島があり東屋が建っている。
池の畔には舟遊びを楽しむための洒落た小舟がういていて、嫌な事があると私はこの小舟に隠れるのが常だった。小舟の中には毛布が用意してあって、その中に潜り込む。そしてゆっくりと船にゆられて小鳥の歌を聞いていると、すこしずつ気分が落ち着いてくるのだ。

少しだけ涙を流し、ゆら・・ゆら・・と緩やかに揺れる小舟に寝転がり、青い空をゆっくりと流れていく雲を眺めていると・・・

「泣いているのかい?ルイズ」

声とともに、視界が遮られた。
上の方から私を覗き込んでいるのは、羽根付き帽子を被った十代半ばほどの青年、
「子爵さま・・・・」
近頃、近くの領地を相続した私の憧れの人だった。
「いらしていたの?」
私は慌てて体を起こすと、目の縁を指でぬぐった。
彼に会えた嬉しさと・・・そして、情けない所を見せてしまった恥ずかしさに顔がカッと赤くなった。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。“あのお話”のことでね」
そういって魅力的に笑う子爵様に、私の胸はますます高鳴り、恥ずかしさのあまりに赤くなった頬を両手で隠した。
“あのお話”。
それは・・・
「さぁ、ミ・レィディ。そろそろ晩餐会の時間だよ。一緒に行こう」
優しい瞳で手を差し出す彼に、私は引き寄せられるように自分の手を重ね・・・・
・・・と、その時、一陣の風が子爵のかぶっていた帽子を空高く舞い上げた。
「あっ」
思わず声を上げ、帽子をおった私は・・・

「ルイズ、Xデーだ。」

突然聞こえた子爵のものではない声にビクンと肩を揺らした。
慌てて声のした方を振り返ると・・・そこには、いつのまにか黒いローブを羽織った玲治が立っていた。
そして・・・私の姿もまたいつのまにか幼い頃の私ではなく、現在の私の姿になっている。
「玲治・・・・」
にわかに陽が陰り強い風が吹き出し・・・ローブの影で彼の赤い瞳が怪しく光っている。
「Xデーって・・・なによ」
「時がきたってことだ」
「時?」
「そう。準備は整った。黒い雷が落ち、世界は姿を変え、アマラへの路が開かれる」
「え・・・?」
彼が何を言っているのかさっぱりわからない。
だが・・・とても嫌な予感がする。なんだか・・・怖い。
私が一歩後ろに下がると、
「ルイズ」
彼が私の名を呼んで、それ以上離れることを禁じた。
そして・・・彼はゆっくりと右手を差し出してきた。

「さぁ」

彼の顔は影になっていてよく分からない。
だがその滲む赤から彼が微笑んでいるのはわかった。
それはそれはとても楽しそうに。

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