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隣人の友人

ピンポーンというインターホンに、ドアを開けると、そこには白衣姿の有栖川さんが立っていた。
真っ白な肌にげっそりとやせた姿。色素の薄い髪の瞳。整った顔は男らしいというよりは中世的な顔立ち。
背は平均身長ほどはあるのだが、その風体のせいかかなり小柄に見える。
「どうしたんですか・・・?」
何故白衣かというと、実はこの人、大学の教授(助教授だったかしら?)をしているのだ。といっても、社会学部の先生らしく、本当は白衣なんか着る必要はないらしいのだが、もう見慣れてしまった。
そして、その有栖川さんは、私の隣の部屋、作家をしている火村さんの友人でもある。
「真野さーーーん」
と、私の顔をみると、三十代とは思えぬ様子で泣きの入った声を出した。
「また・・・火村さんにいじめられたんですか・・・?」
そう、彼はよく、大学時代からの友人だという隣の火村さんの家を訪ねてくるのだが、そのたびに苛められているらしいのだ。まぁ、これは有栖川さんの話によれば・・・で、火村さんの方から言わせれば、苛められているのは火村さんの方らしい。
「そうなんですよ~~」
そういって、よよよっと泣きまねをする。
私はドアを広くあけて、彼を部屋の中へと招きいれた。
「すみませ~ん」
「いえいえ」
誤解しないでほしいのは、私と有栖川さんは付き合っているというわけではないということ。
それと、一人暮らしの私が、普段なら男の人をやすやすと部屋にいれるような女ではないということ。
なのだけど、何故か有栖川さんにはガードが甘くなってしまう。多分、教職についているという安心感と、そして彼の人のよさのせいだろう。ちなみに、彼を部屋にいれたのは、今日で五回目くらいだ。
彼は慣れた様子でリビングのソファに腰掛けた。慣れているというのは、多分、隣の火村さんの部屋の間取りと左右対称なせいもあるのだと思うのだけれど、こう“当然”といった態度には時々ドキリとさせられるのも事実。
私は、そうとは気取られぬようにキッチンに行き、紅茶を入れた。
有栖川さんはコーヒーの方が好みらしいのだが、あいにく私は紅茶派だ。しかも、ちょっと葉っぱを切らしているのでアップルティーだったりする。
そのアップルティーの入ったティーカップを彼の元に運ぶと、いい匂いやっとにっこりと微笑んで鼻を近づけた。
彼が一口二口と、紅茶を啜ったあとで、私は何があったのかと聞いた。
「それが、聞いてくださいよ!俺がこんなボロボロやというのにですねぇ・・・・」
と話し始める。
彼の話はとても面白いのだが、興奮してしまうと話の前後が入れ替わったり、急に全く関係のないエピソードを挟み込んだりするので、分かりにくい。
でも、私も教職についている身・・・。そういった話し方をする人が初めてではない。にこにこと笑いながら頭の中で時系列に置き換えながら話を聞く。

まずは、彼がボロボロのわけ
「俺のことめっちゃいじめる教授がおってですねぇ~、自分の論文の手伝いやらされてたんですよ~
 しかも、その学会には俺もでるっちゅーのに~・・・スライドの準備やらなんやらって、
 普通、自分の学生にたのめっちゅーのまで、わざわざ俺のこと呼びつけて、やらせおるんですよ~
 しかもしかも、学生どもにも、忙しいから質問は有栖川先生にするようにぃ~いうとったらしくって
 次から次に生徒はやってくるわ、相手してたらその教授から、言いつけておいた分は終わったかっと・・
 なのに、俺の方の論文は一向にすすまんでぇ~・・・・」
っということらしい。
学校というのは、自分もいるからわかるが、中々上下関係の厳しいところだ。
そして、やはりイヤミな人間というのは何処にでもいるらしい。嫌いなら無視してくれれば、あちらもこちらも気分的に一番楽だとおもうのだが、何故かやたらとつっかかってくる・・・。私も愚痴りたいところだけど、今日のところは聞き役に徹することにした。

ボロボロのわけその2
「で、ばーちゃん・・・あ、俺の下宿しとるとこなんですけどね。そこにもよう帰られへんで、
 夜は遅くまで働かされて、もう、かえるのも面倒で、自分の部屋のソファとかで寝たり、
 フラスコで入れたコーヒーのんだり、バーナーで肉をやいたり~・・・・
 あ~あと、公園でお風呂入ったりしてたんですよ~・・・・」
「ちょ・・・ちょっとまってください?」
私は思わずそこで話を止めてしまった。
聞き捨てならないセリフがたくさん出てきたような気がする。
「えと・・・フラスコで・・・・?」
「あぁ、それですか。そうなんですよ~。コーヒー入れる機械こわれてしもうて、
 しゃぁないから、フラスコとアルコールランプで最初はわかしとったんですけどねぇ。
 流石に時間かかるから、今ではバーナーです。で、それを試験管にいれて飲んでたんですけど、
 それには流石に生徒も気の毒やって思ってくれたらしくって、ビーカーになりました。」
「そう・・・なんですか・・・・で、お肉も焼くと・・・・・?」
「えぇ、そうですよ。医学部のやつらが解体したやつとかを」
・・・・・えええっと・・・・聞くべきでしょうか?聞くべきでしょうか????
「解体した・・・?」
「えぇ、もちろん人間やないですよ~。ははは」
・・・・これ以上は聞いてはいけないような気がします。だって、有栖川さんの白衣には茶色ともピンクともいえぬ染みが所々ついているからです。
「それは大変ですね・・・・・」
「えぇ、それも、生徒がかわいそうやって思ってくれたらしくって、昨日はキャベツを差し入れしてもらいました。」
「キャベツ・・・?」
「えぇ、丸々一個。一枚一枚剥きながら食べてたら、これまたマヨネーズを差し入れてもらいました」
一枚一枚、ぺろりとキャベツの葉を剥いて、むしゃむしゃと食べる有栖川さん・・・。なんだか、ちょっとかわいい風景だけれど・・・それって、生徒にも苛められてるんじゃありません?
「大学って、お風呂もついてないんですか?」
「あぁ、お風呂ですか?ありますよ。シャワールームとかもあります。本当は仮眠室も。」
じゃぁ、何故公園でお風呂をするんですか・・・・?
なんだか怖くて聞けなくなってしまいました。

そして、結局、火村さんとなにがあったのか。
そこに話がいくと、急にうるんと目をうるませてこちらをみた。
「それがですね・・・それがですね・・・」
「え・・・え・・・・?有栖川さん?」
まさか本当に泣くんではないかと慌ててしまったが、ぐいと彼は耐えたようだ。
「ちょっとついてきてください・・・」
そういって立ち上がると、玄関の方へと進んでいった。
一体何があるのだろうかとついていくと、彼は靴を履き、玄関をでる。
私もあわてて、靴を履き後を追うと、彼は火村さんのドアの前に立っていた。
「えと、どうしたんですか?」
「みてくださいよぉ・・・・」
そういって、有栖川さんはドアを指さした。彼の指先をたどると、ドアに一枚の紙が貼ってあるのが見えた。
「えっと・・・押し売り・勧誘・セールス・・・」
あぁ、よくある文句だな・・・っと思っていると、その次が違った。
「アリス・・・・アリスに類するもの及び、アリスの付属品・・・お断り・・・・」
「そうなんですよ~ヒドイと思いませんかぁ?」
「え・・・えぇ」
これは・・・確かにちょっと・・・
「俺が、こんなボロボロになって、親友の家でご馳走に預かろうと思ってるのに!」
「・・・・」
それはそれでいい根性だと思うのだが・・・・彼は、きっとわざとだろう、大きな声で喚いた。
「あ、あの・・・」
「この陰険サド火村!間抜け!非情男!冷血漢!!!!」
そんなことを言いながら、有栖川さんはがんがんとドアを蹴った。
私はその光景に唖然としながら・・・そして、同時にドアの向こう側からなにやら不穏な気配が漂ってくるのに気付き、ごくりと唾を飲み込んだ。
「この変態!鉄面皮!ポルノ作家~~~~」
なおも叫び続ける有栖川さんにばれぬよう、私はそっとその場から離れ自分の部屋に帰る。
ドアをしめて、鍵をかけたのと同時に、ガンっというドアが開き、何かにぶつかる音と、ぎゃんっという有栖川さんの悲鳴が聞こえたような気がした。

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