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出会いの日

私の名は、有栖川有栖。
こんな名前でも、一応本名である。私の両親が一生懸命に考えてくれたに違いない。いや、そう信じたい・・・。
その私は、今年大学の社会学部2年生になる。
自慢ではないが、学年での成績は常にトップを誇っている。
教授方の評判もよろしく、将来はこの学校で教鞭をとらないかとのお誘いまで頂いている。
まぁ、自分でいうのも恥ずかしいのだが、一応そういうことになっている。
そんな私は、自分の出るべき講義をすべて聴き終え、気まぐれに他の講義でもうけようかと教室を物色していた。
そして、ふと目についた階段教室へと足を踏み入れた。
本来、取る必要もない講義であるので、私は階段をとんとんと上りながら、一番後ろの席へと歩を進めた。
広い教室で、受けている人はまばら。しかもその殆どが前の方に詰めている中で、一番後ろの席は、ただ一人が腰掛けているだけだった。
しかも、私が一番すきな窓際の席に。
光があたっているのは、窓際から3番目の席までで、私はその男の二つ隣へと腰掛けた。
良く見れば、かなりの美丈夫であることが見て取れた。その男はまだ授業が始まっていないにも関わらず、何か一心不乱に原稿用紙にペンを走らせている。
レポートだろうか・・・?私はそう思って特に気にすることなく、持っていたノートとペンケースを広げた。

しばらくたって、やせた小柄な教授が入ってきて、マイクをいじりながら講義を始めた。
マイクをつけているので、声は聞こえるのだが、その男の言葉がはっきりしないこと。音は聞こえるのだが、言葉として聞き取ることが難しい。
しかもノートをとろうにも、字が本当に汚い・・・。まぁ、どうやら聞き取れた断片からして、参考本をそのまま読んでいるといった感じだし、あまり聞く価値はないと判断し、さて残りの時間をどうやってすごそうかと思っていたところで、私のとなりからカサリという音が聞こえた。
ふと、気になってそちらをみると、一番窓際の席でレポートらしきものを書いていた男が、文字を埋め終わった紙を私との間へと置いたところだった。
興味を惹かれて、そちらをみると、なにやらカギカッコで閉じられた文字が並んでいる。
おや?レポートではなかったのか?と思い、少しだけ読んでみると、どうやら小説のようだ。
私が身を乗り出しているのに気付いたのだろう、一心不乱にペンを走らせていた男が、ちらりとこちらをみた。
私はにっこりと愛想よく微笑んで見せた。
「読んでもええ?」
すると、男はさも不審な男だというように、こちらをにらみつけた。
私は、彼の視線に肩をすくめておどけてみせる。
「あかんか?」
てっきり駄目だといわれると思っていたが、彼は以外にも「ご自由に」と、綺麗な標準語で言ってから、また原稿用紙へと目を戻した。
私は、重なった原稿用紙を手にとり、順番に並べなおすと、最初のページから読み出した。
題名のところはまだ、空欄になっていて、二行目に名前がかいてあった“火村英生”とある。
彼の名前だろう。いや、もしかしたらペンネームということもあるな。そう思いながら私は三行目へと目を移した。

小説は、私はあまり読まない推理小説というやつだった。
いつのまにか、引き込まれるようにその文字を追っていた。すると、突然陽がかげるようにして読んでいた原稿に影が落ちる。
何事かとおもって、隣をみると、この小説の作者である男が、すっかり身支度を整えて立っている。
周りをみまわすと、とっくに授業はおわっているようで、他の生徒たちもちらほらとしか教室にはいなかった。
「もういいだろう?」
男がいうので、私ははっとした。
「あぁ~もうちょっとまって」
私はまだ、最後の一枚を残した状態だった。慌てて目で文字を追っているのと、隣から大げさなため息が聞こえた。
だが、彼は一応私が読み終わるのを待っていてくれた。
最後の一枚を読み終えて、私はふぅと息をはいた。小説はまだ半ばといったところだろうか。
殺人が2件起き、まだ犯人の検討もつかないところでその原稿は終わっていた。
私は、その一枚を読み終わった原稿の一番下に置き、とんとんと整えると、火村と思われる男へと差し出し、聞いた。
「その続きはどうなるんや?」
すると男は少し目を細め、
「・・・凡人には想像できないような大どんでん返しが待っている・・・」
といった。私は興味を惹かれ「へぇ~」と素直に感心してみると、男は、なにやら考えるように人差し指で唇をなぞり、
「気になるのか?」
と聞いてきた。私はもちろんだという意味をこめて、
「アブソ・・・」
言おうとした私は、とっさに身をそらしてそれを避けた。
「な・・・なんでいきなり殴りかかるん!!!!」
「いや・・・すまん。なんとなく殺意を抱いてしまった。」
「あ・・・危ないやっちゃなぁ・・・・」
彼は、私に向かって突き出していた拳を引っ込めると、にやりと私に向かって笑いかけた。
そのあと、私は彼にカレーをおごろうという話になったのだが、彼が頑として、カツ丼を主張し、私はなくなくその要望を聞いたのである。
これが、私、有栖川有栖と、その後長く付き合うことになる火村英生の出会いである。

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