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五月の部屋 11

あれからまた3日が過ぎていた。
桜庭は相変わらず研究室に一人こもり、試験管を振っていた。
噂に聞いた火村先生の機嫌は上々だという。
ということは・・・彼に依頼されたものもどうやら無駄になってしまうかもしれない。
そう思っていたとき、小さく部屋のドアがノックされ返事を待たずに扉が開かれた。
入ってきたのは予想通り。

「有栖川さん・・・」
名を呼ばれたアリスは、にっこりと微笑みいつものようにパイプ椅子に腰掛け桜庭を見上げていった。
「コーヒー」
「・・・此処を喫茶店か何かだと勘違いしていません?」
「してへんよ。ただ・・・」
「ただ?」
コーヒーサーバーへ向っていた足を止め振り返ると、アリスはにっこりと笑っていた。
「コーヒー専門店くらいには思うとるかも」
面白くもないアリスの言葉に桜庭は小さく首を振り、いつものように伏せていたカップを取りコーヒーを入れ始めた。

大きな実験用の机を挟んで向き合いコーヒーを楽しむ。
二人の間に会話はなく、さて、どうやって口火を切ろうかと二人ともがタイミングを計っていた。
そして、しばらく。
口火を切ったのはアリスの方だった。
「えっと・・・一応、お礼いっとくわ」
「・・・・お礼ですか」
「ん。ありがとぅな」
そういったアリスの頬は僅かに赤い。
そのことに桜庭は隠すこともせずにつまらなそうな顔をした。
「あれ?喜んでくれへんの?」
「良かったとは思いますが、喜ぶのとは違いますね」
「壊れればええって思うてた?」
両手でカップを持ち恐々とした風に聞くアリス。
桜庭は、こくりと頷いた。
「えぇ。壊れればいいと思っていましたよ」
それは本音。
でも。
「でも、壊れないってことくらい分かってましたから」
さらりと言った桜庭は、僅かに目を伏せてコーヒーを口に運ぶ。
その様子を見ていたアリスは、ほぅっと小さく息をついた。
「桜庭君、大人やねぇ」
ため息をつくように言うと、桜庭はクスリと笑って視線を上げた。
「貴方たちがお子様なだけだと思います。」
「貴方たちって・・・火村もか?」
「もちろん」
「うは~・・・そんなん火村に言うやつ初めてみた!」
「貴方以外に?」
桜庭の切り返しにアリスは黙り込み非難がましい目を彼に向けた。
「今日の桜庭君、めっちゃ意地悪やわ」
「妬いているだけです。気にしないでください」
拗ねるアリスに、平然とした桜庭。
まるで自分が酷く幼い子供のような気持ちになってアリスは気まずそうに視線をそらし、冷めだしたカップに口をつけた。

桜庭が喜んでくれると思っていた。
よかったと微笑んでくれると思っていた。
事の顛末をこと細かく聞かれるものだと思っていた。
けれど、今日の桜庭はとても冷たい。
まだ自分に気持ちがあるのかと自惚れるわけではないが、これはちょっと冷たすぎるように感じる。
まるで・・・と考え始めて、アリスはあることに気付きフッと笑った。
不思議そうにアリスを見つめる桜庭。

彼の態度は・・・“拗ねた”時の火村にそっくりなのだ。

だから、

「君、拗ねてるん?」

試すようにアリスが言うと、桜庭は一瞬だけ眉を潜めアリスの視線から逃げるように立ち上がった。

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