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五月の部屋 06

廊下を歩いていたら、駐車場に、今では見かけない古い型のブルーバードを見つけた。
あれから3日が経っていて・・・このまま離れていくんじゃないかと半ば覚悟を決めていた。
それが、あのポンコツを見た途端、痛みを伴って覚悟が崩れていった。
いや、分かっていたのだ・・・。
10年も抱えてきた思いをそう簡単に諦められるはずがないことなんて。
出来るならとっくにやっている。
ため息が出る。
研究室に帰る足がほんの少し・・・
これはどっちだろう?
俺は自分の足元を見た。
早くなっているような・・・・それとも遅くなっているような・・・。
「心情そのままだな・・・・」
つぶやいた言葉は、誰もいない廊下に広がって消えた。
意識して足をとめる。
校内禁煙
張り紙を横目に、窓を開けると、懐からキャメルを取り出し一本咥えた。
少し・・・気持ちを落ち着かせるはずだった・・・が、それがいけなかった。

向かいの校舎、ごく自然に動かした視線にそれがとまった。
最初は何が気になったのかわからなかった。
あの部屋はたしか・・・・誰かの研究室のあたりだな・・・くらいだ。
しかし、何故それが・・・?
そう思ったとき、窓が開けられて、そいつが目に入った。
桜庭・・・・。
人の名前と顔を覚えるのが苦手な俺が、はっきりと覚えている人間の一人。
彼は、部屋の中の人物とはなしているのだろう、首を後ろに向けた状態で、窓を開けて、すぐに中に引っ込んだ。
中にいる人物は・・・・
「は・・・・考えるまでもねぇ・・・・」
気付いたら、咥えていたはずの煙草は下に落ちていた。
むしゃくしゃする・・・・。
握ったままになっていた、キャメルの箱にすら腹が立って窓から投げ捨てた。
子供のように地団太を踏みたくなる。
だが、まさか本当にそうするわけにもいかない。
泣きたいような、怒鳴りたいような、何処にもぶつけられない気持ち、もてあます。
10年我慢したはずなのに・・・我慢はなれているはずなのに・・・・それでも耐えられそうに無い衝動。
気付いたら、俺の拳は、ガラスを突き破って向こう側に出ていた。

誰もいないことをいいことに、ガラスをそのままに部屋に入った俺は、部屋を見渡し、タオルを引っ張り出すと、拳に巻きつけた。
医務室にいくのは吝かではないが、怪我の言い訳がない。
無意識で窓ガラスをぶち割ったにしては綺麗に、叩き割ったようで、それほど酷い怪我にはならなかった。
が、ささくれ立ったガラスが、一直線に手の甲を10センチほど切っていて、なかなか壮観だ。
血が止まるのが遅い。
それに・・・ジンジンと痛い。
それに伴って、また機嫌が下降してゆく。
左手で右手を押さえていると、学生が数人入ってきたが、俺の不機嫌さを察して、そそくさと出て行った。
学生には悪いと思うが、にこやかに対応できる精神状態ではない。
今、無理に対応したら、きっとチクチクとイヤミをいった上に泣かれてしまう。
それで俺は、それにすっとするどころか、もっと機嫌を悪くするのだ。
それは避けたい。
そして、そのとき、またノックが・・・。
俺は、うるせぇっとでも怒鳴ってやろうかと思ったが、それをどうにかとどめ、入室を許可する。
ジンジン。手が痛い。
ゆっくりと内側に開く、ドア。
姿を現したのは・・・・
「アリス・・・・・」
泣きはらしたような目をした、我が十年来の片恋の相手。

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