スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

五月の部屋 04

自分では酒量を調整していたはずだが、立ち上がった途端に世界がぐらりと傾いた。
その揺らいだ体を素早くアリスが支えた。
「やから、飲みすぎやって言うたやろ」
そういうアリスは何処かたのしげだ。
彼も俺ほどではないが、かなりの量を飲んでいたと思うが、許容量が違うらしい。
「がんがん酌しといてよく言う・・・・」
するとアリスはくすくすと忍び笑いを漏らした。
会計をすませ、外にでると心地よい涼風が体を撫でた。
体のあら熱をとられ体が一瞬震えた。
「さむいんか?」
ふるりと震えた身体に気付き、アリスが心配そうに顔を覗き込む。
「いいや。」
身体をささえるアリスとの距離が妙に近い・・・。
俺は不自然さを出さぬように自然に顔をそらした。
アリスが時折こちらをうかがうのは周りの視線を気にしているせいか・・・。
「なぁ・・・」
無言で歩くことしばし・・・住宅街に入り人通りがなくなるのを見計らったようにアリスが口を開いた。
ふらつく脚に気をとられ、アスファルトばかり見ていた俺は少し驚いた。
「なんだ?」
「君、よっぱらっとる?」
探るような目。
おかしな事を聞く。
自分で俺を支えといて。
「疑うなら此処で腕をとけよ。見事にひっくりかえって見せるぜ」
つまらない俺の言葉にもアリスはいちいち愉快そうに笑う。
「そうやなくて、頭ん中の方や」
「頭ん中?」
「そう。君、べろんべろんなっとっても妙に頭だけ冴えとることあるし。」
俺はアリスに寄り掛かったまま肩をすくめる。
「お花畑で蝶々を追い掛けてる気分だぜ」
するとやはりアリスはさも楽しそうに笑う。
「おまえも気分がよさそうでなによりだよ」
俺がいうと、アリスはとろけるような笑顔で俺を見た。
あわてて視線をそらすとアリスは寄り掛かるように俺に体を寄せた。

バランスを崩した俺が、民家の塀に背中をつけると抱き合ったような格好になる。
俺の肩口に顔をうずめるようにして寄りかかるアリス。
「おい、これじゃぁ、どっちが酔っ払いだかわかんねぇだろ?」
狼狽を冗談に紛らす。
アリスは何も言わずにくすくすと笑う。
おかしな夢を見ている気分だった。
酔っているとは言え、アリスから俺に抱きつくなんて・・・
「アリス?」
俺の肩口に頭を埋めたアリスは俺の両脇から手をのばし、背中に回す。
どくどくと血がこめかみのあたりで脈をうつ。
一体これは何の冗談なのか。
アリスはぴったりと体をあわせて身動きをしない。
アリスのつけている香水だろうか、甘いような匂いがふんわりと俺の鼻腔をくすぐる。
俺は両脇に垂らした腕を彼の背中に回したい衝動を必死に耐えた。
「アリス・・・?」
もう一度、名を呼び俺は自分の声が情けないほどにかぼそいことに気付く。
何の冗談だ・・・・。
俺をからかっているのか・・・?
それとも、俺は夢でも見ているのか・・・・?

しかし・・・途端に浮かんだ、嫌な予感。
それによって血の気すら引いていき、指先が冷たくなった。

「相手を・・・・間違ってる」
俺の言葉にアリスの体が小さく跳ねた。
「まちごうとるとは思わん・・・」
「間違ってる・・・・」
痛む胸を無視してもう一度言うと、アリスは静かにはなれた。
アリスの目にあるのは非難の光。
しかし・・・。
「そやな・・・君がそう言うんやったら、そうなんやろな」
アリスの顔から先程の楽しそうな表情がきれいにながれおちている。
それどころか、さきほどまでほんのり赤く染まっていた頬が青白く見える。
「君はほんま・・・」
怒りをこらえるような、泣きそうなのをこらえているような・・・。
「なんだ?」
「ほんまに・・・・」
「アリス?」
立ち尽くす俺の前で、アリスはこうべを垂れる
「・・・・なんでも・・・・ない・・・」
アリス・・・名を呼んで触れようとした手をアリスは弾くように払い除ける。
その拍子に、何か・・・ちいさいものが、アリスから落ち、それはアスファルトに小さなしみを作った。
驚き顔を上げると、アリスもまた顔を上げこちらを見ている。
その目は涙をいっぱいにたたえ、真珠のような大きな粒を絶え間なく流している。
「あ・・・・りす」
もう一度のばしかけた手は、またもアリスにはじかれる。
乾いた音が、住宅街に響き、夜に吸い込まれた。
「帰る・・・・」
「帰るって・・・お前・・・もう、終電も・・・」
「タクシーでかえるわ!」
「おい、何怒ってるんだ?なんでいまさら・・・」
混乱する俺の前でアリスは尚も涙をながし、それからふいと身を翻す。
「アリス!」
「ついてくんな!」
「まてよ!」
多少ふらつきながらあとを追うが、アリスはそれを冷たく拒否する。
「アリス!」
いい加減にしろ。そんな気持ちで名を呼ぶと、ようやく振り返った。
しかし、ほっとしたのも束の間。涙を流したまま、アリスは
「間違いやと思うなら、追ってくんな!アホ!」
言って、走りだした。
俺は・・・・俺は・・・・・・追い掛けることができなかった。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。