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五月の部屋 02

大きなテーブルがベッドのように横たわり、それだけで狭い部屋はほとんどを占領されていた。
机の上には小さなガラスビンがずらりとならんでいる。
アリスがその部屋に入ったとき、桜庭は窓を背に光を浴びる形でたっていた。
手には試験管をもっており、それを小さく揺らしている。
「こんにちは」
桜庭は、正面からの光に目を細めるアリスに挨拶をする。
「どうも」
アリスはそう返し、後ろ手にドアを閉めた。

慣れた様子でパイプ椅子に腰掛けたアリスを桜庭はちらりとみてすぐに試験管に目を戻した。
試験管の中には透明な液体が3センチほど入っている。
「火村先生の所には顔を出したんですか?」
「うん。此処に来る前にな。」
「何か言われましたか?」
桜庭の質問にアリスは一瞬考え、いいやと首を振った。
アリスの言葉に含み笑いがあるのに気付いた桜庭は、楽しそうな微笑みにぶつかり、慌てて目をそらした。
出会った頃からかわりないアリスの笑顔に意地の悪いものが交じりはじめたのは間違いなく自分のせいだと桜庭は思っている。
試験管を置き、桜庭はため息をついた。
「コーヒー・・・入れます」
「ん。」
愛想がいい、人付き合いがいい、人懐こいと称される桜庭だが、アリスに対してはそっけない。
それは、意識してのものでもあるし、彼の前だからというのもある。
「近ごろ、火村先生の調子が悪いって噂がたってますよ。」
「ふぅん」
「試験時期でもないんで、有名なフィールドワークの方でトラブルを抱えてるんじゃないかと皆いってました」
「へぇ~・・・」
まったく興味のない返事に桜庭は少しだけ苛立った。
「有栖川さんのせいですよ?」
桜庭がアリスを伺うと、彼は目をきらきらと輝かせて楽しそうにほほえんでいた。
そして、
「俺だけのせいやない。引き金ひいたんは君や。」
と、にこにこと微笑みながら桜庭を指差して言った。
「・・・・すかさず次の弾丸を装填したのはあなたですよ。」
桜庭はほんの少し眉間に皺をよせて言う。
「煮え切らん火村が悪い」
「俺は・・・・アリスさんのが悪いと思います。」
桜庭がいうとアリスは心底驚いたというように目を見開いた。
「なんでや?ちょーっと煽っとるだけや」
それが悪いんですよ。
桜庭は心の中で呟き、熱いコーヒーの入ったカップをアリスの前に置いた。
「いまさらですが、あの台詞後悔してるんです。」
「やっぱり火村先生の方が・・・・ってやつ?」
アリスの揶揄するような言葉に桜庭は苦く笑いながら頷いた。
「それがなければ、こんな不様なことにはならなかったでしょう?」
「不様かどうかはしらんけど・・・君の言葉で火村の気持ちがわかったんには感謝しとるで」
二人は目をあわせ、相手を探るように見やった。
そして、どちらからともなく放した。


桜庭がアリスに思いを告げたのは、一月ほど前の事だった。
火村はここ数週の間に二人が知り合ったと思っているが、桜庭が一方的にアリスを知ったのは一年前、二人が会話をかわすようになったのは半年を遡る。
桜庭が一方的に熱をあげ、アリスに思いを告げた。
アリスは驚いた顔をしたあと、気持ちは嬉しいが応えることはできないとその場で返事をした。
その後につづいたのが、先程、桜庭が後悔していると言った台詞だ。

“自分じゃ火村先生におとるのか?”

“火村先生の方がいいのか?”

そんな事を口走らなければこんな滑稽なことにはならなかっただろう。
アリスが火村と桜庭をつかって馬鹿な遊びをはじめるなんて事態には・・・
アリスは火村の友情から越えた恋情を知り、こんなゲームをはじめた。


「さっさと言うたらええんや。」
嫉妬心を煽っていったい何がしたいのか。
そんな事を聞いたら、
「あいつの完璧な顔が崩れるのが見たい」
と、アリスはいったものだ。
桜庭は微妙に答えがずらされているのには気付いたが、あえて指摘しなかった。
「俺、あの言葉であなたがもうひとつの事にも気付いたと思ってるんですけどね」
かわりにそう言うと、アリスは桜庭が何を言おうとしているのかを察してわずかに顔をしかめた。
それ以上はいわないでくれ。
そんな無言の願い。
それに気付かぬ桜庭ではなかったが、あえて無視をして続けた。
「つまり、あなたの気持ちです。」
言ってしまうとアリスはあからさまにいやな顔をして、そっぽをむいた。
桜庭の胸を失った恋ジクジクといじめた。
「アリスさんはやっぱりひどいや。」
「あて馬にしたからか?」
「あて馬、噛ませ犬、道化・・・もっとあげますか?」
桜庭の言葉にアリスはたくさんだと言うように手を振った。
「でも、もし・・・・」
「もし?」
「火村先生が諦めてしまったらどうするんです?」
桜庭が聞くと、アリスは目を細くした。
「そんときはゲームオーバー。俺の負けやな。」
「へえ・・・。それで?俺への救済処置は期待してもいいんでしょうね?」
アリスの瞳をまっすぐに見ながら桜庭が言うと、アリスは考えるように一瞬をおいた後、
「・・・ええよ」
といった。だが・・・
「冗談です。」
桜庭はそういうと、視線を手元のコーヒーカップに移した。
「なんや。振られてしもた」
何をいってるんですか・・・・。
そんな言葉を飲み込んでただ桜庭は肩をすくめた。

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