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オルゴール

「アリス、これは?」
話しかけられて振り返ると、火村が四角い箱を持って立っていた。
締め切りに追われ、机にしがみついて離れない私に火村は呆れ、私の部屋の掃除夫を自ら買って出ていてくれていたのだ。
「ん・・・?あ・・・あぁ」
数秒、彼の持っているものの正体が私にはわからなかった。
っが、深みのある茶の木箱に私の記憶も呼び起こされる。
あれは・・たしか・・・
「じいちゃんのや」
「あけてもいいか?」
「うん。ええよ」
私は、椅子を引き、彼がそれを後に聞こえるはずの音を待った・・・しかし・・・・
「あれ?音でぇへんな」
私の言葉に、火村は箱を見つめながらオルゴールなのかとつぶやいた。
そして、手を中にいれると、何かを取り出した。
「へぇ。洒落てるな」
そして、私に見せたのは銀のリングだ。
しかも、二つ。
私は思わず微笑んでしまった。
「やろう?」
「これも、じいちゃんの?」
「そ。それとばあちゃんのやな」
祖母が亡くなり、祖父がなくなったときに私が譲り受けたものだ。
祖父が若い頃に戦地で買ってきたというオルゴールと・・・そして、祖父母の結婚指輪。
祖父が私と私の将来の妻へと残してくれていたものだ。
それを話すと、火村は少し不思議そうに首を傾けた。
「宗教観や生死感は人それぞれだろうが・・・普通は一緒に墓にいれたりしないのか?」
「あぁ、うん。それやけど、ばあちゃんは普段は指輪をはめてなかったらしくてな。
 じいちゃんも母ちゃんも全く気付かんで、荼毘にふした後に気付いたんや。
 で、お墓に入れようって案もでたらしいけど、じいちゃんがそやったら・・・って・・・」
後は先ほど述べたとおり。
古臭く高価なものでもないが、二人とも最後まで仲良く寄り添っていたから・・・と。
そう。私から見ても、本当に仲の良い夫婦だったのだ。
毎朝二人で散歩に出かけ、一緒に買物をし、そして年に何度かは一緒に旅行をするような。
「ふぅん・・・」
私の言葉に何か考えるように、指輪を見つめる火村。
珍しいこともあるものだ。
こんなものに一番興味のなさそうな男なのに。
私は、口を出したい気にもなったが、下手につっつくと機嫌を損ねかねないと私は開きかけた口を閉じる。
なにしろ、今日の夕飯は彼が腕を振るうことになっているのだから・・・私は黙ってパソコンに向き直った。
そして、またキーに指を走らせる・・・っと・・・
「なぁ、アリス」
「ん?」
「このオルゴールは音がなっていたんだよな?」
「うん。そうやで。んー・・・2年くらい前まではなっとったな」
「じゃぁ、俺がこのオルゴールなおしたら、この指輪、くれないか?」
「は?」
私は彼の話を聞きながらもキーを打っていたのだが、流石にその言葉には驚いて指を止め、火村を振り返った。
何の冗談だろうかと思ったのだが、彼はいたって真面目な顔をしている。
「片方でいいんだが」
「・・・・君・・・ダメにきまっとるやん。それは、俺と俺の将来の嫁のもんや」
一瞬何をいっていいのか分からなくなった私は、白くなりかけた頭でなんとかそれだけを答えた。
すると、火村はあからさまに不機嫌そうな顔をする。
一体なんなのだ?
「なんだ。お前、まだ結婚を諦めてなかったのか」
「はん。ほっといてくれ。俺は40くらいまではあきらめへんねん」
「ふぅん。」
なんだ、からかいたかっただけか・・・私はまたパソコンに向き直った。
すると、また・・・キーをたたき出した頃を見計らって
「じゃぁ、お前が40になって独身だったらこいつの片割れをくれよ」
火村が私の背に向けて言う。
私はまたもや、指を止め、彼を振り返った。
何故、そんなにその指輪にこだわるのだろう?
私には意味がわからない。
その指輪は、銀の、何の装飾もないシンプルな輪。
決してプラチナなんかの値のはるようなものではない。
いや、もちろん、金には変えれない価値があるには違いないのだが・・・そんなものにこの男は興味はないはず・・・。
「そんなにその指輪がきにいったんか?」
「まぁ・・・そんなところだ」
「でも、君の指にはまらへんやろう」
うちの祖父母は小柄な人で、指も細かった。
私の指でも小指が根元まで、他の指では第二間接までがせいぜいだ。
しかし、火村は気にした様子はない。
「そんなのはいいんだよ。ようは気持ちの問題だ」
どんな気持ちなんだ?
言いかけてバカらしいと首を振った。
彼の考えることは、時々、私にはさっぱりわからない。
「はいはい。気持ちね。まぁ、その時は好きにしたらええよ。」
言いながら手を振り、また私は原稿に向き直った。
その背に、ふっと息をつくような音が聞こえたから、彼は笑ったのかもしれない。
私の背に、彼がまた何か言った気がしたが・・・今度こそ私は物語の中に引き込まれていて彼の言葉に返事を返すことはできなかった。

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