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缶コーヒー

府警の一室を煙で真白にして、それから腰を上げた。
気分を鎮めるために、一箱もの煙草が必要だった。
事件事態はそれほど難しいものではなかった・・・。
ただし、そこに絡んでいた人の嫉妬と憎悪・・・いや・・・もう・・・思い出したくもない。
また、懐の煙草に伸びそうになった手を、意思の力で無理にとどめ、部屋を出た。

女性職員がちょうど廊下を歩いているところで、俺に気付いて一つ頭を下げた。
俺はそれに挨拶を返して、正面の窓を見た。
「もう・・・真暗じゃないか・・・」
ぽつりとつぶやき、腕時計に目を落とした。
すでに11時を半分ほども回っている。
10月も半ばに近づき、夜ともなればかなり肌寒い。
そろそろコートを出さなければいけないかもしれない。
そんなことを思いながら、ゆっくりと廊下を歩いた。
ついつい下がりそうになる視線を無理に上げ、顔見知りの刑事たちとたわいのない雑談を交わす。
しかし・・・彼らの表情が冴えないことから、自分が傍目にみても参ってみえるのだと気付いた。
無理に・・・普通に話す必要もなくなった俺は、適当に会話を切り上げ、もう視線も上げることはなく、足元だけを見つめて出口へと歩いた。

疲れた・・・。
本当に・・・もう・・・疲れた。
このまま、高いビルの屋上まで上って、ふっと足を踏み外したくなるほどに。
今から、京都まで帰るかと思うと・・・気が滅入る。
また、煙草が吸いたくなった。
受付を軽い会釈で通り、正面玄関から出た。
途端、冷たい風が俺を包み、一度ふるりと身体を震わせた。

年季の入ったベンツのキーを取り出し、今朝から止めっぱなしだった愛車の元へと歩き出す・・・・と。
「よぉ」
聞き覚えのある声。
そちらを見ると・・・・すっかり冬の格好をした10年来の友人が立っていた。
ぶかぶかのコート、両手をポケットに突っ込み、ブルーバードに寄りかかっている。
「何・・・・してるんだ・・・?」
立ち止まって聞くと、彼はふっと笑ってこちらに寄ってきた。
「何って迎えにきたんやけど。」
「電話はしてないはずだが・・・?」
それどころか、今日、此処に出向いていることすらも話してはいなかったはず・・・そういうと、彼は、そうやったっけ?っと悪戯っぽく言った。
大方・・・府警の誰かがおかしな気を回したのかもしれない。
「まぁええやん。さっさと帰ろ」
アリスは俺の腕を引っ張る。
「ちょっと待てよ、アリス・・・車が・・・」
「そんなんええやん。此処に停めとる限り、車上荒しの心配はあらへんで。」
「だが・・・」
「あーもぉ煩いな。さっさと乗れ」
彼は俺を助手席の方に引っ張ると、ドアを開け、俺を押し込む。
そして、ご丁寧に、シートベルトを締めろと言ってドアを閉じた。
小走りで車を回ったらしく、すぐに運転席が開き、アリスが乗り込む。
そして、エンジンをかけたあと
「あ、そうや。そこのコーヒー。さっき買ったやつやけど。飲んでええで」
と、ハンドブレーキの前に置かれた缶コーヒーを指した。
「あぁ・・・」
まぁ、車の一台くらい・・・それに、あのベンツなら警部にも知られていると、缶コーヒーに手を伸ばし・・・
「お前、気が利かないな・・・なんで冷たい缶コーヒー何だよ」
文句を言うと、サイドブレーキを引き、署から出ようとしていたアリスが怪訝な顔でこちらを見た。
「何いうてるん。ホットに・・・・」
言いかけて一度口をつぐみ、不機嫌そうに前を見た。
ウィンカーを右に出し、車の流れを見、それから車を出す。

「いつから待ってたんだ?」
車を出してしばらく、冷えてしまった元ホットコーヒーを半分ほど飲んだ頃に聞いてみた。
アリスはどこか不機嫌そうな顔で前を見ていたが、俺の言葉を聞くと、照れたように
「実は、夕飯もまだなんや」
と肩を小さく震わせて笑った。
それを見て、俺も自然に口元が緩んだ。

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