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地位と名誉と金 04

赤星のことを女好きのするハンサムな男だと思っていたが・・・これは格が違う・・・というのが、彼をみたアリスの第一印象だった。
ゼニアのスーツをりゅうと着こなした長身の色男。日本人の癖に堀が深い。きりっとした眉に猛禽類のような鋭い(鋭すぎる)瞳、薄い唇、太い首に厚い胸板・・・の割りに引き締まった腰の位置は高く、足も長い。
嫌味・・・いや、ぶん殴りたくなるほどいい男だ。もちろん・・・彼の執事になったからにはアリスにそんなことは出来るわけもないのだが。

「よろしくお願いします」
きっちり90度のお辞儀をし、カウントを五つとって顔を上げる。
デスクの向こうに座った火村は、じっとアリスを見つめそれから手元の書類に目を落とした。
「・・・本当に来たのか」
ため息をつくように放たれた言葉に、ピクリとアリスの眉が動く。
「それは・・・どういう意味ですか?」
「赤星はお前を手放さないと思っていたんだがな」
「・・・つぶすおつもりで、要求を出されたんですか?」
怒りをにじませるアリスに火村はちらりと視線を上げ、面白そうに口角を上げた。
それに思わずふざけるなと怒鳴りつけたくなったアリスだが・・・
「だとしたら?」
笑いを含ませたそのセリフ。
それをすれば彼の思い通りになってしまう。
そのことに気づき、奥歯をぎゅっとかみ締めた。
彼に逆らえば・・・自分が此処から怒って出て行ってしまえば・・・赤星はつぶれるしかなくなる。
もし、そうなったとしても優しい彼は怒らないだろう。
だが・・・それではアリスの気がすまない。そこまで甘えられない。自分が特に優秀な執事であったということは無いが、それでもこれまで尽くしてきた。そしてこれからも尽くしていくつもりだった。
実際には実質的には赤星との契約は切れてしまっているが、アリスはまだ赤星のために働いているつもりだ。たとえ、火村に膝を折るとしても、それは彼に屈服したからじゃない。赤星のためだ。
「・・・意外に冷静だな」
反論してこなかったことを面白がるような火村。
「・・・どういう意味でしょう。貴方とは初対面のはずですが?」
火村はアリスをじっと見つめ・・・それから、ふいと視線をそらしたかと思うとバサリと書類を振り、もう用は無いというように椅子に深く掛けリラックスした様子で書類に目を通しはじめた。
アリスの存在を完全に無視して。

アリスはしばらく反応を待った後、一つため息を落した
どうやら赤星をつぶすための言い訳のために差し出された身らしいが、それで赤星が助かるならば安いものだろうとわが身をそのため息一つで諦め、改めて部屋を見渡した。
エイト・グループの本社、総帥である火村のプレジデントルーム・・・・。
20畳ほどの大きな部屋はかなり立派なもので、赤星に勤めていたからこそ飲まれることがなかったものの、あまり居心地がいいとはいえない。
毛深なじゅうたんの敷き詰められた室内には、洒落た応接セットが一つ、テーブルの上には見事な花が飾られている。グレイの色見がほんのわずかについた白い壁には趣味のよいモダンなアートが数枚飾られている。
そのほかには火村の座るデスクが一つと書棚が一つあるきりだ。
少しものたりないような気がしないでもないが、わざとスペースをとって洗練された知的な雰囲気。
部屋の左側に一つ扉があるのでそちらにも一室部屋があるらしく、そちらは彼のもう一つの執務室・・・もしくは秘書室か仮眠室といったところだろうと想像がつく。
突き当たり・・・今火村が座っている背後が全面ガラス張りになっていて、高層ビルが下半分に、そして上半分には青空が広がっている。
赤星の部屋は雑然としていたが・・・こちらはなんとも近代的な・・・まるでドラマのセットのようだ。
ほぅと思わずため息が出る。

火村は完全にアリスを忘れてしまったように、今度は万年筆を取ってなにごとかを書き連ねている。
アリスは勝手に帰るわけにも、そして応接セットのソファに座ることも出来ずにただ突っ立っていた。
お茶くらい用意しようかとも思うのだが、彼が紅茶を好むのか、それともコーヒーを好むのか分からない。それを聞こうにも彼は仕事中であり、それを邪魔してまで聞くのも憚られる。
結局・・・突っ立っているしかない。
このまま夕方までたたされていたりして・・・と考えて、それが現実になりそうでげんなりとした。
それどころか、夜まで突っ立ったまま・・・彼はさっさと仕事を終わらせて、アリスの横を通り過ぎて帰ってしまうような気すらした。
そうなったらどうすればいいのだろうか。
明日の朝までたっていなきゃいけないのか?
いや、その前にセコムの警備員に捕まったり?
そして結局は赤星をつぶす羽目になる・・・なんてことはごめんだな・・・と暗くなりながらじっと火村の背後の青空を見つめた。
横に長い窓は映画のスクリーンを思わせて美しい。
そういえば、こうやってゆっくり空を見つめることは久々のことだ。
ぼーっと眺めていると、雲がゆっくり右から左に流れているのが分かる。
このビルよりも背の低いビルが屋上庭園を造っている。空には時々カラスやツバメが飛んでいて、遠くのほうはスモッグに煙っている。
それからもっともっと遠くを見透かせば、淡い青の山並みが・・・

「おい」

「へあ?」

突然声をかけられて、ほうけていたアリスは間の抜けた声を上げた。
そして、次の瞬間ハッと気づいて顔を赤くし、それから「すみません」と謝った。
両の拳をぎゅっと握り締め、カクンと顔を下に向けたアリスの耳が真っ赤になっている。
火村はアリスの反応にあっけにとられたように目を見開き・・・それから、クククッと可笑しそうに肩を揺らして笑い出した。

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