スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

地位と名誉と金 03

よみかえす気力ナシ
硬い表情で帰ってきた彼は、アリスに一瞥も無く・・・ただ、通り過ぎ様に部屋に来るようにとだけ言って、足早にエントランスを横切り階段を上った。
使用人の何人かは不思議そうに彼の背中を見送ったが、近頃、彼の事業が上手くいっていないのを知っている。また、何か問題ごとが起こったのだろうと、気の毒そうな目を一瞬向け・・・しかしすぐに自分の業務へと戻っていった。
アリスは誰よりも長く彼の背中を見送ってから、ハッと・・・目をしばたくと紅茶の準備をしに食堂の方へと足を向けた。

そして、聞かされた言葉に、

「は・・・?」

思わず間の抜けた声を発し、そのままダラリとアリスはあごを下げた。

「なん・・・・ですって?」
「・・・まぁ、一度で納得できないのはわかる。何度でも言う。これは命令ではなく、私の要望だと思って欲しい」
普段、二人きりの時に話しかけるようなきやすい言葉ではなく、これが私事ではないということを示すように、赤星はアリスの使える主人としての公式なしゃべり方をした。
「アリス、君にエイト・グループに転任して欲しい」
「エイト・・・」
呆然と言うアリスに赤星は強くうなづいた。
「エイト・グループ・・・いや、どちらかというと火村家へ転職してもらいたいといったほうがいいだろうか。赤星家に仕えるのではなく、これからは火村家に勤めて欲しいんだ」
「・・・・それは・・・いったいどういうことでしょう?」
「もちろん君が役に立たないとか、新しく来る人間が決まったとかそういう理由ではない。出来れば・・・私個人としては君にはもっと此処で働いてもらいたいと思っている」
「やったら・・・・」
口を挟もうとするアリス。しかし、赤星はそれを無視して言葉を継いだ。
「しかし、火村家の方が是非にも君が欲しいと言ってくださっている。自分で我が赤星家を貶めるようなことを言うのもなんだが、赤星家はいまや巨大な泥舟だ。いつ沈んでもおかしくない・・・。いや、これは本当のことなんだ。だから・・・私にとってはつらいが、君にとって火村家に転職するということはとてもプラスになることだと私は考えている」
「そ・・・そんな・・・イヤですよ」
赤星のありがたい言葉に感動しながらも、アリスはきっぱりと首を振った。
「他のものはどうかは知りませんが、私は赤星家に一生仕えるつもりで此処にいるんです!それが少し家が傾いたからって・・・そんなほいほいと家を変えるわけがないじゃないですか!大体、君・・・冷たいやないか!なんでそんな俺を放り出すようなことをいうんや!君が大変やったら、俺にも相談してくれてええやんか!確かに俺はろくに頭も回らんような男やけど、やけど・・・そんな・・・ひどいわ・・・・!」
途中から感情が檄して泣きそうな顔になったアリスに、赤星はすまなそうに眉尻を下げた。
「なんで一緒にがんばっていこうっていうてくれんのや!転職先を斡旋してもろうて嬉しいと思うか?やったら、君、大馬鹿や!あんまり見くびるなや!」
赤星はアリスの言葉にうなだれ、「悪かった」と頭を下げた。
「アリス・・・お前がそんな風に考えていてくれるなんて・・・俺・・・嬉しい・・・」
「赤星・・・・」
嗚咽を混じらせたように声がゆれる赤星に、アリスの瞳もまた揺れる。
「別にお前のことをただの使用人だなんて思ってたわけじゃないんだ。アリスなら、赤星が暖簾をたたむその時まで俺の隣にいてくれると思ってた。でも、それは俺の独りよがりじゃないか・・・なんて」
「そんなことあらへん!」
「あぁ、そうだな。アリス」
二人は少し崩れた笑顔をかわし、友情を確かめ合った。

「でも、なぁ・・・君。もしかして、今日、エイト・グループの本社に言ったのは、俺のことを頼みに行ったのか?」
疑問に首を傾げるアリスに、眉間を揉んだ赤星が「あぁ」と応える。
「いや、違う。本当は援助を頼みに行ったんだ。」
赤星の言葉にそうだろうとアリスは頷く。
「赤星が、ただの商店で2・3の従業員を抱えているだけならばいいが、赤星はこれでも一部上場の大企業だ。つぶれるとなれば、従業員はもちろん、取引企業や下請企業など多大な迷惑をかけることになる。エイト・グループがつぶれる程の影響は無いにしても、かなりの被害をもたらすことになる・・・・。」
「あぁ・・・」
「そんなことは絶対に出来ない・・・いや、してはならない。どうにかして俺は建て直しを計らなきゃいけない」
そう言った赤星の顔が企業家のそれになり、目にはほむらが燃え上がっているようにアリスには見えた。
「赤星を守るというのももちろんあるが、俺はもっと重要なものを守らなきゃいけないんだ。赤星につながるすべての人々の生活をね。それでここのところずっと奔走していたわけだが、俺の手に負えない・・・。まったくの手詰まりだ。抜本的な改革が必要ではあるが、そのための資金も人材もない・・・。」
「それで、その相談をしにエイト・グループへいったんやね?」
「そうだ」
赤星は大きく頷く。
「とりあえず、当面の資金だけでも融通してくれないか・・・その代わりにこちらの株を・・・という話をするはずだった」
「・・・なぜエイト・グループに?」
「やつの所は、今一番勢いがある。利益だってずば抜けているし、これからもっともっと稼ぐだろうと思えたし、俺の・・・赤星の事業の中には彼が欲しがるような業種がいくつかあるからな。それと・・・これは、まぁ、個人的なことだが、今の会長と俺とは年が近い・・・話もしやすいだろうと思ったんだ」
それにはアリスも頷かざる得ない。しかし・・・彼が転職の話を持ってきたということは、その話は断られたということだろう。
そうアリスが思っていると、彼はその考えを読んだのか小さく笑って首を振った。
「いや、そうじゃない。彼はこちらの申し出を快く受けてもいいといった。むしろ、その準備はほとんど整っていて、いつ支援に乗り出せる状態だとね。」
有名なコンサルタントや、不良債権処理のプロもその中には含まれていると言った。
「じゃぁ・・・いい知らせなんか?」
アリスが問うと、しかし、それにも赤星は首を横に振った。
「彼は条件を出した」
「条件」
「あぁ、こちらが出した提案・・・つまり、さっき言った株や提携、また技術提供などの話は断られたんだ。」
「・・・いったい何を?」
求められたのか。
そう言うアリスに、赤星はシニカルな笑みを見せ、パンッと手をたたくとその両手を横に持って肩をすくめるようなしぐさをした。
「それで、話が最初に戻る。つまり、条件はアリス。君だ。彼は君が欲しいと言ったんだ」

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。