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地位と名誉と金 02

生まれてこの方、本気で人にあたまを下げることなどおよそしたことが無かった。

赤星家の長男としてゆくゆくは家を継ぐことを定めづけられており、そしてそのことに何の不満もなく順風満帆に暮らしてきた。
引き継いだ当初こそいくつかの失敗があったものの、それを凌駕する成功で信頼を築き、彼は赤星をまた一回り大きくすることが出来た。
それなのに・・・突然に・・・まったくの予兆もなしに足もとががらがらと崩れさってしまった。
今はまだ墜落こそ免れているものの、それもすでに時間の問題・・・いつ、会社を失っても・・・いや、家を失い仕事を失い友人を失い・・・莫大な借金を背負わされて路上に投げ出されるかわからない。

赤星は女に好かれる甘いマスクを幾分青ざめさせながら、火村家の経営するエイト・グループの本社ビル前に降り立った。超高層ビルはすべてがエイトの持ちビルであり、いくつもの会社がテナントとして入っている。
赤星を出迎えたのはいつの日かのパーティで見かけたことのある火村の秘書の一人である森下という若い男だった。背が高く頭の小さな彼は、顔立ちも整っておりビジネスマンというよりも芸能界の方が向いていそうに見える。いや、実際、テレビで人気のある有名人の大半よりはいい顔立ちをしている。

「お待ちしておりました」
にこりと微笑んで見せた男に赤星は心ばかりに頭を下げ、それからもっと丁寧に対応するべきだったのだろうかと頭をひねった。
何しろ、助けを求めに行く立場なのだ・・・もっと下手に出るべきだったのかもしれない。赤星はエレベータの方に導かれながら自分の態度を反省した。
自分自身を親しみやすく腰が低いほうだと評価していた赤星だが、これまでも、もしかしたら気付かなかっただけでかなり横柄な態度を取っていたのかもしれない。

「どうかしましたか?」
エレベータの前で森下がいうのに、ただ首を振ろうとした赤星はふと気付いて笑顔を作り「いえ」と口を開き、赤星は自ら会話を切り出した。
「そういえば、本社にお邪魔するのは初めてなのですが、綺麗な建物ですね」
「そう言っていただけると嬉しいです。何しろ社長がとても几帳面できれい好きな方ですので、毎日何度も清掃させているんですよ」
「そうなんですか。道理で埃一つ落ちていないはずだ」
「それは言いすぎですよ」
といいながらも、このビルが清潔に保たれていることに自負があるのか、森下はまんざらでもなさそうに肩を震わせた。
「うちの会社・・・いや、私も見習わなければいけません。」
「というと・・・?」
「まぁ、会社はともかくとして、私の部屋は・・それはもうひどいものですよ。」
「そうなんですか?」
意外だと眉を動かした森下に赤星は頷く。
「えぇ。お客は応接室だけで対応をして、いくら親しい間でも私の部屋には絶対にいれられませんね」
「それは、とても興味がありますね」
「はは。では、アリスにいって早速掃除を指示しなければいけませんね。」
アリス・・・その言葉に、ピクリと森下の頬が動いた。
「アリス・・・?」
「あ、すみません。アリスというのはうちの執事の名前で・・・・」
と、そこまで言った時、ようやく赤星は森下の様子がおかしい事に気づいた。先ほどまで浮かべていた笑顔がいつの間にかなくなっている。
眉をひそめる赤星に森下はハッとしたように笑顔を取り繕うと、
「あ、エレベータ来ましたね」
と、ぎこちなく言って開いた扉を押さえ赤星を先にエレベータの箱の中へと入れた。

3面がすべてガラス張りになったエレベータから外を見れば、これまたきれいな中庭が見渡せる。木々が生い茂り、中央には広場が設けられていて、背広姿の何人かがそこで談笑しているのが見えた。
赤星がそちらに思わず目を引かれていると・・・
「・・・・あの」
森下が遠慮がちに声をかけてきた。
「はい?」
「アリス・・さんというのは、有栖川有栖さんのことでよろしいのですよね?」
なぜ知っているのか・・・?と赤星は眉をあげた。彼とアリスは面識は無いはずなのだが・・・・?
「知り合いでしたか?」
「あ・・・いえ。そういうわけでは・・・・」
知り合いでもないのに名前を知っている・・・・?
ますますわからないと首をかしげた赤星は・・・ふと浮かんだ考えに、まさかと顔を青くした。
まさか・・・まさかとは思うが、アリスが火村とつながっていたということは考えられないだろうか・・・?アリスと赤星はかなり近い位置にある。主人とその召使という立場ではあるが、ほとんど親友同士も同然・・・。部屋への出入りも基本的に自由にさせている。机の中や棚こそ勝手には触らないものの・・・・・。
「あ、そういうことではありませんよ」
振り返った森下が赤星の強張った表情を見てあわてたように口を開いた。
「彼がスパイだとか、あなたの社の情報をリークしたと思っているのならば間違いです。すみません」
「・・・ではなぜ、あなたはアリスのことを知っているのです?面識があるのですか?」
「いえ、一面識もありませんよ」
「ではなぜ・・・・?」
訝しげな顔をする赤星・・・と、ポーンという電子音とともにエレベータが最上階に着いた。
ゆっくりと開くエレベータの扉・・・森下はその扉を手で押さえながらにこやかに言った。

「それは直接社長にお聞きになったほうがよろしいでしょう」

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