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ガラス一枚

ヒム→アリ風味 で痛いよ。苦手な人は注意。
『元気か?』

ガラス一枚挟んで、俺たちは電話をする。
安っぽい・・・今では時代遅れの角ばった白い受話器。
くるくるとまいたコード。それを持ってガラスの前に立つ。
ガラス越にあいつがいる。
もう何年も、友人という立場を続けてきた愛しい相手。
彼は、ここ数日で頬がこけ、いつもより更に顔色が悪く、蒼白といってもいいほどになっている。
「あぁ、そっちはつらそうだな。」
俺の言葉に、ガラス一枚挟んだあいつは微笑む。
患者服の裾から除く手首が細く、浮いた血管が痛々しい。
『ううん。そうでもないで。おもったより快適や。空気がうまい。なんたって無菌室やし』
ウソツキめ。
俺は小さくつぶやく。
受話器に拾われないほどに小さく。
そんなわけあるわけ無いじゃないか・・。
此処でだって消毒臭い匂いが鼻につくというのに・・・。
「・・・・そんな面かよ・・・」
なるべく普通の声を装って言ってみても・・・どうしても声が震える。
それが、受話器越しでもよく伝わるのだろう、あいつは悲しそうに微笑んだ。
『辛そうか・・・?』
俺は、いつものように、彼がイヤミだというような笑みを浮かべる。
「あぁ、凄く辛そうだ・・・・見てて・・・痛々しい」
『困ったな・・・・そんな風にみえるか?』
彼は、俺とは違って友人が多い・・・。
見舞いにくるその友人たちに、弱っているところなど見せたくはないのだろう。
「大丈夫だ・・。俺にしか分からない程度だから」
ばればれのフォローを入れる俺。
ウソツキめ。
今度は心の中でつぶやいた。
彼の傍には、死の影がひっそりと寄り添っている・・・。
誰だって・・・わかる。
彼の時間があまり長くないことを。
『それやったら平気やな。親友殿』
「だろう?」
『うん。君が女やったら彼女にしたるわ』
俺は苦く笑う。
「お前みたいな面倒な男は願い下げだよ」
『確かに』
言って小さく笑う男に、俺は何故か、鼻の奥がツンとして、ガラスから目をそらした。
こんなに近くにいるのに・・・・こんなに近くにいるのに・・・・
ガラス一枚が越えられない・・・。
ゆっくりと最後の時間を消化していく彼に・・・俺は何もしてやることが出来ない・・・・。
痩せた頬を触ることも、背中をさすることも・・・何も出来ない。
「納得するなよ・・・・」
絞り出した言葉は揺れている。
アリスが少し笑い、やがて受話器越しに小さく息をつくのが聞こえた。
慌ててガラスに目をやると、アリスの顔はさきほどよりも一層白くなっていた。
『ごめんな・・・・なんや・・・・少し疲れた』
受話器を持つ手が、小さく震えている。
受話器の重さにすら苦痛を覚えるほどに衰えた筋肉・・・・。
「あぁ・・・・わかった。俺はもう帰るから・・・よく寝てくれ」
アリスは弱く微笑んで頷いた。
入院したてのころ・・・彼は、俺が帰るとつまらないと拗ねていたものだが・・・近頃ではそんなことを言わなくなった。
辛いところを見せたくないのか・・・それとも・・・
『あぁ。またきてや』
「あぁ・・・またな・・・」
彼は、俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに受話器を落とすようにして、電話を切った。
ガチャンという音を聞きながら、俺はゆっくりと受話器を離す。
彼は、もう、俺のことを見てはおらず、倒れるようにベットに横になっていた。

「アリス・・・・」

わざと呼ばないでいた言葉。
それを口にした途端、俺の目から熱い涙がこぼれた。

「行かないでくれ・・・・頼むよ・・・・頼むから・・・・・」

俺はすがるように俺と彼とを隔てるガラスに手をついた。

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