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焼き林檎 2

闇と影を抜け、月の縁を渡る者。
夜を行く者
夜行者

高層ビルの柵の外。
翼を休める二つの影。
小さな電子音が鳴り響き、ビルの縁に座っていた男のほうが携帯を耳に当てた。
何事かを話し始める火村を一瞥した後、立っていたアリスはビルの縁ギリギリを歩き出した。
両手をコートのポケットに入れたまま、強い風に目を細める。
のんびりとした歩調だが、そこは高層ビルの屋上。
一歩踏み間違えば、間違い無く死が待ち受けている。
しかし、アリスの足に迷いは無く、公園を散歩するように全く危なげはない。
ビルの角まで歩くと、アリスはくるりと180度回転し、火村の座る傍までもう一度歩き出した。
火村はまだ何かを喋っており、その間放置された煙草が、彼の指に挟まれ赤く光っている。
アリスはその煙草を、腰をかがめて火村の指からするりと抜き取る。
火村は一瞬だけ嫌そうな顔をアリスに向け、すぐに電話の向こうの人物との会話に戻る。
アリスはその煙草を口に咥え、ちらりと笑うと、ふわりと柵を越えて内側へと降り立ち、柵に背をもたれさせる。
息を大きく吸い、煙で肺を一杯にしたあとゆっくりと吐いた。
口に煙草をもう一度咥えなおし、両手を目の前に広げ手のひらを見つめた。
再生されてすでに十分な時間が経ち、自分の身体にも慣れた。
自分の身体に慣れるというのもおかしな話だが、実際そうなので他にいいようがない。
まだ時折ぼんやりすることがあるが、それはお前の元の性質だと火村は笑うので、(アリス自身は絶対にそんなことはないと思っているが・・・)あまり気にしないことにしている。
アリスは両手を何度か握ったり広げたりして自分の身体を確認する。
ゆっくりと手を下ろしたとき、後ろで火村が立ち上がる気配がし、振り返る。
火村は携帯を耳から離しつつ振り向くところだった。
「侵入者か?」
「あぁ」
火村が応えると、アリスは不敵に笑った。
「えぇ、度胸やないか」
火村はまったくだといって、アリスの口から煙草を奪い、一口吸った。
「甘く見られたもんだ」
煙を吐きつつ言う。
「最近多いんとちゃう?」
「かもな。一度お前を殺して勢いに乗ってるんだ」
火村の言葉に、アリスがクスリと笑うと、火村もまたつられたように口元をゆがめて笑った。
「はは、なるほど。不死身のアリスさんを馬鹿にしとるわけやな?」
「不死身かどうかはしらねぇがな」
確かに・・・とアリスは内心思う。
あのままの状態でいたら、自分はいつか無に消えたか・・・もしくは永久にあのままだった。
咄嗟に猫に身体を分けられたのは本当に幸運としかいいようがなかったのだから。
力の大半と、そして記憶の大半をなくしてはしまったが・・・相棒である火村には本当に、感謝してもしたりないくらいだとアリスは思っている。
だが、それをそのまま口にするのは癪だ。彼は話題を戻す。
「だけど、そんな生意気なヤツには教育的指導ってやつが必要やな?」
「あぁ、派手にやっていいと長からの許可が出た」
火村が言うと、アリスは驚いたように目を丸くし、口笛を吹いた。
「江神さん、そんなこというたんか・・・」
「穏やかなあの人が言ってんだから、相当頭にきてるのかもな」
「おーこわっ」
言って、アリスは自分の手で両肩を抱き震える仕草をした。
「先兵が何を言う。俺たちは切り込み隊だぞ?びびっててどうする。」
火村の言葉にアリスは肩をすくめてにこにこと笑った。
「あぁ~それにしても、派手に・・・か・・。ふーむ」
「悩むのか笑うのかどっちかにしろよ」
「んじゃぁ、笑うことにするわ。で、場所は?」
「昔からのセオリー通り、鬼は鬼門から・・・だ」
「東北かぁ・・・ほんまセオリーやな」
もう少し工夫しろとでも言いたげなアリスに、火村は苦笑する。
「他も攻勢が強まっている。そのうちどっからでも入れるようになるんじゃないかって長はいってたぞ」
「それは困るな」
「あぁ、ここ数年は星のめぐりが特に悪い。十分に気をつけろと言っていた。」
「ははん。わかっとるわ。一度殺されたことやし・・?」
「そうだな。借りはかえさないとな。」
言って、火村は軽く柵を飛び越え、アリスの隣に並び、同時に歩き出した。
「裏には誰がいっとるん?」
「裏は森下さんらの担当だ。何事もないといいんだが・・・・」
「まぁ大丈夫やろ。マリアもついとるし。」
「だから心配だといったんだが?」
火村は短くなった煙草を足元にすて、踏み消した。
「火村はマリアのこと過小評価しすぎや。」
自分がけなされたかのように、アリスは不機嫌に言うが火村は同意することは無く、知らん顔をしていた。
アリスは彼女のことを高く買っているようだが、火村にとっては疑問符が残る。
それを言えば、アリスの機嫌が急下降することは目に見えているので、火村としては適当に流すのが利口だ。
そうしていれば、時折噛み付くことはあっても、大抵の場合、今のようにそれ以上は突っ込んでこない。
パンっと音がして、火村がアリスを見ると、彼は左手の手のひらに右手でつくった拳を打ち付けていた。
「気合いはいってるな」
「もちろんや。借りは利子つけてかえしたるわ」
アリスは、無邪気とも好戦的ともいえる微笑で火村を見た。

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