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ライム

私はしりもちをつき口をぽかんとあけ、それを唖然と見つめた。
な・・・なんや、これ・・・・?
まるで映画の1シーンのような光景。
男は、パトカーのヘッドライトと回転灯に照らされていた。
どうやらロングコートを着ている長身の男という以外にわかることといえば、どうやら煙草をふかしているということくらいだ。
もちろん、それは強烈な照明(ヘッドライト)のおかげである。
異様な静寂の中、男がコツコツリと足音を立てて近づいてくる。
男の体がゆれ、男の影に入っていた私は、ヘッドライトに目を細めた。
一瞬、目の前が真白になる。
が、次の瞬間には、また男の影にはいり、目をあけられるようになった。
追い詰められた容疑者になった気分。
私は、わけもなく、しりもちをついた状態でじりじりと下がった。
近づくにつれ、彼が長身で均整の取れた体の持ち主だということがわかった。
黒いコートの下はどうやらスーツ。しかもバリバリに決まっている。
上にのっている顔は・・・ものすごく整っていて、私はドキドキとした。
言っておくが、ロマンスじみた話ではない。
逆光のなか、黒い目がギラギラとしているのだ。
はっきりいって怖い。
肉食獣に睨まれた小動物の気分。
「な・・・んなん・・・」
小さくつぶやいた声は、誰にも届かずに消えた。
ジャリッっという音と共に、男は私の前に立ち止まり、口の端に咥えていた煙草を噴出し捨てた。
「アリス・・・だな」
低く通る声。思わず肩が跳ねる。
「・・・・あんたは・・・」
「質問に答えろ。アリスに間違いないな?」
言いながら、座り込んだままの私に視線を合わせるように、男はしゃがみこんだ。
途端、また、強烈なライトが私の視界を真白に染める。
手の平で、それをさえぎり、なんとか男の肩越しに見た風景は、無数のパトカー。
もう少し言えば、パトカーの両側の扉が開いており、警官がそれを縦に銃を構えている。
狙いは・・・・言うまでもなく・・・・私。
「・・・・一体俺が何をしたというんや・・・・?」
私は、凶悪犯ではない。
私は一般のサラリーマンだ。安月給で朝早くから夜遅くまで働き、1DKの小さなアパートは、ほとんど寝るときにしかいない。
帰れば泥のように眠り、朝起きれば、パン一枚を齧って、会社へとんぼがえり、客先でぺこぺこと頭を下げて回るしか能のない、税金だってきっちり納めている、善良な一市民だ。
自分でいうのも悲しいが、全く持って、特筆すべき特徴のない男なのだ。
「19XX年、4月26日生、本籍は日本国、大阪○○○○、父親は・・・・」
長々とした私のプロフィール。
男は何のメモも見ずにすらすらと、私の生い立ちからなにやらを喋っていく。
一体なんなのだ・・・?
それにしても、映画俳優と間違うような整った顔と、声優顔負けの渋い声・・・
まるで私の半生というドキュメンタリーのナレーションを聞いている気分になる。
ぽかんとして聞いているしかない。
「・・・○○荘の204号が現住所、一人暮らし。先週○○社に小説を一本投稿。
 間違いないか?」
男が、少し顎を引いて私に尋ねる。
間違いない・・・。間違いないのだが、そういってしまったらどうなるのだろう?
まさか・・・認めた直後、男が横に身をそらし、指を鳴らすと、私に弾丸が無数に・・・・なんてことはないだろうか?なんとなくありえそうだと私は思う。
では逆に人間違いだといったら・・・?お前はウソツキだ・・・と言われ、これまた、デッドエンド・・・?
これもまた、ありえそうだ。
マルチエンディングゲームの主人公になった気分だ。
しかも、どうやらリセットはききそうにない・・・。参加したはずもないゲームなのに・・・なんたる仕打ち。
まずい。
私の背をツーっと汗が滑り落ちた。
「間違いないな」
微妙に断定系に変わった質問に、私は恐る恐る頷いた。
こくりと自然に唾を飲み込みながら。
っと、男は私の予想とは全く違った動きを見せた。
わずかに口元をゆがめて微笑み、私の腕を少し乱暴に掴むと、立ち上がらせた。
立ち上がると真正面から照明を浴びることになり、私は少々慌てたが、それよりももっと驚くべきことが次の瞬間には起こった。
全身、黒尽くめのその男が、なんと私の前に跪いたのだ。
「な・・・・」
驚く私を他所に、男は、まるで騎士が王にするかのように片膝を付き、もう片方を立て、深く頭を垂れる。
「え・・・えっと」
何が起こったのか咄嗟にはわからない。
っと、照明がにわかに落ち・・・ズザッという音。何かと周りを見渡すと・・・・
パトカーの傍に付いていた20名くらいの男たちが、黒い男のすぐ後ろに集まり、私に向って同じように膝を折っているではないか。
此処にいる全ての人が、半円になり私に膝を付き頭を下げている!
ぞわっと鳥肌が立った。
同時に、気の弱い私は、足がガクガクとふるえそうになる。
一体・・・何の冗談か・・・。
一番私の近くにひざまづいた、あの黒い身なりの男が、低い声で告げる。
「失礼をお許しください。お迎えに上がりました。我が主君よ」
「・・・・・はぁ?!」
この間抜けな私の言葉が、非日常の始まりだった。

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