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共犯

あの男・・・・仮に名前をKとしよう。
Kはとにかくイカれた男だった。
残忍な男で、自分の血が大嫌いな代わりに、他人の血が三度の飯よりも好きだというようなイカれた男。
とにかく、気に食わないやつは徹底して殴り、蹴り、それこそボロボロになるまでに徹底的に暴力を振るう。
だれも、ヤツを好きなやつなんていなかった。
だが、Kを取り巻くやつは多かった。
ヤツはそれほどの力と組織を持っていたし、残忍なだけでなく頭も良かった。
誰もが、嫌っていながら、Kに逆らう事は出来なかった。
そして、俺もまたその一人だった。
そう、弱みを握られていた。
全く手が出せない。
俺は何年も耐えてきた。
下手に手を出せば、必ず打たれる。
俺はKを嫌っていた。
チャンスさえあれば、殺してやる。
暗い炎はその熱で俺をじりじりと焼ていた。
抜き差しならぬ関係。
それをKは楽しんでいた。
驚いたことに、彼はどうやら俺のことを気に入っていたらしいのだ。
俺は何かとKに呼び出され、共にいることを望まれた。
彼は一度、俺のことを友人だといったことがあった。
しかし、それは違う。
断じて違う。
あいつに友達なんているわけがない。俺を含めて。例外は・・・・ない。

そう、あの時もまた、俺はやつと一緒にいた。
もちろん、二人ではなく、他に沢山の取り巻きがいた。
半円に集まった男たちの中に、Kはもう一人の男を嬲って遊んでいた。
殴り蹴り、男が何も抵抗できなくなるまで暴力を振るう。
それは、Kの喜びであり、男への調教であり、そして俺たちへの見せしめだった。
逆らったらどうなるか、それを教えているのだ。
目をそらすことをKは許さない。
だが、手を出す事も許さない。
俺たちは見学者だ。
俺はもう何度目かになるこのKのお遊びを冷めた目で見つめていた。
いつもと同じ光景のはずだった。
だが、違った。
やがて満足したKが手下を連れて離れる。
俺もそれに続き、身を翻しかけた、そのとき・・・
俺は、その男と目を合わせた。
鼻から大量の血を流し、白いシャツが血に染まった、目の下に大きな痣が出来たそいつと。
俺は動きを止めた。
今まで見たことの無い目・・・・いや・・・違う。
あれはよく親しんだ目。
鏡の中にある目。
そう・・・俺の目と同じ・・・。
真っ黒な中に、青白い炎を宿した目。
男もそれに気付き、動きを止めたようだった。
そして、男の目の中に親しみの感情が芽生えたのを見て、俺は身を翻した。
これから起こることへの予感がそうさせた。
俺は、Kの背中を睨みつけるようにして、歩いた。

数日後、その予感は本物となる。
夜、いつもと違う道を選んで歩いたのはその予感を感じていたからだ。
人の少ない、裏路地を歩く。
いるのは野良猫くらいで、時折、ゴミ箱をあさっている気配がした。
コツリ、コツリと俺の足音が響き、夜空には少しかけた丸い月があった。
俺は、どこかピリピリとして時を待った。
ほんの少し落とした視線は何も見てはいない。
ただ、空気を感じていた。
そして、その空気が俺以外のもののせいで揺らめいた時、俺は脚を止めた。
誰かが、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
どこかのんびりとした足音だ。
俺はそれに合わせるようにゆっくりと振り返った。
月は俺の背にあり、俺からは彼の顔がよく見えた。
顔にガーゼやらテーピングやらを施した男。
確かめるまでもなく、あの日、Kに嬲られていた男だ。
男は、俺の数歩前まで淀みなく進みそして立ち止まる。
そして、右手を出した。
俺はそれを目を細めて見つめる。
「・・・手ぇくまへんか?」
男が言った。
俺はそのとき、にやりと口をあげたかもしれない。
男は俺を見て、微笑んだ。親しみのこもった、無邪気な笑みだった。
俺はほんの少しだけ、首を傾げ、そして右手を出し、彼の手を握った。
そうなることは、予感していた。
あの目を見たときから。
「恨みがあるのか?」
俺の言葉に、そいつは頷く。
「あぁ・・・それにアイツが大嫌いなんや」
「なるほど」
俺は小さく言い、手を離した。
互いに申し合わせたように左右を見、また目を合わせた。
「・・・だが、今すぐじゃない。まずは名を買え」
俺の言葉に、そいつは頷いた。何の疑いもせぬ男、だが、それを不思議とは思わない。
あの時、目が合った瞬間に俺たちは共犯者になったのだ。
「・・・あいつを殺れるか・・・?」
「まずは、ヤツの母親だ」
「母親?」
「ヤツのウィークポイント。あいつは母親しか血縁がいない。」
そして、その母親こそ、俺の弱点でもあるのだが、それは言わない。
男は黙って頷いた。
「しばらくしたらまた会おう」
言って俺は身を翻す。
男もまた、元来た方へと歩き出したはずだ。
しばらくが、どれくらいの事か、わからない。
だが、もうすぐだ。
もうすぐ復讐がなる。
そういえば、何かの本に書いてあった。
復讐という名のスープは、冷めた頃が一番美味しい・・・と。
俺は知らずに浮かんだ冷笑を納め、ゆっくりとその日に向って歩く。

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