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創生主 05

よみかえしてない。
両手の指の数ではとうてい足りそうに無い数の猫たち。
それぞれが思い思いのところで休んでいる。
茶トラにブチに、白に黒・・・その他もろもろ。
そう、種類も豊富だ。日本猫もいるし、雑種もいる。シャムのようなシャープな顔立ちのもいれば、ペルシャみたいに丸い顔のやつもいる。大きさもバリエーション豊か。
これだけの数の猫がいるのだから臭いも相当・・・と思いきやそうでもない。
いや、そうでもないどころか臭いは全くない。
本物ではないからだろう。
彼らは食べることは必要ない。与えれば口にするが、排泄はしない。
ついでに成長もしないようで、子猫はいつまで経っても子猫。
年老いていつ逝ってもおかしくないような猫ももちろんずっといる。
時々フッと消えてしまうのもいたりはするが、アリスがすぐに増やしてしまうので店はいつだって猫でいっぱいだ。

なんとなくで引き受けたこの商売だが、気がつけばポツリポツリと猫好きの人がやってくる。
注文はコーヒー一杯か、せいぜいクラブサンド程度だが儲けようと思っているわけではないので、それはそれでいい。
それに、猫好きの人嫌いばかりが何故か集まってくるらしく、客はみな一人でやってきてカップを片手に目を細めているといった風。客同士の会話はなく。
俺も殆どはカウンターの中に置いた椅子に座って、本を読んでいるだけで、まったりとした時間だけが過ぎる。
その中で、一人だけ異質なの・・・といえば、アリスだ。
自分から店を開けようとはしないくせに、俺があけていると必ず来るアリス。
「おまたせー」
っと入ってきた彼を出迎えるのは俺ではなく猫たちだ。
それまで、客の指にじゃれ付いていたのも、柱で爪を研いでいたのも、客の膝にのって居眠りこいてたのも、店の梁に乗ってた奴も、猫同士でじゃれあったのも・・・一斉に耳をピンと立てて、主人に挨拶に向う。
猫たちに囲まれるアリス。
それを羨ましそうに見つめる客。
アリスはそれに全く気付かずに腰を降ろすと、一匹一匹の頭を撫でてやる。
撫でられた猫はそれで満足するのか媚びたような鳴き声を一つ上げて、元の場所に帰っていく。
猫溜まりが解消されると、彼はにこにこと笑いながら俺の正面のカウンターについた。

「相変わらずもてもてだな」
「ふふふ・・・うらやましぃやろう~♪」
「・・・俺は人間の女にもててるから、羨ましくはないさ」
っと、そんなこと思っても居ないくせに口にすると、アリスは悔しそうに口を尖らせた。
「ふん、どうせ俺がもてるんは猫にだけや」
「ま、詐欺師にもてるよりはいいだろう」
「・・・・慰めにならんわ」
ボソッと言って、コーヒーを注文する。
金も払わないくせに・・・と、俺もまた呟きながらコーヒーを入れるために立ち上がった。
豆から轢くのでインスタントとは比べ物にならないほどに美味い。
そして、なによりスバラシイ香りがする。
この店の持ち主が置いていったコーヒーの究極の入れ方というやつを試すうちに、すっかりコーヒーの虜になってしまった。
丹念に豆をひいたり、温度をはかったり、蒸らして、注いで・・・・
丁寧に淹れた一杯をアリスの前に差し出すと、いつのまにか先ほどまでいなかったはずの子猫がカウンターの上に乗っている。
青い目をしたアメリカンショートヘア。
目をきょろきょろとさせて、ちょこちょこあるきポテッとアリスの掌に顎を置く。
アリスはその子猫をしばらくみたあと、ちらりとカウンターの端の方を見た。
そこにはいかにもボスっといったかんじのブスッとした顔のでかいブチ。それに向かって、
「このこと遊んだって」
とアリスは言う。
すると、そのボスブチはのっそりと起き上がってゆっくりと子猫の元に近づく。
そして、慎重にその猫の首筋を噛むとひょいと持ち上げて、カウンターから降りていった。
「一流の猫使いだな」
「まぁな~」
言いながらコーヒーに手を伸ばし、臭いを存分に吸ってから口へと運ぶ。
「ん。うまい!君、どんどん腕をあげるな!」
「ふん」
まんざらでもない気分を味わいながら俺はそっぽを向くと、中で肘をついて読みかけの本をひっくり返す。
「あぁ、そういえばな」
「ん?」
「じーちゃんから絵葉書きててん」
じーちゃん・・・とはおそらく、ここの本物の店主のことだろう。
アリスは懐を探って中から絵葉書を一枚取り出した。
写真は有名な中国の万里の長城だ。そこにじいさんがちらりと映っている。
「へぇ・・・」
そこには、これから万里の長城を辿り、それからシルクロードを通るつもりだと記されている。
男のロマンというやつだろうか?
そういったことには全く無縁であるはずの俺ですら、この絵葉書には魅せられるものがある。
ふと気付くと、アリスもまたなんとなく羨むような顔で絵葉書を覗きこんでいる。
そして、
「なぁ火村」
「ん?」
「鳩つくってもええかな?」
「鳩?」
突然何を言い出すのかと思い彼を見ると、彼は笑顔で言った。
「伝書鳩」
それで、彼が何をしたいのかが分かった。俺はいいんじゃないか?っと言いいながらもう一度絵葉書に目を落とした。
じいさんの元に手紙を結わえた伝書鳩が降り立つ・・・それを想像すると、なんだか楽しくてたまらない。
普通の伝書鳩なら絶対に無理だろうが、アリスの鳩ならばきっとじいさんの下にたどりつくだろう。
彼の創ったものに不可能はないのだから。

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