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創生主

午前1時。
来週の学会の準備でかなり遅くなってしまった。
下宿所の敷地に入り、二階を見上げると明かりがついた部屋がある。
― あぁ、きているのか・・・―
小さくつぶやき、重い体を引きずるように歩いた。
古い型の鍵で開錠。
建てつけの悪い引き戸を慎重にあけ、中に入り、また慎重に閉める。
コツは少し持ち上げるようにすること。
すると、音が大分マシだ。
中から鍵を閉めなおし、振り返る。
玄関は真暗だが、もう何年も住んでいて、何が何処にあるかは大体把握している。
暗いままに靴を脱ぎ、ゆっくりと上がる。
これも慎重にやらないと、木造でしかも古い建物では音が大きい。
俺は泥棒にでもなった気分で、慎重に一歩一歩を進む。
階段を上りきり、自室の前へ。
ドアにつけられた小さい四角の曇りガラスから明かりが漏れている。
俺は鍵を出そうと自然にポケットに伸びていた手を引っ込め、そのままノブをつかんで引いた。
途端に・・・。

―ミャァ―

見たことのない黒ぶちの猫が、俺に一つ鳴いて出て行った。
暗い廊下を迷わず走り、トントンと階段を下る音。
俺はそれに一つため息をついて、部屋に入る。
後ろ手に扉を閉めて、部屋の真ん中、座布団を腹の下に引いて、雑誌を読む男を見た。
「またやったのか?」
「んー」
っと、その男は振り向きもせずに言う。
彼の横にはポテトチップスの袋があり、小さな破片が散らばっていて、俺は目を細めた。
上着を脱ぎ、ハンガーにかける。
台所に行き、ビールを一缶出し・・・そして結局二缶出した。
「で、今日はどうしたんだ?」
丸いちゃぶ台に一缶を置き聞くと、ようやくその男は身体を起こした。
「んー。まぁ暇やったから構ってもらおうと思って」
「で、俺がいなかったから猫を創ってあそんだのか?」
プシュっという小気味のよい音と共に、ビールの匂いが俺の鼻をくすぐった。
二人同時に缶に口をつけ、数口を飲み下す。
クハッとどちらからともなく、親父臭い声。
「そうやそうや。猫ならええっていったろ?」
「言ったけど・・・何匹目だよ。ここら一体を野良猫街にする気か?」
「ぉ、それはええ考えやねぇ」
っと、にこにこと笑う。
俺はそれに苦笑するしかない。
猫は、嫌いではない。
いや、どちらかというと好きだ。
人間と対するときよりもよっぽど気楽でいい。
「だとしたら、君は嬉しそうやな」
「そうだな・・・。ただ、出費がでかくなりそうだ・・・」
「必要経費やろ」
「そうだな・・・確かに無駄な出費とはいえない」
認めると、彼はそれこそ猫のように目を細めて微笑んだ。
彼は退屈すると、猫を創って遊ぶ。
本当は猫じゃなくてもいいのだろうが、俺が猫にしろといってからは猫ばかりを作って遊ぶ。
それも、血統書のついたような猫ではなく、野良猫のようにいろんな血統が混じったヤツのほうが好みらしい。
一度そのことを聞いたら、オリジナリティの問題だといっていた。
血統書つきの猫はどれも同じ顔をしていて、創っても面白みがないのだという。
俺がそのことを知ったのは今から10年近く前のことになる。

“あ、見られてしもた”
彼は創った猫を抱えたまま今と同じような顔で微笑んだ。
そして、
“秘密やで”
と、口元に一本指を立てる、とても子供っぽい仕草でいった。

「何にやにやしとるん?」
気付いたら、彼はまた猫を抱えていた。
今度は真白な猫で、目が金色だ。スレンダーで尾が長い。
「お前・・・また・・・・」
「うん。かわええやろ?」
言って、猫を抱え上げると、猫はびろんと伸びる。
創生主に抱えられ、猫は暴れもせずにニィとなく。
「にぃ」
彼は、その猫の鳴きまねする。

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