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紅緋

刺青ものがかきたかったのだけれど・・・・
彼の背中には、紅緋の花が踊っていた。
息を呑む俺に、アリスは、肩越しに振り返って目を細めた。
「綺麗やろ?」
「あぁ・・・」
6枚の花弁をもつ花が、アリスの白い肌に鮮やかに浮かび上がっている。
どこか曼荼羅を思わせて、呪術的にも見える。
みずみずしいとか、まるで、本物のようなとか・・・そういうことではなく・・・幻想的だ。
「すごいな・・・・・」
苦労して唾を飲み込む。
手を触れれば、そのまま、華の世界に入り込んでしまいそうなほどに美しい。
鬼才を謳われた、アリスの師匠の作品。
職業柄、外にあまり出ないせいか、アリスの肌は白く紅の花が光の中に咲いているように見えた。
瞬きを忘れ、口すらぽっかりとあけて魅入る俺に、アリスはクスリと笑い、腰まで下げていた着物を肩の上にかけなおした。
華と同じく、赤い着物を羽織った彼は、中世的な美しさがある。
背筋をすっと伸ばし、項の下まで伸びた髪を、そっとかきあげ、それからおもむろにこちらを振り返る。
やわらかな笑みを浮かべる男に、俺は不思議な気分になる。
「どうしたん?」
クスリと笑うアリスに、俺は小さく息をついて、自分を落ち着かせる。
「いや・・・何故俺に、それを見せた?」
アリスは何も言わずに笑顔を浮かべる。
江神コレクションといわれる、一連の美術作品の秘密を握るといわれる華・・・。
数十億円はくだらないという、美術作品の在り処を示す鍵とされる江神の最後の作品。
世間に知られているのはダミーだという噂があったのは知っていたが・・・
まさか、アリスの背中に彫られているものが・・・?
俺の思考を読んだかのようにアリスは頷く。
「そや。これが、先生の最後の作品。」
血の気が一気に下がったような気がした。
「・・・何故」
「さぁ・・・・なんでやろうなぁ。気紛れ?」
「気紛れで・・・・」
驚く俺に、アリスは苦笑し、一通の手紙を差し出した。
「近頃、届くようになったんや」
手紙は白い封書で、宛名も、差出人の名もかかれていない。
見てもいいのか、目で問うと、アリスは一つ頷いた。
了承を得、封書の中から三枚の便箋を取り出した。
だが、書かれているのは一番上の一枚だけで、他は白紙。
しかも、そこに書かれていたのはったったの二行。
「近々、貰い受けに行く・・・・・近藤・・・・」
その後に続く、三文字の名前に息を呑んだ。
極道とつながっているともっぱらの噂がある、ある大臣の名・・・。
「まさか・・・」
俺の問いに、アリスはあっさりと頷いた。
「なんで・・・・」
「あのおっさん、南米に大きなコネクションもっとるのしっとるか?」
「南米・・・?」
「うん。まぁ、反政府ゲリラと、コカ系の資金源を一括しておさめている組織と通じとるっていう話や」
話の展開の大きさに驚いている俺を無視して、アリスは言葉を続ける。
「しかし、6月の蜂起はしっとるな?あのときに、その組織の幹部が3人も殺されてしもうた。
 組織を納めとるのは5人の幹部やったから、残りの二人が、今、こっちに逃げてきとるんや。
 それで、そいつらが頼ったのは近藤・・・」
「ちょ・・・ちょっとまてよ。話がでかすぎる。一体・・・それと江神のコレクションがどう・・・?」
「ん。まぁ、世間に知られとる江神コレクションってのは確かに美術価値が高い。
 けどな。その中に、他のやつらにはまったくもってゴミとしかうつらんようなもんもはいっとる。 らしい」
「らしい・・・・?」
「そや。やって、俺、自分の背中みるのに、大変やからなぁ」
はははと笑うアリス。
「・・・・おまえ、江神コレクションを見たことはないのか?」
「いくつかはある。」
「金か・・・?」
「違うって。金なら唸るほどもっとるんや。あいつらはな。
 欲しいのは、江神コレクションにある一見価値のないゴミみたいなもんの方や。」
「・・・?」
「ま、歴史の暗部というかなぁ。その南米のある国を実質的にしきっとる男の過去にかかわるもんや。
 南米のことなんて、俺には関係ないからな。本当やったら、さらりとあげてもええんやけど・・・」
「背中にあるもんは渡せない」
俺が、続きをいうと、アリスは頷く。
「せや。それに、これは師匠のもんやからな。俺は渡したくはない。
 それに、あいつら、俺をお客さんとしてもてなしてくれるような気はないらしいしな」
「それで・・・・」
「で、ま、気紛れっていうたけど、やっぱり下心やな」
そういって、アリスは上目遣いにちらりとわらった。
その瞳の中に、小さな火花を見たような気がして、俺はぎくりとする。
「はは、そんな難しいことやないよ。君、名探偵らしいやん」
「誰がそんなことを・・・・?」
「うちに出入りしとる森下君いうのが言うとった。」
俺はチッとしたうちをした。
あのおしゃべりめ・・・。
「それで、俺にお前の背中の謎をとけというのか?」
「あぁ、けど、時間がないんでな。ちょっと、つきおうて欲しいんや」
「何・・・?」
「この華のさいとるところ・・・」
アリスはちらりと自分の肩に目をやる。
いや、肩ではなく、背中を飾る華か・・・。
「実在する華なのか・・・?」
「いや、実際には、とあるモノに触発されて描いたっていうとったから、違うんやろうけど。」
「何処だ・・・・・?」
聞けば、逃れられないような気がした。
だが、気がつけばそんな言葉が零れ落ちていて、アリスも驚いたようだが、俺もまた驚いていた。
アリスは口を開くべきか迷ったように俺を見る。
俺はそれに、小さく頷いた。
「ベトナム・・・・。」
「ベトナム・・・?」
「あぁ、一緒に飛んでくれるか?」
アリスの言葉に、握った手からじわりと汗がにじんだ。
その汗が、何を意味するのか、俺は分からないままに頷いた。

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