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最終電話 2

楽しいとか、つまらないとかそういう問題ではなく、それが俺の仕事だった。
時折かかってくる電話に出る。
それだけの仕事。
あとは何をしていてもいい。
今時レトロなダイヤル式の黒電話。
それがあれば仕事はできる。
買物に行く以外は殆どをこの部屋ですごす。
特に退屈は感じない。
いつからこんなことをやっているのかは忘れてしまったが、かなり長い間やっていることだけは確かだ。
前任の女・・・十代半ばくらいの女が俺にここの鍵を渡して以来此処にいる。
150センチそこそこしかないような小さな女で、俺に寂しそうに笑っていたことを思い出す。
そういえば、あの女を迎えにきた男がいたのを思い出した。
迎えが来たから、行く。
そんなことを言っていたような気がする。
まぁ・・・俺には関係がない。
俺を迎えにくるようなヤツはいないし、この仕事は、それなりに気に入っている。

ジリリリリン

という年季の入った音に顔を上げ、俺は受話器をとる。

「はい」

それだけを言えばいい。
名乗る必要はない。
あとは相手の話をきいてやるだけ。
ただそれだけだ。
泣き出さんばかりに話はじめる男。
ぼそぼそと小さな声で喋り続ける女。
まるでこれからデートにでも出かけるかのようにはしゃいで喋る女子高生。
感情のこもらない声で淡々と話す若い男。
誰もが、話を聞いてほしがっている。
そして、死にたがっている。
俺は、彼らの最後の話を聞いてやり、彼らが聞く最後の声になってやる。

彼らは、俺の声をいい声だと言ってくれる。
最後に聞くにはとてもいい声だと。
それがいいことなのか、悪いことなのか分からない。
だから、俺は、いつも「どうも」とだけ言う。
彼らは最後にきまって「ありがとう」と言う。
仕事なのだから、礼を言われる所以はないのだが、決まってかれらは言う。
感謝の言葉を。

時々、自分が何をしているのか分からなくなる。
彼らの人生を聞いてやり、御礼を言われ、電話を切る。
彼らがそのあとどうやって死ぬのかは知らない。
本当に死んでいるのか確認したことはない。
だが、同じ人物から二度かかってくることはない。

死ぬとはどういうことなのだろうか・・・。
命を絶つというのはどういうことなのだろうか・・・。
俺には分からない。
死にたいと思ったことはない。
だからといって、生きたいわけでもない。
電話を・・・かけたいと思ったこともない。
死ぬ前に電話をかけるとはどういう気持ちなのだろうか?
それも全くしらない相手に・・・ほんの少し、興味が出てきて、俺は唇を指でなぞった。

そのとき。

ジリリリリリ

黒い電話が鳴った。

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