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最終電話

「今の俺なら繋がるかもな」
そういった翌日に、その友人は自殺した。
教室の真ん中で首をつった。
第一発見者は、私、有栖川有栖。

思えば、あの日から不運が私に付きまとうようになった。
怪我や事故が日常茶飯事で、全くついていないというしかないような日々が続いた。
合格確実とされていた大学受験も失敗し、親の事業がいきなりガタガタと崩れだした。
そして両親は離婚。
結局大学に行くことも出来ずに、働くようになり・・・そしてまた失敗。
全く、自分でも何処まで落ちれば気が済むのだというほどにごろごろと坂道を下っていった。
これで底辺だろうと思っていたところからも、次々に落とされていく。
人間此処まで不幸になれるものかと自分で感心するほどだった。
おかしな商売に担ぎ出され、気がつけば路上で寝ていたなんてこともあった。
目が覚めて、自分のものではない血がべったりと腹部についていたときの気持ちがわかるだろうか?
覚えもないのに、警察におわれるようなことになる気分がわかるだろうか?
身も心もボロボロ。
友人に裏切られ、
金に裏切られ、
恋人に裏切られ、
全てに絶望させられた。
まだ二十代の半ばだというのに、とうに還暦を越えたような気分だ。
私は何処までおちてゆくんだろう?

腕に空いた穴に私は小さく息をついた。
昨日の記憶がない・・・。
近頃では珍しくないことだった。
この小さな穴のせいだ。
何をやったかは覚えてない。
だが、この小さな穴は注射器のもので・・・やばいクスリに手を出してしまったのだろう。
どうして私はこうなのだろう・・・?
取り付かれているかのように不幸が襲い掛かる。
近頃では不幸だけが友人といったところだ。
頭の奥がジンジンした。
ジーンズのポケットを探り、小銭を出す。
確か、札も数枚入っていたはずだが、それはなかった。
どこへ消えていったのかはわからない。
それもよくあること。
電話ボックスに入り、家へと電話する。
家といっても、自宅ではなく、私が一人暮らしをしている家だ。
一人暮らしなのに何故電話をするかというと、私の家にだれかいないか確かめるためだ。
私の家の電話は、外からかけて、そこから番号を押すと部屋の中の音が聞こえるようになっている。
家へと繋がった電話に続けていくつかの数字をプッシュすると、呼び出し音が消え、シンとした沈黙が流れる。
しばらく待っても何の音もしない。
どうやら誰もいないようだと判断したときにそれに気付いた。
名刺くらいの大きさの紙。
そこに書かれた『最終電話』という明朝体の文字と、その下の番号。
「最終電話・・・・?」

記憶がフラッシュバックする。

「今の俺なら繋がるかもな」

高校時代の友人の言葉。
交通事故で、家族が全員死んでしまった友人の言葉。
最後の言葉。
翌日彼は、首をつった。
まだ青白い朝日が差し込む教室で、虚ろな目をして死んでしまった。

「知ってるか?アリス。最終電話っていうの」

熱い夏の日だった。
彼は幽霊のように白い顔で私に言った。

「死ぬ前の人間がかける番号なんだってさ」

空がばかに青くて、まるで偽者みたいだった。
うっすらと微笑む彼は、私の方に視線を向けながらも、全く私の顔を見てはいなかった。

「最後の話相手になってくれるらしいんだけど」

校庭では下級生がサッカーをしていた。
どこか遠くで校内放送が流れた。

「でも、いつでも繋がるわけじゃないんだ。本当に死ぬ前の人間じゃないと繋がらない」

そして、彼は綺麗に微笑んだ。
あの笑顔をなんと呼ぶのだろう?

「今の俺なら繋がるかもな」


私は気がつくと、その紙を手に取っていた。
私は・・・繋がるのだろうか?
私は・・・死にたいのだろうか?
私は・・・彼と同じところにいくのだろうか?

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