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マイバッハ

コロコロと、口の中でキャンディーを転がしながらアリスは路上をゆく人を見ていた。
白いパーカーに擦り切れただぶだぶのジーンズのかかとを踏み、座り込んでいる。
腰にはごついベルトと、そこから伸びるチェーンは財布へと繋がっている。
今日、彼が選んだ格好は10代後半辺りの男。
髪を明るい茶色に染め、肩の辺りまで伸ばしている。
片方の耳にはシルバーのリングのピアス。
そして、せわしなく目を動かして一人ずつを見る。
あれはダメ、これはイマイチ、あれはちょっとまずそう・・・
そんなことを小さくつぶやきながら品定めをしている。

近頃では魂の値段も安くなった。
だから、飛び切りの上玉を用意するなんてことは結構大変なのだ。
汚い魂なんてこっちの羽が汚れてしまう。
べとべとした汚いものを背負い込むなんて真っ平ゴメン。
それにしても・・・碌な人間がいない・・・
先ほどから見ていれば、なんと薄い魂しか持った人間がいないこと・・・!
水っぽぃ魂はベトベトのものよりも味気ないように思える。
今日だって、10代半ばの女の子あたりなら綺麗な魂を持っているかと思い、この姿をとったというのに・・・
その目当ての女子高生あたりの魂はそこらの大人と同じくらいに汚れている。
足も長く、細く・・・見た目だけは美しいが、魂がよどんでいる。
「今日も収入なし・・・ちゅーのはちょーーっときついんやけどなぁ・・・」
一人つぶやき、おなかを撫でた。
ここ数日まともな食事にありつけていない。
だからといってクソまずい食事だけはとりたくない・・・だが・・・・
「まさか・・・死神が行き倒れとか・・・ってのは洒落にならんしなぁ・・・」
しかし、つぶやいたとたんに、腹から子犬が鼻を鳴らしたような音がした。
まずいのを我慢しても、やはり食事を取るべきか・・・そう思ったとき、ふと知った気配が近づいてくるのに気づいた。
路上に落ちていた視線を勢い良く上げた。
そしてその気配の方に目を向ける。
もし、自分に尻尾があったらそれこそ千切れんばかりに振っていたことだろう。
駆け出したいような・・・それとも、その人がこちらに向ってくるのを待ちたいような・・・
うずうずとする身体を押さえつけ、雑踏の中をこちらへと一歩一歩近づいてくる気配を感じる。

見えた!

一瞬、人々の中に長身の男の姿が見えた。
アリスの創造主。
アリスは勢い良く立ち上がると、子犬さながらに、見えた男に走りよる。
その男は、とっくにアリスの存在には気付いていたのだろう。
駆け寄るアリスを見て、ニヒルな笑みを見せた。
長身に、筋肉質で引き締まった体。文句なしに整った顔、年齢のころは30半ばといったところか・・・。
しかし、彼らにとって年齢というものはそれほど重要なものではない。
彼らは望めば、幼児から老人にまでなれるのだから。
アリスは男の一歩前で立ち止まると、満面の笑みを見せた。
「なんや、君が来るんやったら、子供の格好でおればよかった」
「それはどうしてだ?アリス」
低く耳に通る男の声に、アリスはくすぐったそうに笑い、彼に並んで歩き出す。
「やって、そしたら抱きつけたやろ?」
「抱きつく・・・?俺はお前を抱えて歩くのは嫌だな・・・」
男が言うと、アリスは嬉しそうにクスクスと笑う。
「それにしても、その格好はなんだ?何処かの不良少年のようじゃないか」
「不良少年って・・・!君、えらく言葉が古いな」
「古くて当然だ。俺は此処にいるだれよりも長生きしてるんだからな」
「うん。そうやね」
そういいながら、無意識に彼の裾を掴むアリスに男は苦笑した。
「それで、何をしていたんだ?」
「何って・・・おなかすいてん」
「あぁ・・・・選んでたのか」
男が言うと、アリスは少しだけ頬を赤くした。
彼は自分が人の魂を糧にしているということを普段は何も感じないのだが、この男の前にあるときだけは別だ。
なんとなく自分がとても卑しいものになったような気がする。
だが、そんな自分を創ったのは目の前のその男で・・・本当は照れる必要など全くないのだが。
男は、アリスのその複雑な内心を知っているので、軽く頭に手をのせてやった。
アリスは肩をすくめるようにして、その男の手を受ける。
姿こそ十代の男のものだが、表情だけみれば小学生でも通じるほどに幼く見える。
「それで、腹がへっているのか?」
男の問いの答えたのはアリスの口ではなく、彼の腹の音。
「なるほど。すいてそうだな」
「うん」
「よし、いいものを食わせてやろう」
「ほんま?!」
飛び跳ねて喜びを表すアリスに、男はまた苦笑しすばやくあたりを見渡し、小さく何かをつぶやいた。
すると、人々の視線が何かにつられたかのように、空を見上げた。
その一瞬をついて、男はアリスに魔法をかける。
「わっ!」
アリスが悲鳴をあげるのを、男は片手で受け止める。
アリスは、幼児になっていた。
白いパーカーとジーンズはそのままだがサイズが小さくなっている。
年のころなら5歳程度だろうか、男の腕に抱えられていた。
「抱きつきたかったんだろう?」
「抱くのいややっていうたくせに」
アリスは笑いながら言い、男の首に腕を回した。

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