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雨涙-ウルイ-

【雨涙】ウルイ
    雨のようにとめどもなく流れる涙。
熱帯に属するこの国ではよく雨が降った。
クソ熱い夜に涼風を送ってくれるような雨ではなく、どこまでもじとじとと、暑苦しい雨。
俺たちの営舎に、空調なんて大層なものはない。
寝苦しい夜だった。
だが、昼間の激しい戦争のせいか、同じ隊の連中の殆どは大いびきを立てて眠っている。
起きているのは、俺ともう一人、インテリと呼ばれている男だ。
インテリは、枕元の小さなライトの下で熱心に聖書をめくっている。
俺はそれを見るともなしに見た後、寝るのを諦めて、狭いベットから足を下ろした。
「眠れないのか?」
インテリが気配を察して問う。
「まぁな」
「寝ていたほうがいい。明日はもっと熱くなる」
熱いが、気温のことなのか、戦いのことなのかわからない。
俺は、あぁと返事をして、むさくるしい男たちの部屋から出た。
全て木でできた営舎は、大気の湿気をたっぷりと吸い、たわんで見える。
煙草でもふかそうと、中庭へと出る。
外は酷い雨だった。
大粒の雨粒が、滝のように降り注ぎ、一面が泥の水溜りになっている。
風はないので、庇(ひさし)の下にいる俺は雨に濡れることはない。
雨の強烈な音と、時折光る空、そして送れて届く雷鳴。
ぼんやりとそれを見て、視線をうつすと、右手の先に男が一人立っているのに気づいた。
夜間の警備をしている者だろう。この雨の中、庇にも入らずに立ちすくんでいるように見えた。
普段なら、そんなヤツに近づこうなどとは思わないのだが、そのときは俺も退屈が過ぎていたのだろう、なんとなくそいつの方へと足を伸ばした。
「よぅ、ブロー(兄弟)」
声をかけると、そいつ(ポンチョを着ていた)は驚いたようにコチラを見た。
頭に深く被ったフードのせいで顔までは分からないが、兵の中では小柄な部類に入る体型をしていた。
「驚くなよ。警備中に何をぼんやりしてたんだ?」
「・・・ちょっと考え事をしておりました。」
「よせよ。俺はただの伍長だ。その喋り方はやめてくれ」
「・・はぁ」
「で、何を考えてたんだ?」
あらためて聞くと、男は俺から目を離して、先ほど見ていた方角にぼんやりと目をやった。
「昼間のことや」
おやっと俺は思った。こいつの喋り方、この訛り・・・。俺がある地方の名を出して、そちらの出身かと聞くと、そいつはこくりと頷いた。
「お前、まさか、アリスか?」
またもやそいつは頷く。
「こいつぁ驚いたな。」
アリスとは、この駐屯地では偉く名の通ったヤツのことだ。
有名なのだが、あまりイイ意味ではない。
毛色の違う、この戦争に不似合いな、小奇麗なお嬢さん。という意味でだ。
本当にお嬢さん、つまり女ではないが、それくらい不似合いだという意味で有名だった。
そのせいか、上官たちには偉く可愛がられているらしい。可愛がって・・・といっても、夜のお相手を仰せつかっているという意味ではなく、サディスティックな上官たちのストレス解消の道具という意味らしいのだが、中には、おかしな勘違いをするヤツもいる。
いろんな意味で有名な男だ。
俺の驚きに、アリスは気分を害したらしい、むっつりと向こうをむいてしまった。
俺は、煙草を取り出して、やつに差し出した。
「一本どうだ?ブロー」
「・・・・頂くわ」
アリスはまだ不機嫌そうではあったが、庇の中に入って、一本手に取る。
俺もまた、一本取り出し、口に咥えると安物のライターを擦った。
っが、おそらくこの湿気のせいだろう。何度やっても、シュッっという音とともに火花が散るだけで、火がつかない。
意固地になって、何度もやっていると、クスリと笑い声が聞こえ、隣をみると、フードを取ったアリスが笑っていた。
なるほどな・・・っと俺は感心した。
毛色の違う、戦争には不似合いなお嬢さん、その評価が間違っていないことを自分の目で確認した。
色素の薄い白い肌に、女のようにほっそりとした顎、猫科の動物を思わせる黒目勝ちで丸く大きな目、輪郭に沿って、長めに伸ばされた髪。
まるで、ここには似合っていなかった。

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