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天秤と伴に眠れ 4

「君・・・」
「冗談やろう・・・?か?」
下手な関西弁で火村が言うが、今は突っ込む気にもアリスはなれず、数度つよく頷く。
「それはこっちの台詞だ・・・」
「嘘やない。記憶を失のうているんは本当や。
 疑うんやったら、医者の診断書みせてやってもええ。ほんまのことや」
それをアリスが告げると、ひどく痛そうな表情を火村がした。
「アリス・・・」
「とにかく、こんな玄関先ではなすことやないし、コーヒー入れるから・・・」
「いや」
キッチンに戻ろうとしたアリスを火村が声で引き止める。
「やっぱり帰るよ。アリス」
頑なに帰ろうとする火村をアリスはじっと見つめる。火村はしばらくはアリスを視線を合わせていたが、先ほどからと同じように、ふいと視線を下に逃がした。
「なんで?」
ごく自然で簡潔な問いであったはずなのに、火村の表情が凍る。
「火村?」
「・・・・」
何も答えずに、ノブに手を伸ばそうとした火村を、アリスは今度こそ手でとめた。
火村の腕に不自然な力がこもったのに気付いたが、アリスは手をはなさなかった。
「待てって。理由くらい説明してくれてもええんやないか?」
動きを止めはしたものの、火村はそのまま動かない。
火村の中で何かが激しく葛藤しているのだろう。
「火村・・・。」
アリスが懇願するような声を出す。
いまだかつて、火村がアリスのこの声を無視したことが無い口調だ。
すがるような、例えるならば見捨てられた孤児の子供が親に向かって捨てないでと懇願するような声。捨て犬のなきごえ。
少しずるいと思うが、アリスはそれを利用させてもらった。
そして、それは成功したかに見えた。
火村は一つ息をついてアリスを振り向いた。
火村の口からは“わかったよ”っと諦めたような言葉が出るはずだった。
しかし、
「放してくれ、アリス」
硬い口調に、アリスはわずかに目を見開いた。それはわずかな反応だったが、火村にはそれがわかったらしく、ふいと視線をまたもそらされてしまう。
怒りに似た感情がアリスにふっと沸いたのはこのときだ。
アリスは、つかんでいた手に力をこめて、火村を睨んだ。
「いやや」
「・・・アリス」
「いーやーーや!」
子供がダダをこねるように言うと、火村はまた息をついた。
「君が何をかんがえとるかわからんけど、勝手にかえるのは許さん」
強い言葉に、火村は小さく首をふった。
「違うんだアリス」
「何や」
「俺とお前は・・もう、終わったんだよ」
火村の言葉に、アリスは鼻をならした。
「ハン、なに、恋人同士みたいなこというてるんや。ほら、さっさとあがり!」
強くアリスが引くが、火村はびくりとも動かない。
「2年間没交渉だったといっただろう。」
「・・・・せやけど・・・なんでや?」
またもや単純で簡潔な質問。
火村は痛みを耐えるように笑った。
「俺にそれを言わせるのか?」
「・・・せやって、俺と君との問題やろ?」
火村は泣き笑いの表情で、口元をゆがめた。

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