スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

天秤と伴に眠れ 2

久しぶりに入ったアリスの部屋は、驚くほどかわっていなかった。
俺がよく使っていたソファもそのまま同じ位置にあり、使っていた灰皿も少し埃を被った状態で定位置に鎮座している。
上着をかけておくためのハンガーも。
何の面白みも無い、真っ白なカップも・・・。
タイムトリップをしたかのような感覚に、眩暈を起こしそうになり、手を額へとあてた。
「君ほんとに具合悪いんやないか?」
アリスが差し出した手を大げさによけた。
アリスは一瞬きょとんとしたあと、困ったように笑い手を引いた。
こいつも・・・かわっていない。
最後にみたアリスより少し痩せ、猫毛のやわらかい髪が項にかかるほど伸びている。
だが、根本的なところは全くかわっていなかった。
「悪かった・・・・」
「いや・・・ええよ。」
背を向けたアリス。
その背も、細い線も、笑顔も、言葉遣いも・・・なにもかも・・・。
「コーヒーでええよな?」
「あぁ」
当然のごとく、俺が使っていたカップをとるアリス。
立ち尽くした俺を見て、微笑む。
「なに、つったっとんねん。ソファにでもすわっとけ」
「・・・・あぁ」
すぐにクルリと背を向けたアリスの元を離れ、ソファへと足を運ぶ。
ソファに腰を下ろし、膝に腕を置いて自らの頭を抱え込んだ。
くらくらとする頭を少しでも安定させたかった。
これから、何を言われるかわからないから、少しでも覚悟を決めなくてはいけない。
そう思っているのに・・・ちっとも頭が働いてくれない。
こんなことは初めてで、どうしようもなく心細かった。

「君、ふるえとるで?」
いつのまにか、隣に立っていたアリスが俺にカップを差し出している。
何を言われたのか分からないまま手をさしだして、それが小刻みに震えていることで、アリスの言葉を理解した。
「あぁ・・・」
カップをうけとると、じんわりと温かさが指に伝わった。
「あぁ・・・って、ほんまに大丈夫なんか?」
アリスはそういうと、テーブルの横、床に直接座ってこちらをみあげた。
大丈夫?大丈夫なものか・・・。
「・・・相談ってのは何なんだ?」
アリスの問いに答えずに、反対に聞き返すと、アリスは少し不満そうな顔をした。
それがまた俺の記憶を揺さぶる。
「うん・・・あ、その前に」
「なんだ?」
「夕食や。俺が作るっていうとったろ。シチューなんやけど、今くうか?」
「あぁ・・」
本音をいうと、食欲なんてちっとも感じてはいなかった。
「ちょっと待っててや」
そういって、立ち上がり後ろを向くアリス。俺はそれから目をそらした。
どうして笑えるんだ?
どうして平気な顔ができるんだ?
「ほんまはカレーにしようと思ってたんやけどなぁ~。君が来る前に・・・」
アリスがキッチンから喋っている。
その言葉を俺は聞いている。
なのに、言葉が意味をなさない。
俺に聞こえるのはアリスの声だけ・・・。
アリス・・・。アリス・・・。アリス・・・。
カップをテーブルに置き、額を抱え込んだ。伸びた前髪が、ハタリと落ちてきた。
普段ならすぐにかきあげるそれも、今の俺には都合がいい。
手で髪をほどよくほぐし、頬の辺りまで伸びた髪で横顔を隠した。まともに彼の視線を浴びるのは今の俺には辛すぎた。

カタリと小さな音を立てて、白いシチュー皿がおかれる。
白いシチューの中には、赤いにんじんとやわらかそうなジャガイモ、ブロッコリー、玉ねぎ・・・。
かなり熱いのだろう、白い湯気をもうもうと上げている。
「・・・パンは明日の朝食の分しかないから、ごはんで我慢せぃよ。そいえば・・・」
アリスは、シチュー皿をふたつ置くと、またキッチンの方へと戻る。
そのあと、ご飯、飲み物、スプーンと何度か往復した。
その間もアリスはなにが楽しいのか、はしゃいだように喋り続けた。
「さ、んじゃ、食うか。言っとくけど、君を基準に味をかんがえなや?
 俺の味付けやとかんがえてからちゃんと食ううんやで?」
「期待しちゃいないさ」
ぽつりとつぶやくと、アリスは本当に嬉しそうに笑い、俺はまた視線を伏せた。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。