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天秤と伴に眠れ 1

「火村か」

二年間途絶えていた連絡が来た。
もう二度と聞くことはないと思っていた声を携帯越しに聞いた俺は、なんとも言えない気持ちを味わった。
突然空白の中に放り出されたような、頭が真っ白になっちまうようなそんな感じだ。
研究室の景色が光年以上も向こうに去っていき、廊下をざわついて通っていた学生たちもそのはるか向こう・・・。

「火村か?・・・おーい、何かいえや。火村~?」
俺の返事がないことに不審を抱いたのか、その男はのんきな声で俺をよんだ。
「・・・あっ・・・あぁ聞こえてる…どうした?」
「悪かったな、ここ最近どたばたしとってな。今日辺り飲みにきぃへん?
 相談したいことがあるんや」
一体・・・何故・・・。
「・・・」
「おい、火村?きいとるんか?」
「あぁ」
「都合悪かったか?無理にとはいわんよ?」
都合・・・?
あぁ、だめだ、思考能力が低下して何を言っているのかすらわからない。
「アリス・・・」
「なんや?君、さっきから変やで?」
それは俺の台詞だ。
なんでいきなりこんなに唐突に・・・・・・まるで二年前の事をすっかり忘れてしまったかのように電話してくる?
ようやく・・・ようやく、少しずつ日常を取り戻していたのに・・・どうして俺の心をかき乱す・・・?
ぐらぐらと視界がゆれ、気持ち悪くなった俺は倒れこむように椅子に腰を下ろした。
「具合でも悪いんか?」
「いや・・・それより」
「ん?」
「行ってもいいのか?」
二度と入れないはずのアリスの部屋。
涙を浮かべたアリスの顔。
白い肌に浮いた暴力の跡。
ひきちぎられたシャツ。
「何をいまさら。何時くらいになる?」
何故笑う?
「おまえ、一体どうしたんだ?」
“さよならや”
聞き間違うはずのないアリスの絶縁を告げることば。
突き放すように途切れた通話。
無感動な電子音。
「せやから、それが相談なんや」
不意に沸き上がる甘い期待。
あるはずのないこと・・・。
二度と帰ってこない時間・・・。
机につっぷし怯えるように背中をまるめた。
アリスを失って・・・構築しなおした俺の礎がガラガラと崩壊していく・・・。
「アリス」
「うん?」
アリスのことば一つ一つを逃さぬように携帯を手の平でふたをした。
赤い夕焼け…赤く染まった空、雲、町並み、自分。
空虚。
大きな穴。
埋めるものなど・・変わりなどあるはずもない・・・大きな穴。
「アリス」
すがりつき、懇願し、土下座すれば手に入るというならいくらだってしただろう。
泣いて、懺悔し、血を流し、叫び・・・それで手に入るのならば。
「アリス・・・」
「君、どうしたん?」
心配そうなアリスの声。
あぁ、わかってるさ・・・俺が死ぬほど情けない声をだしていることだって・・・。
でもな・・・アリス。お前のせいだぜ?どうしていまになって・・・。
「・・・アリス・・・」
「…君、ないとるん?」
「・・・馬鹿野郎」
泣いてしまいそうな気分ではあったが、涙は枯れている。
「・・・・なんやわからんけど…おつかれみたいやな。夕飯は俺が作ったるわ。」
あぁ・・・・アリス・・・・。
どうして…やさしくする?
俺は二年前、おまえにひどいことを・・・。
怯えた顔、顔色を無くし、小刻みに震えていた肩・・・。
汗で冷たくなった体・・・。
「火村?」
「・・・あぁ・・・八時くらいにはいける」
「わかったわ。まっとる」
「・・・あぁ・・・」
アリス・・・・。

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