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モロク

読み返す気力なし。勘弁。
出版社の仕事はハードだ。
毎日、帰宅するのは10時を過ぎるというのはあたりまえの世界。
今日もすでに10時を過ぎている。
駅から少し離れた、私の住んでいるあたりは住宅街になっている。通りから二つほど入ったとおりなので、夜はかなり暗く、人通りも少ない。かわりに出てくるのがストリートギャングとかいううるさ型の若い男たちだ。
特に、夜の児童公園は溜まり場になっているらしく、かなり危ない。
その前の通るときは、なるべく足音を殺して歩くようにしている。
近頃、隣町では浮浪者狩りがあったばかりだ。まさか、この公園に集まっている連中がそんなことをしているとは思わないが、用心するにこしたことはない。なにせ、出版社につとめている私は、昔からどちらかというと文学青年で、体力には自身がない。
1対1ならなんとかなったとしても、相手は片手の指よりも多い。そんな連中、しかも頭の悪い・・・となれば、間違えば死ぬ可能性だってある。私は死にたくはないのだ。
問題の児童公園。
昼間は、母子たちの楽しい声が聞こえるこの公園からは、日の沈んだ今は下品な若い男たちの声が聞こえてくる。
何が面白いのか知らないが、げらげらと大声を上げて笑う。
嫌だな・・・私はそう思いながらも、ちらりと公園のほうを見た。
まだ木々にさえぎられて姿は見えない。街灯が照らし出す白い光が、葉を照らし出しているだけだ。
途端、先ほどまで下品に笑っていた連中の声がピタリとやんだ。
・・・?なんだ?
彼らの興味を引くようなものがあったのだろうか・・?っと重い、慌ててそれが自分ではないかとピタリと足をとめて耳を済ませた。
もし、自分が標的だとしたら、真っ先に逃げるつもりだ。が、もし違った場合、身をさらすのは馬鹿だけだ。

「ぐぁっ!」
かすかな悲鳴と、何か重いものが地面に落ちる音。重いもの・・・?いや、あれは人間が倒された音じゃないのか?
私は無意識に低姿勢をとり、フェンスと木々の隙間を目指した。
「てめっ・・・ガッ!!!」
ズザッという音。
一体何が起こってるんだ・・・・・???
自分の足音すらうるさいほどに感じる。ゆっくりとゆっくりと進み、その隙間へと目を移した。
まず見えたのは、街灯の下にたたずむ男。
ほっそりとした体。白いコートは膝下まで長く、ゆったりと風をはらんでゆれている。
顔までは分からないが、ただぼんやりとたたずんでいるように見えた。
そして・・・
「ぁっ」
小さく思わず声がもれた。
その男の足元に複数の影がうずくまるように見えた。
それは、いつもこのあたりで騒いでいる若者の姿だとすぐに気付く。金髪の若い男やボーズ頭の男たちがうずくまっている。
1・・2・・3・・・4・・・4人も・・・
そして、今まさに一人の男がそのコートの男に飛び掛った。大振りな、明らかに素人とわかるようなその動き、コート姿の男は、何の反応も示さない。その男の頬に、男の拳が思いっきりぶちあたった。そう思った。だが、次の瞬間、殴りかかった男は宙をまって、背中から地面に叩きつけられていた。
何が起こったのかとっさに分からない。だが、その間に、残っていた一人の男がタックルの要領でコートの男に飛び掛った。コートの男よりかなり目方のある男だった。吹っ飛ばされるっと思ったが、やはり違った。
そして、私は今度はその瞬間を見た。
コート姿の男の姿がふいに揺らいだかと思うと、体当たりをしてきた男の身体をするりとかわす。
男が勢いあまって地団太を踏んだ。
コートの男はちらりとそれを確認したように私には見えた。
そして、男の首筋にしたたかに肘鉄を食らわせる。
あまりにもあざやかな一閃。
まるで・・・流れる川のようになんの無駄もない動き。
飛び掛った男は、きっと何が起こったかもわからなかっただろう。
どうっと倒れ、四体を引く突かせてつっぷした。
コートの男はそのときにはすでにまたさきほどの立ち尽くすような格好をしている。
何処にも力をいれず、ただぼんやりと立っているような・・・だが、その足元には6人の男たちが半分ほどは意識を失いつっぷしている。
私は思わず、喉をならして唾を飲み込んだ。
しばらく、ぼんやりとその男たちの中央にたたずんでいた男はふいに顔をあげ、公園の向こう側に視線をうつした。
私もその視線を追うと、街灯の光の届かないところから、男がふいにあらわれた。
こちらは黒いコートの男で、白いコートの男より身長が高く、体格も良い。体格がよいといっても、プロレスラーのようなっというのではなく、プロボクサーのように引き締まった体という表現が似合う男だ。
その男の顔までは見えないが、口元で煙草をくねらせている。
私は注意深く耳を澄ませる。
「終わったか?アリス」
風にのって、黒いコートの男が発した言葉がこちらまで届いた。まるでハリウッドスターの吹き替えの声優のように、低くそしてよく響く声だ。
「あぁ、なんや、つまらんやつらやったわ」
応えるのは白いコートのアリスと呼ばれた男。こちらは、さきほどの男の声よりは少し高く、やわらかい。
「準備運動にもならなかったか?」
「全然やわ。つまらん」
その口調に、黒いコートの男は笑ったようである。
「全く、いきがるなら、それ相応の実力つけてからにしてほしいわ」
そういって、アリスといわれた男は、転がっていた男のわき腹のあたりを蹴り上げる。男の呻く声が聞こえた。
そして、アリスは何を思ったかかがみこんで男の身体を探る。
「何やってるんだ?」
怪訝に思ったのは私だけではないらしく、黒いコートの男がアリスに尋ねる。
「ん~・・・あ、あったあった、これや、火村」
そういって、アリスは火村と呼んだ男のほうに手にもったものを掲げる。
此処からでは何かわからない・・・が、次の火村という男の台詞で彼が何をしていたかがわかった。
「お前がカツアゲしてどうする・・・アリス・・・」
そう、どうやら、彼は男の財布を抜いたらしいのだ。
「せやかて、あって困るもんでもないし。」
そういって、もう一人の男のとろこにかけよって身体をさぐるアリスに、火村という男は肩をすくめ、街灯の向こうへと歩き去った。
「あ~・・・もぉ~ちょいまちや!」
男が自分から遠ざかったことに気付いたアリスが、声をあげ、それでも二つ目の財布をきっちりと持ち、火村という男の後を追って公園の向こう側へと消えた。
私はしばらくその場で、二人が消えていったほうをじっとみつめ、やがて、中腰になっていた身体を起こした。
「・・・・アリス・・・火村・・・?」
それは、表の世界には出てこない、裏の世界ではかなり売れた名らしいのだが、勿論、表の世界に居る私は知るはずがなかった。

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