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らっしゃいノームランド 13

早く旅立ちたい

翌日、的場はヤザリに付き添われ旅の準備をするためにいくつもの店を回った。
資金的には全面的にヤザリに頼ることになるが、ヤザリは気にするなといってなるべくよいものを的場のために揃えてくれた。
的場が背負うリュックや布団代わりや敷物にもなる大きめの布。洋服や靴、着替え、あると便利な小さめの鍋や紐、携帯食料などなど…。
いざとなれば、「どこでもおうち」機能を使えばいいのだが、的場はなるべく自分の力だけで旅をしたいと思っていた。

「あとはナイフくらいはあったほうがいいな」
夕方になり、的場がくたくたになった頃にヤザリは言った。
「な、ナイフですか?」
野蛮な事を想像する的場に、ヤザリはそうじゃないと笑う。
「もちろん護身用も兼ねてはいるが、果物や肉をさばいたり、紐や布を切ったり色んなことにつかうんだ」
「あ、あぁそうか」
「いつでも腰のベルトにつけておくといい」
そう言ってヤザリが選んでくれたのは的場にはやや大きなゴツいナイフだった。
「手入れの仕方なんかはディーに習うといい」
ナイフは腰につけるとズシリと重い。重心がずれて歩きにくいことこの上ないが、これは慣れるしかないだろう。

一通りを買い揃えると、二人は宿に一度戻り、それから揃って教会に出掛けた。
今日もまた人はまばらであり、中心地の喧騒とは比べ物にならないほどにひっそりとしていた。
そこで的場はヤザリから、この世界で一番勢力を持つハトゥリヌス教の教義概要を聞きつつ、人々の目がなくなるのを待った。
ヤザリによると、ハトゥリヌスでは7人の神と、大精霊樹が信仰の対象になっているという。
「七つの神と精霊樹は親と子の関係であると言われているが、どちらが親でどちらが子であるとはハトゥリヌスでは教えていない」
ハトゥリヌスでは、七つの髪が大精霊樹を産み、大精霊樹が七つの神を生んだという矛盾がごく当たり前に語られるらしい。
「その為、七つの神と大精霊樹は兄弟の関係とする宗派もある」
また、異端とされハトゥリヌスからは破門されているが、七つの神と大精霊樹を生んだ忘れられた神がいるとする宗派もあるらしい。
「ハトゥリヌスは特に厳しい戒律があるわけではない。ごく一般的な信徒は自然を自然と受け止め、無駄な殺生を慎み、精霊樹を慈しむ、それがすべてと言っていい」
とはいえ、こちらでは当たり前すぎてヤザリが口にしていないこともあるだろう。
的場はしばらくは慎重に行動しようと心に留めた。
と、そんな話をしているとぽっかりと人がいない時間が出来た。
的場は精霊樹に近づき、心を込めて呪文を紡いだ。

エリ・エリ・レマ・サバクタニ

的場から生じた光はキラキラときらめきながら精霊樹へと吸い込まれる。
「あぁ…すばらしい」
みるみると色彩を取り戻す精霊樹に、ヤザリは目を細めた。
「いや、すばらしい。こんなに元気な精霊樹を目にするのは久しぶりだ。うむ。空気が目に見えて清浄になっとる」
的場はヤザリの感動する声を聞きながら、今のうちにと近くに生えている木々にも魔法をかけ、それから「まだまだですよ」と言った。
「ようやく1割ほどといったところですね」
「ふむ。的場さまには、精霊樹の器の大きさのようなものがわかるのか?」
「…そうですね。目に見えるわけじゃありませんけど、なんとなく」
少し考えて的場が答えると、ヤザリは素晴らしいと頷いた。
「しかしこれだと恐らく明日には神官たちに気づかれてしまうだろうな」
「あ…」
「だがまぁ大丈夫だろう。誰もその原因なぞわかるはずがない。せいぜい祈りが通じたのだと騒ぐ程度だ」
「そうですか」
的場はほっと胸を撫で下ろし、「でも」と少し不安げげな顔をする。
「そうなると、もうこれ以上は魔法をかけられませんね」
「そうだな。だが、これだけ回復すれば、またしばらくは大丈夫だ」
「はぁ…」
「うむ。気持ちはわからんではない。せっかくだから、もっと元気にさせたいのだろう?」
「はい」
「だがそれは一時の満足にしかならんだろう…」
「そうですね…。はい。そうでした」
的場はこれまで何度かヤザリと話してきたことを思いだし頷いた。
「俺は旅をしたいと思います。そうして何か世界を救う方法を探したいと思います」
「的場さま」
ヤザリは的場の言葉に感動したようだった。
「きっと、何か方策があるはずですよ。だから、大丈夫です」
「それをきくと…なにやら罪悪感がわくな」
「なぜです?」
「的場さまは、偉大なる精霊様だ。きっとその事実が伝われば、どこぞの国が丁重に保護してくれるはずだと思うとな」
「でも、それじゃぁ世界は救われない」
ヤザリは頷く。
「よし、私も色々と調べてみることにしよう。そしてわかったことは、旅人ギルドに伝言を残しておくことにしよう」
「はい。ありがとうございます」
ニコリと微笑む的場にヤザリは緩く首をふった。
「何も。これは我々の業なのだからな」
「でも、俺も守りたいと思っているから」
「ありがとう」
ヤザリは言いながら、的場の手をぎゅっと握った。



翌日、的場は早くに目をさますと早速精霊樹の元へと向かった。
もしかしたらまだ騒ぎにはなっておらず、魔法をかけるチャンスがあるかもしれないと思ったからだ。
しかしメルヴィル市街地は早朝とはいえ、荷車をひく人や水を巻く人などすでに人通りがある。
中心地にある精霊樹には魔法をかけるチャンスはなさそうであり、また教会は夕方よりもずっと人があつまっていた。
「朝の礼拝ってやつかな?」
教会内部には人があつまっており、中庭には人気がないようだが、そちらに出ることは出来そうになかった。
「仕方ないな…」
的場はしばらく待ってチャンスがつかめそうにないとわかると外に出た。
旅立ちは明日。
それまでにやっておくべきことはたくさんある。
彼は一度宿に戻って朝食を取ると、薬師ギルドへと向かった。

「あら、的場。おはよう。早いわね」
「おはよう、エリー。早速なんだけど、図鑑を貸してくれる?」
「いいけど、持ち出さないでね」
「わかってる」
的場は大きな図鑑を受けとると、テーブルの上に開き、ヤザリに買ってもらったノートに写す作業に取りかかった。
最初は12種類だけとはいえ、覚えるとなると大変である。
的場は草など意識してみたことなどないから、いくら座学で勉強したところで、いざ区別がつくかと自信がない。
しかしとりあえずは写すのが先決とがんばることにする。
的場にはとっては久方ぶりの勉強であった。
それに近頃ではITの革新によりほとんど自分で文字をかく事がなくなっていた的場には、しばらく文字を綴るだけですぐに手首がだるくなる。
それでも一生懸命に文字は書いたが、そもそも画才がない的場は植物の絵を描くのに難儀した。
何度かきなおしても、見本とは似ても似つかぬひょろひょろとした絵には自分の絵であるにも関わらず顔がひきつった。
これでは後で見たときに何がなにやらわからぬ。
もう一度、もう一度と描き直していると…
「仕方ないわね」
エリーが笑いながら、彼の手元に見本となる草を置いてくれた。
「それをノートに挟んでおくといいわ」
「いいの?」
「的場の頑張りに免じてサービスしてあげるわ」
彼女はそういって、この植物はこれで、こっちは…と12種類すべての現物を見本としてくれた。
的場はエリーに深く感謝しながら、見本をきれいにノートにとじ笑顔を浮かべた。

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