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らっしゃいノームランド 08

適当展開すぎる

精霊樹は村の真ん中に弱々しく立っていた。
たよりない気配。
今にも消えてしまいそうな魂で。
そしてその生命を削るように、少しずつ温かなものを周囲に散らしていた。

なんとも痛ましい姿を見て的場は涙がにじみそうになった。
樹木の周りには、供え物なのか花が手向けられており、小さな台の上にはまんじゅうのような白く丸いものが置かれていた。
的場がしばらく立ち尽くしていると、腰の曲がった年寄りがやって来て台の前で膝をつき樹に祈り出した。
「精霊樹様、守り樹様。どうぞ私たちをお守りください。虚無を打ち払いください」
作物が病気にならずに育ちますように。
人々の心が健やかでありますように。
子供たちが元気に過ごせますように。
魔物たちが村に近寄りませんように。
「どうぞ私たちをお守りください。どうぞこの村をお守りください。どうぞこの国をお守りください。どうぞ世界をお救いください」
お願いします。お願いします。お願いします。
何度も手を擦り合わせ、頭を下げる年寄り。
するとどうだろう。
精霊樹から振り絞るようにあたたかなものが放出され…そし精霊樹はまた少し命を減らした。



「精霊がいれば、この世界は虚無から救われるのかな?精霊はどこにいったのかな?どうして立ち去ったのかな?」
宿に戻った的場は辛そうな顔で呟いた。
「精霊樹は頑張ってたよ。余裕なんてないのにさ、命を削って村を守ろうとしてたよ。俺が魔法を唱えると…、バカだよね、ほとんどをまた解放しちゃってた。自分が元気になるのが先だろうに」
ヤザリは的場の言葉に「そうだな」と頷いた。
「精霊が去った後も、精霊樹はこの世界にありつづけた。自分を慕って集まって、そして長いこと一緒に暮らしてきた人々を見捨てることができなかったんだ」
「ヤザリさん。この世界は本当に終わっちゃうの?」
「たぶんな。この世界は精霊によって支えられている。その精霊がいなくなってしまったんだ。精霊の加護の元に暮らしてきた人々はやがて滅び行くだろうな」
「俺一人じゃ無理だよね」
的場が尋ねると、ヤザリは長く沈黙したあと小さく首を傾いだ。
「的場様、あんたの力は偉大だ。もしかしたら国の一つくらいは救えるかもしれない。だが、それは同時にとても辛い決断でもあるだろう」
一つの国を救うというのは偉業であるにちがいない。しかしそれは他の国々の犠牲の上にしかなりたたないものである。
「精霊たちは戻ってこないのでしょうか?」
「さて…」
「……」
暗い顔で黙りこんだ的場は、どう考えてよいかわからなかった。
彼は特別に正義感が強い男ではなかったが、滅び行く世界をただ傍観するほど冷たい男でもない。
少なくとも、できるならば救いたいという気持ちはある。
精霊樹と呼ばれる木に拝む老人と、精霊樹が命を削っている姿を見た後では尚更だ。
「どうすればいいでしょう」
「……」
的場の問いにヤザリは考えた。
いや、的場と出会ってからずっと考えてきた事を反芻した。
いくつか考えはあった。
しかしどれもうまく行くとは考えられず、下手をすれば滅びを加速させてしまう手段になりうる。
「…我々を救ってくださりたいという気持ちはありがたいが…」
「ありませんか?」
「先ほど言ったように、やはり国を一つ持ちこたえさせるのがやっとかと」
ため息をつくようにヤザリは言った。
「だが、そうしたところで終わりは見えている。残酷なようだが、現実的に見て…あんたにやれることは気休めにしかならん」
せいぜいが延命措置。
それも辛い副作用を伴うものと断じられ、的場はうつむいた。
「滅びる…、滅びるって一体どうなるんですか?虚無におかされたからと言って、森が枯れ果て川が干上がるというわけではないですよね?」
色身を失ってなお、どうどうと繁る木々を思いだし的場が問うと、ヤザリはゆっくりと頷いた。
「さよう。確かに虚無におかされたからといって、がらりとなにかが変わるわけではない。世界が虚空に消えるというのでは…ない。ただ…精霊の世界から、虚無の世界に移行するだけ…ともいえる」
「え?」
「我々のように強く精霊とかかわり合ってきた人々は、変わった世界では生きてはいけない。虚無の世界は、虚無の人々、虚無の動物たちが暮らす世界だ。だから世界が滅ぶという言い方は正しくないのかもしれん。ただしくいうならば、精霊の世界が終わるのだ。精霊とともに生きてきた人々の終焉とともにな」
話をうまく飲み込めずいる的場にヤザリは小さく微笑んだ。
「精霊樹が死んだらどうなると思う?」
「それは…枯れるのでは?」
「いや、精霊樹はその力を使いきると、虚無を吐き出すようになるんだ」
「えっ」
「虚無の樹になるわけだ。そうして精霊樹が虚無の樹になってしまうと…そこに集っていた人々はもうそこでは暮らせない。人々は病気になったり気性が荒くなったりする。そして突然…人々の中に虚無の人が現れ出す」
虚無の人…?
的場はそれについて詳しく聞こうとしたのだが、ちょうど下から女将さんが夕食だと呼んだので話は中断してしまった。

女将さんが作ってくれた料理はトマトベースのシチューだった。
ボリュームたっぷりでおいしそうではあったが、まったくもって味気なく、何を食べているのか的場にはまったくわからなかった。
女将さんの出前、笑顔で料理を口に運んだが半ば意地にならないとすべて食べれなかった。
もちろんこれは女将さんの料理がひどいというわけではない。
空虚な食物は、どう料理しても空虚なもの以外になりえないのだ。
特に精霊である的場は、他の人よりもずっとそれに敏感にできていた。
栄養がほとんど含まれない食事は、人を内面からじわじわと病ませる。
的場は腹に氷解をいれてしまったような気分になり、早々に部屋に戻るとベッドに横になって眠りについた。
その日、彼はとても嫌な夢をみた。
それはおどろおどろしい真っ暗森で、一人延々と歩き続ける夢だった。
昼でも暗い森は虚無の森だ。
そこには得たいの知れない不気味な虚無の住人たちがいる。
そして一人だけになってしまった的場を嘲笑っている。



翌朝、昨晩早くに寝てしまった的場は明け方近くに目を覚ました。
部屋の向かい側では、ヤザリがぐっすりと寝入っている。
的場はまだ村が眠りについているのを確かめると、宿を飛び出した。
向かう先は、昨日の精霊樹だ。
彼はそこでできるだけの思いを込めて魔法を唱えた。
そして誰も見ていないことを確かめると、村の中に生えている木や、花壇、畑などにも魔法をかけていった。
それは本当に気休め程度の効力しかもっていないように思えたが、それでめあちこちを回るうちに少しだけ息がしやすくなったような気がした。
人々の姿がちらほら見えるようになると、的場はあわてて宿へと走った。

影のような子供とすれ違ったことには気づかずに。

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