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らっしゃいノームランド 03

ほのぼの系がかきたくなった。

ノームランドにやってきてからこちら、的場には幸せな日々が続いている。
陽がたっぷり昇ってから起床し、外でごろごろ、気が向けばあちこちに成長魔法(翌日には少し成長し、緑が鮮やかになっている気がする)を唱え、こちらにはまったく気づいていない小動物をつぶさに見つめ、毎日2つ3つ色々な実を実らせる自分の木から果実を収穫し、ノームランド世界では工作の道具になっていた花をあつめたりキノコをあつめたり…。
情報と機械に溢れかえっていた世界に暮らしていた的場は、退屈するんじゃないかと恐れていたが、まったくそんなことはなく毎日とても穏やかに暮らしていた。
唯一の不満といえばベッドがないことくらいだが、少し離れた場所に綿畑をみつけてちょこちょこ収穫しているので、そのうちなんとかなる予定だ。

そうやってのんびりと暮らしている内に、的場は家の周囲が少しずつ地図として頭に浮かぶようになってきていた。
まずは中心に自宅の木。
自宅の周辺はとても豊かな森だ。まるで間伐をしたかのように木々がほどよい広さで生い茂っており、地面も緑が豊かで、小さな花も咲いている。
周りの木の中には青々とした栗のイガをつけている木や、赤い小さな実、くるみのような固い殻を持った実をつけているものもあり、それを目当てにか小動物の姿もよくみられる。
自宅から東側にいくと川につきあたる。
それほど大きな川ではないが、流れは穏やかでとてもきれいな川だ。魚も泳いでいる。
的場は何度か魚を捕まえようとしているのだが、今のところは成功していない。
といっても、彼はこの世界にきてからは一日に果物一つで十分な体になっているので、あまり真剣に魚を釣ろうとしたことはない。
西側から北側になると少しずつ森が深くなる。
木と木の間が少しずつ狭くなり、昼間でも暗い森だ。
的場は気味が悪いとあまり好きではないのだが、中型以上の体格を持つ動物にはそちらの方が都合がよいらしく、これまでにキツネやクマ、それから向こうの世界では見たことのない“魔物”といっていいような動物を目撃している。
恐ろしい姿の魔物は怖いが、認識されてはいないので的場は割と無防備に歩き回り、少しでも豊かな森になるよう日々通って魔法をかけている。
そして最後に南側だが、こちらは自宅のあるあたりと同じく開けた森で、所々にぽっかりと広場が点在している。
その一つが綿畑なのだが、他にも見事な花畑のある広場や小さな沼のあるもの、キノコが群生している広場などがある。

「あとはお仲間か人がいたらいいんだけどね」
元の世界では人付き合いにすら鬱陶しさを感じていた的場だが、会話する相手がまったくいないというのは少し、いやだいぶ寂しかった。
「ペットを飼って寂しさを紛らせようにも…触れることもできないし」
人恋しいな。
そんなことを思いながら、しかし積極的に人を探そうとは的場は思わなかった。
なぜなら、この世界は的場の理想そのものだったからだ。
もし人に会ってしまえば、この美しい世界が壊れてしまいそうで、それが怖かったのだ。
彼は毎日毎日、それこそ本物の木の精ノームのように慎ましく暮らしていた。
自分の背丈にあった、自分ペース毎日は飽くことがなかった。

そんなある日、彼は自宅の扉を誰かがノックしているのに気付き目を覚ました。
“トントン、トントン”
規則的なノック。
いうまでもなくこんなことははじめてだ。
まさかキツツキでもあるまい。
しばらく待っても扉を叩く音が止まないと知ると、的場はそっと扉の方に近づいた。
“トントン、トントン”
「あの、はい?」
声をかけるとノックが止み、『これは驚いた』としゃがれた声が聞こえた。
それは優しそうなおじいさんの声だった。
『私はヤザリというものだ。諸国を旅し、手記を書いてはそれを出版しとる物好きなヤギだ。よければ姿を見せてはくれんかね』
ヤギ?
的場は戸惑った。
戸惑ったが、彼は典型的なNOと言えない日本人だった。
結局はいと返事をすると、恐る恐る扉を開け、そして扉の向こうに立っていた人物を見てびっくり目を見開いた。
「おおぅ、これはこれは」
そこに立っていたのは正しくヤギだった。
身長が160センチ程度の頭の大きなずんぐりむっくりとしたヤギだった。
彼は体に布を何枚も重ね着をしている上に、大きく膨らんだ袋を背負っていた。
「なんとも可愛らしい。いや、なんと立派な精霊だろう」
嬉しそうに細められた目の瞳孔は横になっていて、的場は少し怖かった。
「や、ヤギさん、俺が見えるの?」
的場の問いにヤギのヤザリはうんうんと頷く。
「もちろんだ。私は魔術の心得があるし、昔は神官をしていたこともあるからな。やぁやぁ、しかしこんなに立派な精霊様がいまだにこの世界に残っているとは…本当に驚いた。旅はしてみるものだねぇ」
ヤザリはメェェっと最後に笑った。
「あの、入ります?なんにもないけど」
「おや、おうちに招待してくれるのか?」
「あの、なんにもないけど」
そういって、扉を大きく開くとヤザリは少し身を屈めて中に入った。そして室内を見渡し、「おや、中は意外に広いね」と目を丸くする。
「はい。中は外見より、ずっと広いんです」
この世界では拡張工事などはしていないが、ゲームでは二階、三階はもちろん、ダイニングにキッチンとかなりの広さの部屋を作ることが出来る。
「あの、これ椅子です」
的場は倒木と作業台にあった道具を使い四苦八苦して作った強度に不安のある椅子をヤザリに差し出した。
「これはありがとう。でもそれじゃぁ君が座るところがないだろう」
「俺は平気です」
ヤザリの言葉に的場は微笑むと、木箱の中からリンゴを1つ取り出すと、その木箱の上にちょこんと腰をおろした。
「お茶とかなくてごめんなさい。でもこれすごく美味しいから」
的場はリンゴを差し出して言うと、ヤザリはそれを「これはとてもいい果実だ」と誉めて恭しくそれを受けとる。
「こんなに素晴らしい実を見るのは精霊たちに愛想をつかされて以来のことだ」
「精霊たちに愛想を…?」
「うむ。おや、もしかして君は知らんのかな?」
「は、はい」
無知ということが恥ずかしくなり、的場は顔を赤くするが知らなくて当然なのだと開き直ると「まだ生まれたてなんです」と言った。
「だから、よかったら教えてくださいませんか?」

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