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らっしゃいノームランド

ほのぼの系がかきたくなった。

ノームランドというのはとても小さくてマイナーなコミュニティゲームだ。
プレイヤーはゲームをスタートさせると、まず小さな穴蔵で目をさます。
プレイヤーがまずするのは、その穴蔵の壁を掘って外に出ること。
そして外に出たところでプレイヤーは、自分のいた穴蔵が一本の木の“中”であったことを知り、自分が生まれたばかりの木の精、ノームであるということを知るのだ。
そこからはノームランドにいる他のプレイヤーとコミュニケーションをとったり、自分の木を育てて実った実を売ってアイテムを買ったり、穴蔵を飾り立てたりする。
他のゲームのようにクエストがあるわけではないし、モンスターも出ない。魔王もいないし、ダンジョンもないし、人間もいない。
プレイヤーには何の目的も使命もない。
あるのは他のプレイヤーとコミュニケーションをとること、木を大きく育てて木のレベルを上げること、て家を住みやすくしたりお洒落すること、それからオリジナルのアイテムを作ることくらいだ。
バーチャルだ、ベッドディスプレイだ、感覚の共有だ…などという機能も一切ない。
ノームランドは本当に地味で、そして小さなコミュニティゲームだった。
プレイヤーはマックスで300人程度、通常は50程度がログインしているが、ようやっと二桁という日も少なくなかった。

その地味でマイナーなノームランドに、これまた地味にはまりこんでいる男がここに一人。
彼の名前は的場俊。年齢は27で、印刷会社で営業をやっている。
近頃電子化がすすんだせいで印刷会社への風当たりが強く、彼は朝から晩まで営業に駆け回り、それが終われば上司の説教とも八つ当たりともとれる愚痴に遅くまで付き合わされていた。
拘束時間が長い上に薄給、印刷に興味があったわけでも営業がやりたかったわけでもない。
いっそ辞めてしまいたいというのが的場の本心ではあったが、この不景気、求職者で溢れかえるハローワークを考えると二の足を踏む。
そんな疲れきった的場の唯一の癒しが、このノームランドだった。
家に帰りつくのは、いつもだいたい日付がかわる頃。コンビニ弁当を食べながら一時間ばかり緑豊かなノームランドで過ごすのがいつしか彼の日課にだった。
木を育てて、実った果実を収穫し、それをお店に売って…。
たった一時間のプレイ時間では、他のプレイヤーとコミュニケーションを取る時間はない。せいぜい簡単な会話ができるNPCと話すくらいだ。
だがそれでも的場は十分にノームランドを楽しんでいた。光の溢れる美しい森。可愛らしいノームたち。どこまでも平和な世界。
「あー、ノームランドにいきたい」
これが近頃の彼の口癖であったりする。
ノームランドなら、朝から目覚ましにたたき起こされることはない、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車にのることもない、化粧臭い女子高生ににらまれることもない、ノルマもない、嫌みな上司も口だけの上司もいない、嫌いなタバコの臭いを気にする必要もない、客のつまらない話にニコニコ笑う必要もない、デザイナーにつつかれる事もない、コンビニ弁当も食わなくていい…
つらつらと画面を見ながら考えている内に、やがてまぶたが重くなってくる。
まずい。
パソコン切らなきゃ、風呂に入ってベッドでねなきゃ…。
睡眠欲との勝率は今のところフィフティフィフティといったところ。
ここで眠るとスーツがしわくちゃになるのはもちろん、明日からだがバキバキになるのもわかっている。
それがわかっていても、彼に襲いかかる睡眠欲はそれを凌駕するほどに強烈だ。

そしてその運命の日も、彼は睡眠欲に勝つことができなかった。
彼はパソコンを前に、そして空っぽのコンビニ弁当を横に、スーツ姿で眠りこけてしまったのだ。
画面にこれまでみたこのない文字列が表示された事にも、自分が右手に持っていたマウスを無意識にカチッとクリックしてしまったのにも気づかずに。



寝過ごした朝というものは不思議なもので、時計を見ずとも慣らされた体がそれに気づくものである。
その日、久しぶりにたっぷりと寝た的場の場合も正しくそれであった。
「しまった!」
大きな声とともに眼を開けた的場の頭はすぐ次の瞬間には、シャワーを浴びる時間はあっただろうかと考えている。
立ち上がり、着ているはずのスーツを脱ごうとし、そしてはたと気づいた。
自分がそれを着ていないこと、視界がやけに低いこと、それより何より、そこが見慣れた自分のワンルームではないことに。
「は?」
思わず彼は間の抜けた声をあげた。
そして恐る恐る辺りを見回した。
そこは半径二メートルほどのドーム状の“穴蔵”だった。窓の類は一切なく、また光源もないがうっすらと明るい。
「え?」
的場は自分はまだ夢を見ているのだろうかとパチンとほほを叩いた。
するとさほどでは無いが痛みを感じることができた。
小さな穴蔵。見るべきは何もない。
だが的場は意味がわからず何度も何度も辺りを見回した。
そして1つ気づいた。
壁の一ヶ所にばつ印がついている。
そこで的場は“まるでノームランドみたいだな”と思った。
ノームランドの始まりも、今的場が置かれているのと似たような状況からスタートするのだ。
穴蔵で目をさまし、壁を掘って外に出るところから。
「ま、まさか」
そう思いつつ、しかし穴蔵にいるままでは何の進展もない。彼はペタペタと裸足の足でばつ印のところまで歩くと、そっとそれに小さな手を伸ばした。
するとどうだろう。ボコッという音と共に、真ん丸の穴が開いたのだ。
そしてそこから眩しい光が差し込んだ。
的場はその真っ白な光に目をぎゅっと瞑り、それからゆっくりと目を開けた。
彼の前に広がった光景、それはゲームの世界でみたそれと寸分違わぬ光の溢れる暖かな森だった。
「うは」
的場は何度も瞬きをし、目をこすった。
だがそれでも変わらずそこにある森。
「本当にゲームに入っちゃった…みたいな?」
森から目をはなし、自分を見下ろすと、体はノームランドのキャラクターと同じように十歳前後と小さく細くなっており、白いワンピースをきていた。
「マジか」
振り返れば、大きな木の根本に自分が出てきた丸い穴がポッコリ空いている。
まさにゲームのはじまりそのものだった。
あまりの異常事態にしばらく呆けていた的場だが、やがて気を取り戻すと、他に自分と同じようなものがいるのではないかと近くを歩いてみた。
ちなみにあまり遠くまでいかないのは、同じような木ばかりで自分のホームがわからなくなるのを防ぐためだ。
「誰か!誰かいませんか!」
そうやって20分ばかり森のあちこちにむかって叫んでみたが返事はなかった。
そのかわりにわかったことがあった。
途中、野ネズミをみつけたときのことだ。
黄色い野ネズミがあまりに可愛らしく、的場は思わずそっと手を伸ばした。
後ろからとはいえ、野性動物のかんは鋭く、触れられるとは思っていなかった。だが、野ネズミは手が10センチの距離に近づいても、5センチの距離に近づいても逃げることはなかった。
そしてえいやと手を伸ばしたとき、なんと彼の手は野ネズミを通り抜けてしまったのだ。驚いた彼はその後何度か試したが結局触れることは出来ず、ネズミはどこかへ行ってしまった。
そういえば、ゲームのノームランドでも動物はみんなノームを無視していた。
あまり作り込まれたゲームではないし気にしてはいなかったのだが、こういうことだったのか…と的場は妙に納得してしまった。
そうして最初のショックから覚めてくると不思議なもので腹がすわってきた。
とにかくやるしかない。
彼は1つ気合いを入れると、これから彼の住まいになってくれるはずの木に向き直った

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