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古き竜の神話

書きたいとこだけかく。
読み返してない

はじめの頃は、人に混じって暮らすのが楽しくて仕方なかった。数えきれないほどの数の人々、楽しい祭り、労働、遊び、勉強、きれいな織物、髪飾り、洋服、食べ物…
あぁ、何と人々の輝いていること。
生命の光がキラキラと輝き、私には眩しくてしかたがなかった。
だけど…それも最初の百年も経たない内に私は人々の中で暮らしていく事が辛くてたまらなくなった。
私と彼らでは生きる時間がどうしても違う。
彼らはあっという間に年をとり、私だけを置いていってしまう。
彼らの子や孫も同じだ。
私にはそれが耐えられなかった。
私は繊細すぎた。いや、臆病すぎたのだ。
私は人々の元から去り、万年雪に閉ざされた霊峰レステアへと引きこもった。
一年中吹雪の吹く山には生物はほとんどおらず、食べるものもなにもない。しかし人ではない姿…鱗に覆われた巨大な竜の姿となった私には、何の問題もなかった。
毎日毎日ほとんど眠ったように洞窟の中で暮らし、たまに…本当にごくたまに吹雪が晴れた時には青い空を舞う。それだけの暮らしを延々と続けていた。
そう、いつかこの生命が果てる時までそれを続ける気でいた。
人と一緒に楽しく暮らしたつかの間の夢を繰り返し繰り返し見ながら、そうやって果てていく気でいた。

*

ゴウゴウという風の音も、ピューっと時折岩の隙間から響く鋭い音も、慣れてしまえば全く気にならない。
私はいつものように幸せな夢にまどろんでいた。
その時だ。私の耳にふと届く声があった。
『*****、*****』
古い古い名で私を呼ぶ声。
私ですら忘れかけていた名を呼ぶのは誰だ…?
私はゆっくりと長い首を上げ、耳を澄ました。
『*****、*****』
『誰だ』
私が問うと、向こうから歓喜したような気配が伝わってきた。
『あぁ、*****、生きていたか』
『お前は誰だ?』
『俺は*****だ。覚えているか?』
複雑な名前を言われて私は思わずホゥと声を上げた。
『なんとも古い名だ。お前こそよく生きていたな』
『おかげ様でね』
含み笑いをするような声色に私は穏やかな気分になった。
彼とはもう随分と会っていない。ここでずっとまどろんでいたせいで、最後に会ってからどれほどの月日が経ったのか全くわからないが、それでも100、200ではきかぬ月日が流れているはずだ。
『ところで久しぶりにお前に声をかけたのはほかでもない。お前に協力を求めたいことがあるのだ』
『協力だと?』
『そう嫌そうな顔をするな。お前が世捨て人のような暮らしをしているのはよーく知っている。それでも頼みたいことがあるのだ』
はっきり言って彼の申し出は私には迷惑意外の何者でもなかった。
彼の言った通り、私は世捨て人。ただまどろみの中で死を待つだけの身だ。
俗世には何の興味もない。たとい世界が壊滅の危機に貧していたとしても…だ。
『聞いてはくれないか』
『聞きたくはない。俺は長い生に疲れきっているんだ。放っておいてくれ』
『そこをなんとか。同郷の、しかも同じ年に生まれた幼馴染ではないか』
『都合の良い時ばかりそれを持ち出しおって』
腹立たしい。
鼻を鳴らすとまたも笑う気配。
『そういうな。頼むよ*****。お前に一仕事をして欲しい』
『……』
『なぁ、頼むよ。*****も死に、*****は遠くに旅立ってしまった。もう古い仲間は俺とおまえだけだ』
『なんと…』
まどろみ続ける私よりも早く逝った仲間がいることに驚いていると、彼は続けてつらつらと死んでいった仲間の名を上げていった。
それは私をひどく動揺させるものだった。
何しろ私達は不老長寿である。
不死ではないが、しかし何よりも強い体と生命力を持っている。たとえ矢を万本居られようが、火であぶられようが、首を落とされればさすがに死ぬやもしれないが、しかしそう簡単に死ぬようなものではないのだ。それが…
『古い仲間は本当に私とお前だけなんだ』
『何故だ。竜狩りでもあったのか』
『それもひとつではある。しかし決定的な原因は、我々に子ができぬようになったからだ』
『まさか、そんなことが』
『いや、子ができぬといっては語弊があるかもしれない。子はできた。しかしそれは我々とは違うものだったのだ』
その子ははじめは普通の竜のようだったという。
しかし成竜になっても我々の半分の大きさにしかならず、しかも200年ほどの短命であったのだそうだ。
『産んでも産んでもそれは新しい竜ばかり。我々のような古い竜は全く生まれなんだ』
『一体何故…』
『さて、そればかりは神の思し召しとしか言いようがない。新しい竜は我々に体格・知能・体力・竜力ともに劣るが、しかし繁殖力だけは優れておってな、今はかなりの数を増やしておる』
『そうか…』
私達はきっと淘汰されるべき種なのだろう。
それならばそれでいい。
私はそう思った。
『お前はまだ人里で暮らしているのか?』
『私か?あぁ、当たり前だ。私は人が好きだからな』
『あのなんとかという国にまだ厄介になっているのか』
『ガルダイン王国だ。厄介になっているといえば厄介になっているが、しかし俺は今では国の守護竜と言われて王よりも偉いんだがな』
『お前がか』
思わずふっと笑ってしまって微妙な気分になる。
彼は人の気分を載せるのが上手い。
きっとこの調子でいけば、私は彼の頼みを聞かざるを得なくなるだろう。
彼は私が警戒をしたのに気付いたのか、困ったような気配を伝えてきた。
『*****、単刀直入にいうとな、霊樹を見てきて欲しいんだ』
『霊樹?世界の中心にあるというあれか?』
『そう、世界を支えている霊樹アポカリフェへ』
『馬鹿な、何のために』
『お前のいる万年雪のレステアとは違い、下界は近頃魔物であふれているんだ。その原因が霊樹アポカリフェの異変ではないかと思ってな』
『魔物が…?』
『あぁそうだ。前は人里離れた場所にちょこちょこと存在していたやつらが近頃では大量に発生し、街を襲う事態が多発している』
『それは確かに異様だな』
彼と会話を交わしながら、私は彼の話術にトントン拍子にのせられていることに気づく。しかし、ここまで聞いてしまえば最後まで聞いてしまわなければ具合が悪い。
『私達のような古い竜がいなくなってしまったと同時に、いくつかの古い種族もまた姿を消したと言う。それに加えて魔物の大量発生だ。アポカリフェに何かがあったとしか思えんだろう』
『それは分かった。しかしなぜ俺に言う?気になるのならばお前が直接いけばいいだろう』
『それが出来ぬから相談している』
『なぜだ』
『…先ほどいっただろう。私は今ガルダイン王国の守護竜なんだ』
意味がわからない。
不思議に思っていると、彼は苦笑しながら『実はな』と口を開いた。
『詳しくは言わないが、私はガルダイン王家と血の契約を交わしているんだ』
『なんだと?!』
私は大きく驚き信じられないと思わず長い首を持ち上げた。
『正気か』
『あぁ、そのつもりだ。あの時は止むに止まれぬ事情があったが…まぁ後悔はしちゃいない』
強がりかと思ったが、そうではないことは彼の声色から分かった。
『お前は昔から人間びいきだからな』
『お前ほどじゃないさ』
私はそれに上手く返すことが出来なかった。
そう、以前の私は人間びいきの彼よりももっと人を愛していた。
『…納得しているのならば、俺は何もいうことはない』
『あぁ、それで頼みは聞いてくれるのか?』
彼は私がそれを了承するとほぼ確証をもっているようだ。
確かに惹かれなかったかと言われれば嘘になる。
幸せだった頃の夢、それをまた間近で感じたいと思ってしまっている。
しかし…やはり迷いは大きい。
『頼む。*****、もうたった二匹になってしまった古い竜の片割れの頼みだぞ。聞いておくべきだ』
私は彼の声を聞きながら久方ぶりに体を起こし、洞窟の中で身じろぎをしてみた。
鈍っていた体がギシギシと文句を言う。
『なぁ、聞いているか?』
『聞いているさ』
『うちの神子が言っていたんだ。アポカリフェで大いなる異変が起こっているってな』
『…先程はそれは聞かなかったな』
『小出しにして悪かったな。しかしもう黙っていることはない。嫌な予感がしてたまらないんだ。頼む』
そこまで言われてはもうしかたがないだろう。
『あくまで見てくるだけだからな』
私はそう一つ念をおし、彼の頼みを聞き入れることにした。

***

「ひきこもりは出てきたか?」

男の声に、今は人の姿をとっている竜はひとつ頷いた。
「えぇ、上手くいきました」
「そうか。これで落とし子が殺せるな」
薄暗い表情を見せる竜に男は目を細めた。
「後悔しているのか?」
「いや、とうとう始まるのだと感慨にふけっていただけだ」
「そうか」
男は頷き、窓の外を見た。
まだ夕方、日が残っている時間帯であるが、外は真っ暗だった。
しかし空は厚い雲に覆われており、時折稲光がピカリピカリと地上を照らす。
稲光に照らし出された地上は廃墟であった。建物はことごとく無惨な姿をさらし、かつては大勢の人が行き交った通りには人っ子ひとりいない。
しかしその代わりに、異形をもったものがそこかしこに見える。
黒い影としか形容できないもの、四つ足で蛙のように後ろ足が長く発達したもの、あやつり人形のようにカクカクと不自然にさ迷うもの、頭が二つある猿ににた何か…。
「あれがアポクリファにつくのはいつ頃になる?」
「7日から10日後といったところでしょう。あれのことです、きっと目的地だけをまっすぐに見つめ、下の事など一切気にかけないでしょうね」
「そうか、それなら都合がいい。ウルヴスタッドはいまどのあたりだろう」
「おそらく後3日ほどの距離でしょう。あれがつく頃には配備を完了しているはずです」
「落とし子が死に、アポクリファも燃え朽ちる。神は動くと思うか?」
男の言葉に竜はしばらく窓を見つめ、それから首をよこに振った。
「動かぬか」
「…おそらくは。“我らの神”にとってこの世界など、大した価値はないのでしょう。価値があるとするならば、そもそもここまで静観していることがおかしい。それによしんば動いたところで…私はそんな神に何の価値も見いだせない」
神よ、もし救う気があるのならば、何故あの時に救いを授けてはくれなかったのか。
血を吐くほどに神に助けを求めた時のことを思い出し、竜はその横顔を悲しみと憎しみに歪ませた。
「ですが…」
「ん?」
「もし神が自ら降りてくるならば、私はそうなってほしいですね」
「神殺しか」
男の言葉に竜は笑った。
「まぁ好きにしろ」
「もちろんです」
「ただし、俺を裏切ることは許さん」
竜はまた笑った。「それはしたくても出来ません」と。
そしてその場で男の前に跪き、頭をたれた。
「信用出来ぬというならば、いま一度誓いましょう。貴方は私の唯一絶対の主君です。私は貴方が生きろといえば生き、そして死ねと言えば死ぬでしょう。我が忠誠を疑う時には躊躇なく私は私の胸を裂き、貴方に心の臓を捧げるでしょう。私の名は*****、私の忠誠をどうか受け入れて下さい」
深く頭を下げる竜に、男はそっと頷くと自らも膝をおり彼の頭にくちづけを落とした。
「お前の忠誠を受け入れよう。*****。俺の名はレルム=ヒース=アイゼンルード。魔王レムル。私もまたお前に誓おう。必ずや人の世を終わらせ、我らが魔族の世を築かんことを」

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