天真爛漫 02

やっぱR18はあたしにはハードルが高すぎる疑惑
書きたい展開はわかるはず。

「でね、男性にはちょっと刺激が少ないとは思うんだけどね、女性の目も意識して純情な恋愛劇みたいな流れにしたいわけだよ」

げっそりとする俺と、その横でやたらニコニコしている堀口君に向かって、叔父さんはほくほくと笑いながら言った。
言っておくが俺は嫌だっていったのだ。
本当に嫌だって。
だってゲイだぜ、ゲイ。
いくら顔が綺麗だっつっても同じ男だぞ?
なにが悲しくて男と乳くりあわなくてはならないのだ。
「まずは女性向けに、一週間に一本10分程度、全六回のドラマを無料で視聴できるようにするつもりだ。これはあくまで恋愛がメイン。こちらはその手の作家にシナリオを用意してもらっている」
舞台は高校であくまで爽やかに。くすぐったくなるような純情なやつ。
しかし所々にエロスを感じさせる部分を入れる。
「次回にちょっとしたエロスがあるようなものを期待させる感じでね」
しかし女性向けでは、せいぜいキス止まりにするそうだ。
それだけでも俺はクラクラだけど。
「同時進行で、男性向けの企画も始めるが、こちらはドラマにはしない」
女性に比べ、やはり男性は即物的なものを好む。
いつも通りに、新人を紹介するインタビューを少し流し、また少しだけの露出で期待を煽る。まだまだCM段階だ。
「女性サイトとの連携をどうするかは迷ったんだがね、特に知らせる必要はないということで一致した」
見たい奴は自分で探すだろう…と叔父さん。
男性向けの本格的なスタートは、女性向けドラマが終了したあとだと叔父は言った。
「一応、ドラマに沿った感じで撮影を予定している。つまり、初々しいカップルの初エッチだね」
初エッチ…。
叔父さんにはなんとも似合わない言葉だ。と、思っていると…
「ま、お互い初めてだし、あながち間違いじゃないだろ?」
と言った。
お互い…?
「え?初めてって…?」
ちらっと堀口君を見ると、彼はヘヘって感じではにかんだ。
「うん、初めてなんだよね。男の人とはキスしたこともない」
「えっ!」
「っていうか、ノンケ?ってやつ」
「エエエッ!それでよくあんた…」
馬鹿じゃないのか。
口をパクパクしていると、「それで」と叔父さんは話を戻した。
「そこからは様子見になる。本番はまだ考えなくていいが、覚悟はしといてくれよ」
「……はぁ」
「でも女性社員はえらく乗り気でね、女性向けサイトの方ではエッチは無くても絶対に人気は取れるって豪語しているから覚悟しといて」
「…はぁ…」
最初の“はぁ”は納得。でも二度目の“はぁ”はかなり疑問を含んでいると思う。
だってさぁ…今時、少女マンガだって、キスだけで終わってるのは少なくね?いや、知らないけど…。
そんな気持ちが表に出たのか、叔父さんも「気持ちはわかるけど」と言った。
「まぁそのへんは様子を見てから対応って感じだね」
「…いっそ売れなければいいのに」
「それはないだろう。堀口君も光矢君も女の子にモテる顔しているし」
「って、顔、俺も出すのか?!」
またもやサッと血の気を下げた俺に、叔父さんは苦笑して「ダメかなぁ?」と言った。
「いや、ダメ、ダメに決まってる…」
百歩譲っても女と絡んでるAVでなら顔を出してもいい。
だけどゲイビで顔出しとか…死ぬ。いや、殺される。世間的に殺される。
引きつる俺に叔父さんは肩をすくめた。
「…まぁ、極力映さないようにはするよ。ほら、ギャルゲーの主人公みたいに、ね」
ねって…。

頭が痛い。
叔父の部屋を出ると、同じく出てきた堀口君がじっとこちらを見ているのに気づいた。
彼は俺と視線が合うと、ちょっと困ったような顔をして「ごめんね」と言った。
いや。
そう答えかけて詰まる。
そういえば、コイツが元凶か。
だが、ガツガツにHPを削られていた俺は彼を責める気にもなれず、「とりあえず、腹減ったからなんかおごれよ」とだけ言って、先に階段に足をかけた。

街で声をかけた子をすぐに事務所に連れ込むため…かどうかは知らないが、事務所は割りと町中にあり、すぐ近くに牛丼屋やファミレス、ファストフード店にミスド…と色々揃っている。
俺が向かったのはイタリアンを中心としたファミレスで、俺はバジルソースのかかったチキンステーキを頼んだ。
ちなみに彼はカルボナーラ。
女みたいなものを頼みやがる…と思ったが、口には出さなかった。
オーダーを通してしまえば、途端暇になる。
はぁ。
そしてちらっと周りを見渡して…俺たちが…いや、正確には彼がかなり注目を集めている事に気づいた。
近くにいた女子高生グループがキャーキャーいいながら彼を見、OLグループや主婦のグループがちらちらと彼の方を見ている。
確かに…彼はものすごく目立つ容姿だ。
ほんとに冗談抜きで、モデルとか俳優とかみたい。
なんというか、いるだけでオーラを感じるというか…。
「お前って目立つよな…」
ぼけっというと、「そうかな?」と彼は首を傾げた。
無自覚か。
いや、日常的に注目されていれば、それも普通になるのか。
うらやま…って、そうでもないか。
「つか、堀口君って…」
「あ、俺の事は真ってよんでください」
「…じゃぁ真、お前って…」
「俺も関さんのこと、光矢って呼んでもいいですか?」
いやだ。
と言いたかったが、雰囲気的に言えずに「いいよ」と言ってしまった。
なんか妙に彼がキラッキラしているのに、不思議と寒気を覚えながら。
「あと、タメ口聞いてもいいですか?」
「…好きにすれば」
「はい!」
よしッ、と小さくいって拳を握る彼。
…今からでもやっぱやめてっていうのはだめ…かなぁ…。
「で、何?光矢」
と、いきなりきたか。
「いや、お前いくつなのかなぁって思って。俺より下だよな?」
「うん。こないだ18になったばっか」
「18になったばっかって…ん?お前高校生?」
「そう」
そうって…。
「いいのかよ、こんな仕事して……」
「んー、学校はアルバイト禁止だから、正確にはダメかなぁ…?でもバレたらバレた時、みたいな」
「いや、ダメだろう…。俺も人の事いえねぇけど、ゲイビとか親が泣くぜ?」
「はは、今、親海外にいるんで、多分大丈夫」
「お前な…。いくらギャラがいいからってさぁ、人生すててねぇ?ゲイビだぜ?ゲイビ。わかってんのか?」
男とやるんだぞ?
チチクリ合うだけならまだしも、絶対本番やらされるぜ?
本番っていったらアレだぞ?
チューとか生易しいもんじゃねぇぞ?
男のアレ舐めたり、ケツにアレいれたりするんだぜ?
「お前ならさぁ、他に絶対いいバイトあるじゃん。モデルとか芸能人とか…あぁ、ホストとか!じゃなくてもほら、お前の容姿なら女が進んで貢いでくれそうじゃん?有閑マダムとかひっかけりゃいいじゃん」
「いや、俺、そういうの興味ないし」
「んー、確かにゲイビってのは抵抗あるけど…」
「だろ?お前なら他にいくらでも…」
「でも、光矢さんとエッチできるバイトってこれしかないし、ラッキーだよ」
「なーにがラッキー………って…ん?」
なんか聞いてはいけない単語が聞こえてきたような気がして、俺は恐る恐る彼を窺った。
「光矢さんってビデオに顔うつってないからちょっと不安だったけど、マジ俺のタイプ。すっげぇ嬉しい」
「………」
俺、全力で逃げてもいい…かな。

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