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ヒポコンデリー 06

少し短い
読みかえさんよ

どれほど忙しい日でも、彼は日に一度は自分の畑を訪れるようにしている。
どうしても…という時は仕方なく知り合いに世話を頼む事もあるが、あまり他の者が自分の畑に手をいれるのは好まない。
彼の持つ畑はそれほど大きなものではないが、区画を細かく分けており、そこにピーマン、アーティチョーク、アスパラガス、茄子、リーキ、そしてトマトなどが植えられている。
中でも一番面積をとっているのはもちろんトマトで、大きなものや小さなもの、たくさん実るもの、細長いもの、黄色いものなどたくさんの種類がある。
今日もまた麦わら帽子を被ってトマト畑の真ん中に立ったスペインは、苗についた虫をとったり、枯れた葉をとったり、適度に間引きしたりという作業を進めにんまりととても幸せそうに笑う。
そして今日一番のとびきりを見つけると、そっとその実を下から手で持ち上げると、剪定バサミでプツンとそれを摘み取った。
「えぇ、トマトやなぁ」
いろんな角度からトマトを見つめたスペインは、着ていた服にすりつけるようにして汚れを取るとガブリと思い切りかじりついた。
申し分ない実の張りと、たっぷりとした水分、そして強い甘みとしっかりとしたトマトの味わい。
「さすが俺や」
自画自賛した時、カラカラと遠くから馬車がやってくる音がスペインの耳に届いた。

 *

スペインの家は二階建てで普通の貴族以上の屋敷である。
しかし使用人は置いておらず、広い屋敷のごく一部だけを使ってスペインとまだ小さなロマーノの二人だけが住んでおり、近所に住む老夫婦をお手伝いとして時折雇い入れている。
今日はスペインが在宅中であるので、老夫婦は自分の家におり屋敷には二人だけしかいない。
ふと予感の働いたスペインは、持っていた籠を放り出し屋敷の方へと急いで戻った。
そして彼が玄関前に到着してから間もなく、馬車がすぐ傍までやってきた。
幌のついた荷馬車を引いた馬。旅装の御者が一人で馬を操っている。
何者だろうか。
スペインは訝しみながら、馬車を待ち構えた。

馬車はスペインから少し離れた場所にとめられ、男がひらりと降り立った。
その慣れた動作でスペインは男が軍人であるとわかり、彼は僅かに緊張した。
身構えたスペインに気づいたのか、男はスペインの少し手前で膝を降り恭しく頭を下げた。
「アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド様とお見受けします」
「…あぁ」
人としての名を呼ばれ彼は素直に頷くと、「あんたは誰や?どこぞの回しもんか?」と、すぐに厳しい声を上げた。
跪いた男はスペインの威勢に少し驚いたようであったが、すぐに一掃畏まった。
「いえ、私は怪しいものではございません。私はあるものをあなた様に届けるための使者でございます」
「使者?」
「はい。私はギルベルト・バイルシュミット様の使者でございます」
「ギルベルト…?」
彼は一瞬それが誰の名かわからなかった。
しかしすぐにそれが悪友であるプロイセンの人名であると気づくと、驚きに緑色の目を見開いた。
「あいつからの使者やて…?まてや、そんなん聞いてへんで?」
「はい、敢えて連絡は控えました」
「なんでや?」
問うと、使者は辺りをうかがうように視線を走らせた。
「……大丈夫や、うちには使用人は置いてへんし、怪しい奴はおらへん。ええから言うてみ」
「では、まずは荷物を運び込んでもよろしゅうございますでしょうか」
「…そういや、届け物があるいうてたな」
「はい。そちらをご覧いただければ話が早いと存じます」
スペインは使者の言葉を少し考えたが、結局それを受け入れることにした。
だが、その前にやらねばならないことがある。
自分ひとりならば、なんとでも対処する自信がある。
しかし…
「少し待っててや」
まだ幼い子にそれを期待するのは酷というものだ。
彼は屋敷に入り、部屋の中でゴロゴロとしているであろう養い子の名を呼んだ。

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