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雛菊の咲く頃

日常話的な。 微妙

3日ぶりに屋敷戻ったプロイセンは、廊下を歩きながら身近にある扉をあけては中を覗いていた。
ここにも居ない。
このにも居ない。
「ルッツ?」
呼んでも返事はない。
「どこに行ったんだ?」
まさか黙って外に出たのだろうかとも考えたが、感覚が違うといっている。
彼は近くにいる。そう遠い場所にはいない。
だけど見つけられない。
「……」
行き違いになっただけかもしれない。
もう一度弟の部屋に行ってみるか。そう、踵を返した直後、「プロイセン?」と彼は男の声に呼び止められた。
青い貴族服を着て、手には楽譜を持ったプロイセンと同じ年頃の青年。
「ぼっちゃんか」
プロイセンの言葉にぼっちゃんと呼ばれたオーストリアはわずかに眉を潜めた。
「帰っていたのですか」
「あぁ」
「そういえば、表が騒がしかった気がしますね」
演奏に夢中だったので気にしていませんでしたが。
そういって出てきた扉を閉めるオーストリア。彼が出てきた部屋には彼が勝手に持ち込んだピアノが置かれている。
彼は暇さえあればその部屋でピアノを日がない一日弾いている。
「ところでルッツをしらないか?さっきから探しているんだが」
「いないのですか?」
「あぁ。近くにはいる気がするんだが」
顎をさするプロイセンにオーストリアはあっさり「そうですか」と相槌を打った。
オーストリアとしてはあまり認めたくない事実ではあるが、国の卵…いや雛であるルートヴィヒとプロイセンの間に強い繋がりがあるのは事実だった。
彼は彼だけの感覚で弟を探す事が出来る。
プロイセンは難しい顔をして感覚をたどるが、屋敷の中にはルートヴィヒの香りがそこここにあってどれが本物なのか判然としない。
「ルッツ…」
見つけられないことに苛立ちよりも悲しみが沸くプロイセン。
オーストリアはそんな彼を見て呆れた。
「ほんとうにお馬鹿さんですね、あなたは」
「うっせぇよ」
「そうですね、裏の小屋は探しましたか?」
「裏の小屋?」
「えぇ、庭師が飼料なんかを置いている小屋です。もしかしたらそっちにいるかもしれませんよ」
「何だってそんなとこに?」
不審がるプロイセンにオーストリアはゆるゆると首を横に振った。
「さぁ。何か彼なりの理由があるのかもしれませんね。近頃はよくそちらの小屋に出入りしているみたいです」
「そうか」
プロイセンは頷くと礼も言わずに身を翻し、小屋に向かって大股に歩き出した。

 ※

屋敷の裏、目立たぬ場所に立てられたその小屋は五メートル四方程度の小さなものだった。
プロイセンは自分の屋敷であるにも関わらずこんな小屋があることを知らず、白いペンキが塗られたそれをまじまじと見つめてノブに手をかけた。
ギィ。
軋んで開いた扉。
右側と奥には棚がもうけてありバケツやスコップカマなどが置かれている。左側には藁がおかれており、その藁の上にプロイセンの探し人は足を伸ばして座っていた。
両手で胸にクマのぬいぐるみを抱えたまだ幼い子供は、窓からの光に髪をキラキラと輝かせ目を閉じている。
まるで一枚の絵画のようだとプロイセンは感動を覚えた。
少年の背に白い翼がないのが不思議なくらいだと。
彼は眠るルートヴィヒを起こさないようにそっと近づくと、彼の前にしゃがみこみ柔らかな頬にそっと手を伸ばした。
「ルッツ」
まだ正式な名の無い彼を、仮初めの名で小さく呼ぶと、伏せられたまつげが震えゆっくりとまぶたが開かれる。
「兄さん?」
蜜のように甘く呼ばれてプロイセンは彼だけに見せる特別な笑みを浮かべた。
「おはよう、ルッツ」
「おはよう」
子供は挨拶を返してから、視線をさ迷わせ「あ」と小さな声を上げた。
「どうした?」
子供は目を伏せて頬を赤くした。
きっとこんな場所で寝入ってしまった自分を恥じているのだろうとプロイセンは弟を愛おしく思った。
「それよりよくこんな場所を知っていたな。ここには随分と住んでいるが俺は今日までここを知らなかった」
プロイセンが感心したようにいうと、子供はむず痒そうにはにかんだ。
「庭師をこっそりつけて見つけたんだ」
「つけた?」
「何もしてない。時々忍びこむだけだ。鍵はかかっていなかったし…」
叱られると思ったのか、気弱な様子のルートヴィヒにプロイセンは安心させるように微笑んで見せた。こんなこと程度で怒るような気にはならない。
「いい場所だな」
「…あぁ。少し飼料くさいが」
二人は顔をあわせて微笑みを交わした。
そしてルートヴィヒはふと兄から視線をそらすと、小さな小屋の中を見回し「屋敷は好きだけど、俺には少し大きすぎるんだ」と呟いた。
「ここが俺にはちょうどいい」
「なるほどな」
なんとなくその心はわかる。
階段の一つ一つ、ベッドや椅子、ドアノブの高さなどなど全ては大人を基準に作られており、まだ小さなルートヴィヒには不便に思うところも大きいのだろう。
その点、ここは彼のサイズにぴったりなのかもしれない。
ベッドが藁だとしても、隙間風が入っても、多少飼料臭くても。
「けどな、ルッツ」
優しい目をしたままプロイセンは言った。
「この程度で満足はしないでくれよ」
と。
「お前はもっともっと大きいものを掴まなきゃいけねぇんだからな」
ぐりぐりと頭をなでるプロイセン。
ルートヴィヒは一瞬だけ怯んだような顔をしたが、すぐに微笑みながら頷いた。
「わかってる。大丈夫だ兄さん」
真っ直ぐな瞳で兄を見つめるルートヴィヒにプロイセンは満足そうに微笑み、「けど、今日のところはここで十分だな」と白い歯を見せルートヴィヒの隣、藁の上に腰をおろした。
その瞬間にふわりと陽に暖められた藁の香りが舞い上がった。
「あぁ、気持ちがいいな」
プロイセンは組んだ両腕を枕に目を閉じると、「あぁ、くそ、眠くなってきやがった」とまもなく静かな寝息を立て始めた。
ルートヴィヒは寝入りのよい兄に目を丸くした後、クマのぬいぐるみを抱いたまま兄にそっと寄りかかった。
藁の香りに混じって、兄からは何かが焦げたような戦場の匂いが僅かにした。
ルートヴィヒはその香りを胸いっぱいに吸い込むと、兄の顔をじっと見つめ、それからそっと目を閉じた。

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