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出ちゃいましたPt.2-act.07

よみかえさん

「お、有栖川君じゃないか」

火村が務める大学であり我が母校でもある大学に、彼女(または彼)の忘れ物を届けに来た帰りに、私は在籍中にお世話になっていた恩師に呼び止められた。
「田口先生」
「や、久しぶりだな!」
快活な喋り口だけを聞くと男性のように思うかもしれないが、田口先生は女性だ。
年齢は私よりも一回りくらい上か。
波打った長い髪をリボンで後ろにまとめており、いつも占い師のような深い紫色のビラビラとした服をきている。かなり変わった先生だ。
「火村に会いにきたのかい?」
「え、はい。忘れ物を届けに」
「君たちは学生の頃から本当に仲がいいね」
「まぁ…そうですね」
全くだ。
呆れ半分な彼女に苦笑すると、先生は暇なら自分の研究室に寄って行かないかと誘ってくれた。
どうせやってきたのだから…と、このあとは図書館に顔をだす予定ではあったが、別に何か目的があったわけでもないしと、私はありがたく彼女の研究室に顔をだすことにした。

現役時代に何度か入ったことがあるが…彼女の研究室は私が学生だった頃と変わらず、占いの館のようになっていた。壁には深い紫や黒、茶色などの布が駆けられており、アフリカあたりから取り寄せたのかと思うような木彫りの人形や錫杖のようなもの、ガラクタの押し込まれた木箱、干物になった両生類…などなどわけのわからないものが溢れかえっている。水晶玉がないのが不思議なくらいだ。
「ささ、座って座って」
そうして勧められた椅子も変わっていて、サルのような木彫りの人形が台座を支えているのだ。
「君とは一度きちんと話をしたかったんだ」
「一度って…学生時代には何度かここに呼び出されて長いことおしゃべりした気がしますけど…」
「それは君のレポートが及第点に届かなかったからだ」
「…そうですね」
ぐぅっと喉の奥で変な声が出た。
確かに…私がここに来るときは、大抵彼女のお叱りが待っていた気がする…。
彼女はこんなだが、かなり優秀で厳しい先生なのだ。いや、もう本当にお世話になったものだ。あの頃は、色々と。
「で、なんの話ですか」
今日は叱られる用事は無いはず…だが、学生時代のトラウマか、少しばかり緊張してしまう。
彼女はそんな私をニカリと笑い、「まぁその前にお茶を入れてやろう」と言って小さな給湯室へと入っていった。

しばらくして戻ってきた彼女の手には透明な急須。中には真っ黒な液体が入っていた。
なんだろうか、あれは。間違いなくコーヒーの色合いではない。
「これはラオスから取り寄せた秘密のお茶だ。せっかくだから君に振る舞ってあげよう」
「……」
「大丈夫、変なものじゃないさ、私だって毎日飲んでいるよ」
「そうですか」
湯を立てるイカスミみたいに真っ黒な何か。
匂いは…特に無し。恐る恐る口をつけると…わずかに酸っぱい意外はなんの味だかさっぱりわからない。あえていうなら何かの豆の煮汁といった感じだ。
決してまずいわけではない。むしろ飲んでいる内に美味しいと感じるようなきがする。
しかし中身が得体が知れない上に、中身は何かと聴くのもはばかられるのでもうこれ以上は口をつけまい。
「話というのはね。他でもない火村君のことさ」
「はぁ、火村がどないしました?」
まぁ話と言えば、火村のことだろうとは思っていたが、やはり少しだけほっとした。
聞き返すと、彼女、田口先生は不快そうに眉を潜めた。
「あのね、君。ここで火村君の話が出たところでピンとこないのか?有栖川君」
「え?はい…えーっと…なんでしょう?」
「君たちは大学時代から付き合っているのだろう?」
「はい、まぁそうですね」
そう、火村との付き合いは大学からだ。私は友人が割りと多い方で、それこそ小学生時代からの付き合いがある友人もいる。だが、今現在、一番深い付き合いをしている友人といえば火村くらいなものだ。
小学校、中学校、高校とそれぞれ親友といえるような友人もいはしたが、それらの人々とはいずれもいつの間にか距離があいてしまった。
それを考えると火村との関係はかなり特別で大切なものであるといえるだろう。
感慨深く思っていた私だが…
「もう10年くらい付き合ってるんだろう?そろそろ結婚はしないのかね」
「はっ?!」
どうも彼女の言う“付き合っている”と、私が受け取った“付き合っている”は意味合いが違っていたらしくぎょっとしてしまった。
「え?あの田口先生?」
「君ね、君も彼女と同い年なんだからしっかりしなさいね」
騒がしくて慌て者のくせに、変なところでぼさっとしてると言われてグサリときた。
まさにその通り。
いや、今はそんなことで傷ついている場合ではないか。
「あのですね、先生、俺と火村は…」
「今は結婚という形にこだわらないカッフルが増えているのは知ってるけどね、大学っていうところはまだまだ保守的なところがあるからね。彼女は何も言っていないかもしれないが、かなり話がきてるんだよ」
「話?話ってなんですか」
「見合いだよ、見合い」
「見合い…」
まぁ確かにそんな話が来ても…いや、前に何度かやらされたとか言っていたような気もする。
「彼女美人だし、しっかりしてるからね。彼女を息子や孫の嫁にしたいって人はわんさといるのさ。それに学生もね。近頃は草食系がなんだとかいってるけど、どうしてどうして、なかなか根性のあるやつはいるもんだね」
「へっへー」
私は先生の誤解を解くのも忘れて感心してしまった。
火村のやつめ、男の時ならず女になってももてもてか。
正直言って羨ましい。私も一度くらい火村のようにもててみたいものだ。
そんなことを考えていると「あのな、有栖川君」と田口先生。
「君ね、まさか彼女をこんなにも長い間独占しておいて彼女が他の人と結婚するのを黙って見ているとかいわないよな?」
「え」
「だとしたら最低だぞ」
最低。
グサリときて硬直してしまった私に、彼女は追い打ちを掛けてくる。
私の母に負けず劣らずな勢いで。
曰く、あんなに美しい人が君の傍にいてくれる贅沢が…うんぬん。
曰く、花の命は短いのだ。彼女がその特に美しい間を君に捧げて…うんぬん。
曰く、確かに君では火村君の相手としては役者不足かもしれないが…うんぬん。
曰く、君もそれなりに売れた作家になったのだから…うんぬん。
口を挟めずにいる私を相手に、好き勝手を言った彼女はとても厳しい目(レポートが及第点に届かなかった時以上の厳しい目だ)で睨みつけ、「男なら覚悟を決めなさい」と、打たれる覚えのない五寸釘を私の胸に突き刺した。

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