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真夜中の訪問者

ドイツは、数年にわたり、ルカシェンコ大統領が独裁しているベラルーシの治安部隊や機動隊に財政的にも物質的にも援助してきたことが明らかになった。 というニュースが元ネタ。
2006年~2007年くらいの話。
とはいえ。史実ガン無視の創作話として読んでね!
読み返してない

「ヴェスト」

夜中に兄に揺すり起こされた。
はじめは酔っぱらって帰ってきた兄が絡みに来たのかと思ったが、どうもそうではないらしいと気付き俺はパチリと目を開いた。
「兄さん?」
「あぁ、起きたかヴェスト」
兄が暗闇の中で目を細めたのが気配でわかった。
俺は体を起こし、手を伸ばしてナイトランプを灯した。
眩しさに一瞬目を細め時計を見ると、時刻は一時に近かった。布団に入って1時間半。深夜。
兄から酒の匂いがしたが、彼の意識ははっきりとしているようだった。
「なんだ、どうしたんだ?」
「客だ」
「客?」
「そうだ。お前に」
驚き困惑する俺に、兄は起きて着替えるようにと促した。
「一体、誰が来たんだ?」
ラフなシャツを手に取ろうとすると、兄はそれを手で制しアイロンの掛けられた白のワイシャツとスーツを俺に手渡した。
兄は俺の問いには答えなかったが、手渡されたスーツが相手を暗喩している。



客の待つ応接間の前、振り返ると少し離れた場所に、兄が怒っているような表情で立っていた。
彼は同席するつもりはないらしい。
俺はネクタイをキュッと詰めると、ノブに手をかけた。

上司の関係者か、もしくは現在あまり友好的とは言えない国、もしくは難しい問題を抱えている国。
そのいずれかだろうとの予測は半分は当たった。だが、半分は全くの外れだ。
まさか“彼女”が俺の家を訪問して来るとは。
兄の怒っているような顔を思い出す。
あれは、こういう意味だったのか。

「ベラルーシ」

名前を呼ぶと、メイド服を着た彼女は座っていたソファからさっと立ち上がり睨むように俺を見た。いや…あれは睨むように…ではなく、完全に睨んでいるのか。
ナイフの切っ先を思わせる鋭い視線。
彼女の鋭利な雰囲気は、昔からずっと変わらない。
下手に視線を向けると睨まれる。下手に近づくと切りつけられる。下手に触れると心臓まで持っていかれる。
「こんな夜中にどうした」
慎重に言葉を選んで口にすると、彼女の鋭い視線がすいと離れ、彼女はストンとまたソファに腰を下ろした。
テーブルの上には、彼女をもてなすものは何も置かれていない。
お茶の一つも、軽食の一つも。
わざと兄は用意しなかったのだろう。
そういえば、俺が起きてからも彼は客の相手をしに行こうとはせず、自分の準備を事細かく手伝っていた。
「少し待ってくれないか。コーヒーでもいれよう」
彼女がちらとコチラをみた気配はしたが、何も言わなかった。

キッチンでは兄が湯をわかしているところだった。
彼はシュンシュンと音を立てるやかんを睨んでいた。
彼は俺がコーヒーを煎れに来るとわかっていたのだろう。
「ぼっちゃんから貰ったブルマンだ」
兄の台詞に“あんな女に茶なんか出す必要はねぇ”という言葉が二重音声に聞こえたのは、まんざら空耳でもあるまい。
「いいか、ヴェスト、気ぃ抜くなよ。あいつは得体がしれねぇからな。女だからって気を抜くなよ」
心配を露にする彼に俺は自分がまだ小さかった頃の事をふと思い出した。
彼は昔から…いや、昔はもっと過保護だった。
「わかっている。兄さん」
あの頃と同じように素直に返事をすると、彼は「それでいい」と彼は真顔で頷いた。

「何かあれば呼べ」

今度はリビングで別れた。



ベラルーシの持ってきた話は治安維持部隊に対する支援の申し込みだった。
これは一言でいうのは簡単だが、実際にはかなり難しい問題だ。
何しろ彼女の家は、所謂独裁国家。一人の男が全てを牛耳っているような時代遅れな国で、そこにある治安維持部隊といえば、事実上彼の私兵である。
あまり世間一般には知られてはいないかもしれないが、独裁体制を倒そうと立ち上がった民衆を彼らが治安維持部隊が力ずくで押さえつけたという話もある。
その治安維持部隊に対し技術力及び経済的支援をして欲しいと彼女は淡々と言ってのけた。
「お前の国が持つノウハウと近代的な最低限の装備を提供してもらいたい」
突拍子もないことを彼女はごく当然の要求のようにいうので、俺は驚く自分がおかしいのかと勘違いしそうになったほどだ。
「正気か」
俺の言葉に、彼女はニコリともせずに頷いた。
「何故、俺に」
「お前が一番都合がいい」
「……受けるかどうかは別にして、条件を聞こう」
少し考えて言うと、彼女の口許がわずかに弧を描いた。
「それに話が早い。お前は他のやつらに比べて悪くない」
「そうか。それで?」
再度問うと、彼女は変わりに彼女が俺に提供できるものをまた淡々とした口調で並べ立てた。
複数示された条件の内、いくつかは全くお話にならないものだったが、いくつかは悪いものではなかった。
いや…正直に言うと、喉から手が出るほどに欲しいものであった。
彼女は最後まで話し終わると、俺を見て今度こそくすりと笑った。
「顔つきが変わったぞ」
「うるさい」
唸るように言うと彼女は面白いものでも見るような目で俺を見た。
俺はその視線に居心地の悪さを感じながら「今すぐには返事は出来ない」とビジネス上の決まり文句を口にした。
「後日の返事でいいだろうか」
「十分だ」
彼女はぬるくなったコーヒーを首をそらし一気に飲み込むと、話は終わったとばかりに立ち上がった。
「上司とよく話し合って欲しい。ただし、ごく内密に頼む」
「当たり前だ。こんなこと、おおっぴらに出来るわけがないだろう」
「それでいい」
俺もまた彼女を見送る為に立ち上がると、彼女に続いて部屋を出た。
と…廊下には、兄さんが腕を組んで壁にもたれ立っていた。
兄とベラルーシは一瞬視線を合わせたようだったが、互いにすぐに視線を逸らしてしまった。
彼女は無言で玄関まで歩き、玄関扉を開く。
そこには一台の黒い車が止まっていた。
彼女に続いて外に出ようとした俺を彼女は振り返り、ここでいいと言った。
そして、「あの男に言っておけ」と俺の肩越しに向こうを見ながら口を開いた。
「玄関先で眠るのは感心しない…と」
そして白金の髪をさらりと振って後ろを向くと、車に乗り去っていった。

…玄関先で寝る…?

俺は自分が立っている足元を見つめ、彼女の言い残した言葉の意味を聞くために兄を振り返った。
「兄さん?」
しかし…そこには、さっきまで居たはずの兄の姿はなく、俺は背中に車の去る音を聞きながら額に手を当てた。

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