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ガラス越しに覗く空 06

なんか変。どっか矛盾してるとこがあったけど…わすれた。
読み返してない。

『君、君、ちょっと暇か?』

潜めた声でアリスから電話がかかってきたのは、午前の授業を終えたところだった。潜められたというだけではなく、声がくぐもって聞こえるのは彼がトレードマークのマスクをつけているからだろう。
「ちょっとってどれくらいの話だ?」
『これから夜までって意味や』
これから昼食を挟んで午後から一時間授業がある。その後なら、まぁ空いていないことはない。そう伝えると、授業が終わってからでもいいから是非署に顔を出して欲しいとアリスは言った。
『一昨日こっちで起こった事件について意見をきかしてもらいたいんや』
と、くしゃみ。
彼は相変わらず鼻炎を患っているらしい。
「へぇ。そりゃ構わないが…お前から事件の話が来るのは珍しいな」
彼が担当しているのは、主に過去の未解決事件で、近頃の事件に彼が顔を出しているのは珍しいことである。
それを指摘すると、受話器の向こうでアリスが言葉につまった。
「なんだよ、どうかしたのか?」
『いや、実はな、今朝、尊敬する亡き植木等大先生の歌を文字って“警察官は気楽な稼業ときたもんだ~♪”とやらかしたんや。そしたら…』
その先は、わざわざ聞く必要もない。コイツは本当に呑気すぎる。
案の定、忙しさに目を回していた殺人課の刑事に鼻歌を聞き咎められて現場に引っ張られ、そんなに暇ならちょっと来いと言われたのだという。
「バカ」
言うと、うっと小さくアリスが呻いた。
『た、確かにそうや。認める。やから助けてくれ!ちょっと難しいトコにぶつかっとるんや』
「おまえなぁ、仮にも優秀な刑事だろ」
『書類上“だけ”はな!』
この男、自分で言ってて悲しくならないのだろうかと思うが、当人は全く気にしていないようである。
『俺は議論の尽くされた案件を書面で見て、別の視線から考えていくんはわりと得意やけど、現場はあかんねん。なぁ助けてくれ!ホスト遊びでもエステでもなんでもおごったるから!』
「いらねーよ、そんなもんは…」
何故よりによってエステにホスト遊びなんだ。彼は一体俺をなんだと思っているのだろう。
しかしここで恩を売っておくのは悪い考えではない。
俺は授業が終わり次第そちらに向かい、アリスとは現場で落ち合うことを決めた。

 *

へっち!

おかしなくしゃみで俺を出迎えたアリスは、「あー、よかった、来てくれて」とホッとしたように肩を落とした。
相変わらず仕立ての良いコート(このコートは初めてみるやつだ)を着用した彼は、どことなく現場から浮いている。やじうまにもなれない迷子みたいだ。
「それで?」
話を促すと、彼は「こっちき」といって先に立って歩いた。
彼が歩くと、そのあたりで話していた警官たちがサッとアリスのために道を開け複雑な色合いの目で彼を見、離れた場所にいた現場の刑事は、アリスの事をあからさまに嫌そうな目で見た。
そしてまた関係者らしい一般人は、アリスに一体何者なのだろうと訝しんでいるような目を向ける。
スポットライトのように様々な色合いの視線を受けて歩くアリスは、しかしそんなものには慣れっこなのか涼しい顔をしている。
第一印象と同じく妙な男だ。
目立ってスタイルがいいわけでも、目立って背が高いわけでも、目立って人目を引く容姿があるわけでもないが、彼は間違いなくこの場で一番目立っていた。

 *

事件は単純なもので犯人ももう特定されているのだとアリスは言った。
話を聞いてみると確かに至極単純なもので、犯人は拘束されている人物に間違いないらしい。
ならば何が問題か…というと、凶器だ。
今もまた警官らが事件のあった家の中をひっくり返して探しているが、肝心の凶器が見つからないらしい。
「それを探せって挑戦か」
俺が言うと「そういうこと」とアリスは頷いた。
そして俺にヘルプコールを送った割りには気楽な声で、「ほんまは別にわからへんでもええねんけど」と続けた。
「凶器が見つからんでも、こんなにはっきりした事件や。立件にも問題はないし、まず有罪やからね」
「おいおい」
じゃぁ何故呼んだ。
「まぁもちろん見つかって欲しいとは思うとるよ。うん。めっちゃ怒られたし」
チラと睨むと、アリスは肩をすくめていった。
「……そりゃ、気楽な稼業と言われりゃその刑事じゃなくても怒るだろうよ」
「あれは確かに反省した。もう署ではスーダラ節も無責任一代男も、ハイそれまでョの替え歌も歌わんわ」
歌詞の内容は非常に気になるが、そちらは聞かぬことにして、現場にアリスを引っ張ってきた刑事及び同じフロアで働くアリスの同僚に対して俺は心からの同情の念を抱いた。
「へっくしょい」
「お前のくしゃみは鼻炎じゃなくて、他所で悪口を言われているせいじゃないか?アリス」
「なんでやねん」
はははっとアリスは笑うが、俺としては別に冗談で言ったつもりはなかった。
俺はアリスから目を離して現場に向き直る。
被害者が倒れていた位置はこちら。そして犯行時に犯人が立っていた場所がこちら。向こうの書棚から落ちた本に、割れたスタンド。それから…
「なぁ君、どこのホストクラブがええ?君が来るまでネットで…「アリス」」
コイツはまだそんなことを言っていたのか。
ジロリと睨むと、彼は怯む…代わりにまたクシャミをした。
「あ、ホストクラブが嫌ならラブホでもいっとくか?」
男同士で。
ケタケタ笑うアリスのことはもう無視することにした。

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