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迷える森で追いかけっこ!

火村→←←←←←←←←←←アリス
案外愛されアリス。 よみかえさんよ。 駄文

「火村君、ちょっといい?」

空き時間の階段教室。頬杖をついて本を読んでいた火村に声をかけたのは、ちょっと派手な容姿をした女性だった。
栗毛に染めた髪をふんわりと膨らませたギャル風な服装に元の顔が全く伺えないようなやり過ぎなメイク。そして香水のキツい匂い。
自分に妙な自信があるらしく、火村があからさまに嫌な顔を見せても全く怯んだ様子がない。
「あのね、今度のルノワール展でのチケットあるんだぁ」
そして時間があるともいっていない火村に対し、頭の悪い態度で喋り出し二枚のチケットを見せた。
「***の美術館なんだけどー。私、絵とかはちょっとわかんないんだけど、せっかくチケットもらったからぁ」
「くれるのか?」
「うん!もしよかったら、次の日曜に私と「ありがとう」」
彼女が言い切る前に、火村は差し出されていた2枚のチケットを受け取り「友人が行きたいといっていたからちょうどよかった」と有無を言わせぬ口調で言い切った。
デートの誘いのつもりでチケットを差し出した彼女は、一瞬何が起こったかわからないようだった。微妙な表情で固まった彼女は、
「じゃぁ俺は用事があるんで、これで」
火村が立ち上がった時にようやく、チケットだけをとられてデートの約束は取り付けられなかったのだと気づいた。
しかし今更呼び止めるわけにもいかず…彼女はただ悔しそうな顔をして地団駄を踏むしかなかった。

*

上手いこと下心見え見えの女からチケットだけを取り上げた火村は、傾きかけていた機嫌を持ち直していた。
女性の純情を弄ぶなんて、全く嫌なヤツだとおもわれるかもしれないが、これまでモテすぎるが故に幾つもの女難にあってきた彼なのだから少しばかりは多めに貰いたい。
彼は立ち去る時の女のあっけにとられたような表情を思い出し含み笑いを浮かべると共に、手元のチケットを何気なく見た。
彼女が言ったようにルノワール展の入場無料券とある。…が、それだけではなかった。
そのチケットには、美術館であるというのに日付が指定してあり、またその後ろに次のような文面がついていた。
「夕方6時より、特別講演***を囲んでの夕食会…?」
それはルノワールに詳しい専門家を招いて行われる夕食会への招待券も一緒になったものであった。
いや、どちらかと言うと夕食会がメインで、美術館入場券がおまけといったかんじだ。
値段は書いてはいないが、場所がホテルで行われるとあって実は結構な値段のチケットだったのかもしれない。
火村は苦い気持ちになったが、だからといってわざわざもう一度彼女のもとに戻って弁解する…という気持ちにはもちろんならなかった。
こうなったら知らんぷりをするだけである。
ならば後はチケットを処分するだけなのだが…、と考えたところで彼の前に姿を表したのがアリスだった。
アリスという愛らしい名前をしていても、火村と男である。
そしてまた、同じ男であるにも関わらず火村の事を愛しちゃってるちょっと変わった男だ。
うざいくらいに好意を押し付けてくるアリスの事を、火村は普段は邪険にしまくっているが、実は割と気に入っていたりする。
彼は幼稚でアホで騒がしくて、うざくてしつこくい男だが、悪い人間ではない。
「アリス」
名前を呼ぶと、彼はハッとして火村を振り返り「火村やん!」と満面の笑みを浮かべた。
「なに?君から話しかけるとか珍しいやん!もしかして俺の事、好きになってくれたん?ラブ?フォーリンラブ?俺たち付き合っちゃう?」
きゃーっと一人で盛り上がるアリスを火村は冷めた目で見つめため息をつく。
やっぱり誰か他の奴に譲ろうか…。
そんな事を思いつつ、まぁせっかくだからと誘って見ることにした。
「あー…お前、えっと…今度の日曜日暇か?」
「え?日曜日?なんなん?」
「実は夕食会付の美術館のチケットを手に入れたんだ。暇なら一緒にいかないか?」
火村はチケットを見せる。
アリスはそのチケットに嬉しそうな顔を見せるが…
「あかん」
応えはノーだった。
「……あ?」
アリスが自分の誘いを断るとは思ってもいなかった火村は、彼の言葉を理解するのが遅れた。
は?なんで断るんだ?俺が誘ってやったのに?俺よりも大事な用があるってのか?俺が一番好きとかいっておきながら?
火村の眉間に皺が寄るが、頭が残念なアリスは気づかない。
「あかんねん、その日は」
「なんでだ?俺よりも大事な用か?」
「アホ!火村より大事な用なんてあらへん!火村の用事や!」
「はぁ?」
なんの話だと首を傾ぐ火村にアリスは「あんな!」と鼻息を荒くして口を開いた。
「こないだ、火村にラブレター渡した子いたやん。頭がくるくるしとる可愛いんやか可愛くないんやかよくわからんこ!」
「…そんなやついたか?」
「おった!水曜日に図書館で君に手紙渡してたやん!」
「……あぁ、あいつか。…けど、なんでお前が知ってるんだ?アリス。あの時お前はいなかったはずじゃ…「あー!あー!あー!」」
どうやら聞いてはいけない事であったらしい。
またストーキングしてやがったな。という火村の視線にアリスは目を泳がせながら「とにかくや」と口を開く。
「日曜にはその子呼び出して説教したらなあかんねん」
「は?」
「やから説教や、説教。なに抜け駆けして火村にラブレターなんぞわたしとんのやってキツゥいうたらなあかんねや。火村には俺がいるねんから、モーションかけても無駄や、他あたれってな」
どうだ。君思いのええこやろ。褒めろとばかりに胸を張るアリスだが、火村が喜ぶわけはない。
いや、アリスのアホみたい…もといアホな行動のお陰で、何割かの女が近づかなくなったのはありがたいと思っていたりする。
しかしそれとこれとは別だ。
「つまり、お前は俺の誘いを断って、その頭のくるくるした可愛いんだか可愛くないんだかよくわからない女に会いに行く。そういう事なんだな?」
低い声で確認するように火村は言った。
いくら鈍い人間でも、さすがにここまで来ると気づくものだ。
しかしアリスは…、使命感に燃えたアリスは気づかなかった。
「せやねん。悪いな、火村。また今度な!俺はあの女、成敗してくるからな!」
愛してるで。
そういって次の授業が迫っているらしいアリスは足早にその場を後にした。

「…の野郎…」

そして取り残された火村はぶつけどころの無い怒りに拳を握りしめ、チケットをぐしゃぐしゃにした。
「なにが愛してるだ!畜生、こけにしやがって!」
人通りがある場所にも関わらず大声を出した火村は、チケットを丸めてその辺りに捨てた。そして自分に注目が集まっているのに気づくと、「何見てんだコラ」と二昔くらい前の不良のような事をいい肩をいからせて立ち去った。

また蛇足として、翌日から一週間徹底的に火村がアリスをシカトしたこと。
ショックを受けたアリスが、日曜日に説教ではなく、相手に泣きついたこと。
泣きつかれた彼女が母性本能をつかれたのか、アリスに惚れてしまったこと。
それを知った火村が無視の延長を決定。
火村に嫌われては生きていけない…と、アリスが観衆の中、泣いて土下座をし、火村が渋々許す。
といったようなすったもんだがあったことを記しておく。

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