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ヒポコンデリー 05(番外)

Googleマップのルート案内をつかって、適当に計算しています。
目的地まで3,279キロ。
馬車の平均速度を1時間に16キロとして、1日に12時間走る=17日間の旅
プラスアルファくらいだと思っています。
ドイツ フェンプフール → スペイン アルカラ・ラ・レアル
地図は現在のものです
御者(モブ)視点。読みかえさん

荷馬車はドイツを出てベルギーを横断し、それからフランスとドイツの国境あたりをつらつらと下っていく。
そうしてスイスとフランスの国境付近、フランスとイタリアの国境付近を下り、海にあたると、今度は海を左手に見ながら西、南西へと向かっていく。
旅は至極順調だった。
屋敷を出てからずっと晴れ続き、気候もすこぶるいい。
時折領地を回っている兵士に出くわすこともあったが特に話かけられることもなく、同じように旅をしていた人たちと行商のカモフラージュとして持っていた物品を交換したり、急ぎつつも急ぎすぎず確実に日々を過ごし旅を続けていた。

 *

預けられたルイーゼという少女は、本当におとなしい少女だった。
移動中、時折彼女の隠れた箱を確認するため馬をとめ、荷車の方にまわってトントンと箱を叩くと、トントンと規則正しく返事がかえってくる。
もう一週間程度旅をしているのだが、その時に異常を伝えられたことは一度もない。
陽がくれると彼女はようやく外に出ることが出来るのだが、彼女はいつも手を貸そうとする私を断る。
曰く
「私に触らないでくれ」
なんとも冷たい言葉だが、ビスクドールの如き綺麗な顔をした少女に言われると、腹が立つよりも畏怖の感情が沸く。
彼女は田舎娘になりすますために、粗末なワンピースを着ているのだが、兵士に見つかってしまえばどんなに上手い演技をしたところで彼女がそんなものではないことは一目でわかるだろう。
彼女は、長時間の移動の後に箱でも、すっくと背筋を伸ばし、とても気品のある動作で箱から出てくる。
そんな彼女に私は感動を覚えずに居られない。
相手はまだ10そこらの子供であるというのに。
彼女に対する時、私は一国の王女を前にした専属騎士のような気分になる。

「代わり映えのないメニューですみません」
キャベツとベーコンのスープを差し出しながら言うと、彼女は皿を受け取り首を横に振った。
「いや、こちらこそすまない。私も料理が出来ればいいのだが」
彼女の手はとても綺麗で、それこそスプーンとフォークくらいしか持った事の無いように見えた。
勿論、貴族の子女ならば当たり前の事なのだが。
「いいえ、そんな。明日は少し大きな街につく予定ですし、何かいいものを買ってきましょう」
女性は甘いものが好きだから、あまい菓子があれば仕入れてこようと私は心に決めた。
彼女はそんな私をじっと見つめ、そっと目を伏せた。
「無理をする必要はない、あまった金はあなたの給金になるのだろう。なんならもっと節約してもいいくらいだ」
「報酬は十分にいただいていますよ。それこそしばらくは遊んで暮らせるほどに」
「そうか」
「はい」
それで会話は途絶えた。
そもそも年齢が違いすぎることもあり、彼女との会話はなかなか見つからない。
その中にあって今日の会話はよく続いた方だ。
私は初恋を覚えたばかりの少年のようにはやる胸をなだめ、少し塩味が効きすぎたスープを啜った。

彼女は昼の間のほとんどを眠って過ごしているからだろう。
彼女は夜が更けてもパッチリと目を見開いて眠たそうな様子を見せない。
最初の頃は私も気を使ってなるべく起きているようにしていたのだが、彼女は火の番をしながら一晩中起きているのが常なので、そのうち絶対に傍を離れないようにいいつけて夜は一人で眠るようにしていた。
今日もまた彼女は、夜がずっと更けてもまっすぐに背を伸ばして、火の番をしていた。
遠くから時折夜行性の鳥の声が聞こえてくる。
普通の少女であれば、暗闇ですら怖がるだろうに、彼女は全く怖がる様子はなくまっすぐに火を見つめる。
私はうつらうつらしながら、眠る間際まで、ゆらゆらと揺れる炎に照らされる彼女を見つめているのが好きだ。
彼女はとても美しくて、とても神々しい。
人であって人ではないもの。
あの人の妹ということは、つまりそういうことなのだろう。
私は彼女に娘に対するような愛おしさ(とはいえ、まだ私は独身で子供などいないのだが)、友人に対するような親しみ、そして母に対するような無条件の信頼、神に対する信仰、そんなものを感じる。
彼女と一緒に居ると、恋する少年のように胸が早鐘を打つと同時に、真綿にくるまれて母親の腕に抱きかかえられているような安心感を感じる。
愛しい女に対するものとは違うが、それと同じくらいに彼女に対して愛を感じる。
じっと見ていると、彼女の視線がふっと炎から離れ私に止まった。
私はその視線に熱を感じた。
私はとろとろに溶かされてしまいそうな気分になった。
今日飲んだ塩辛いスープのように溶けてしまいそうになった。
酒を飲んだわけでもないのに、酔ったような気分になり目をとじる。
彼女が何か言ったような気がした。
だが、それを聞き取る前に、私は静かに眠りに落ちていた。

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