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枕元にジンクス

火村→←←←←←←←←←←アリス
案外愛されアリス。 よみかえさんよ。

アリスが風邪をひき倒れた。
わざわざ休みの日に、俺の下宿までやってきて…だ。
口には大型のマスク。
額には冷えピタ。
顔は真っ赤で、赤い“はんてん”を着用。
ふらふらとしながら…ばあちゃんに心配されながらやってきたアリスは、俺の部屋に入るとそのままグラリと身体を傾かせ、そして昏倒した。
熱は38.5度。
心配して救急車を呼ぼうとするばあちゃんをなだめ、変わりに客用の布団を提供してもらい彼をそこに寝かせた。
真っ赤になって寝込んでいる客人が珍しいのか猫たちが近づこうとするが、さすがに近づけられないと部屋から追い出した。

まったく。
本当に迷惑な男だ。
どこまでも。

1時間ほど経って…つまり、夜の10時を過ぎたあたりでアリスは目を覚ました。
彼は熱っぽい潤んだ目で、レポートを書いている俺を見つめ「あれ」といった。
「なんで君が俺んちにおるん」
「…おまえな。いつから此処がお前の家になったんだよ」
お前がばあちゃんの孫だなんて聞いたことないぞ。
そんなことを言うと、アリスはきょろきょろと辺りを見回し、「あれ、ここ君の部屋やん」と言った。
「なんだよ、お前、此処に来たの覚えてないのか?」
「え?…あー…そういえば…」
どうやらこちらに来たという記憶はぼんやりとではあるがあるらしい。
熱があるのになぜわざわざ…と思わないでもないが、言えばヤブを突くような結果になりかねないのであえて聞かない。
その代わりに俺は、彼が寝ている間に作っておいた粥を温めなおし彼に与え、ばあちゃんが用意してくれていた風邪薬を彼に呑ませた。
ついでに近くから買ってきたスポーツドリンクもくれてやる。
「俺、此処にとまってええん?」
「…さすがに今更帰れとはいわねぇよ」
普段なら絶対に泊めないが、今日ばかりはしかたがないだろう。
それにアリスも具合が悪そうだし、余計なことはしないだろう。多分。願わくば。
「うわぁ…俺、君の家にお泊り?やばい、ドキドキして体温上がってきたわ」
「……」
やっぱり帰したほうがいいのだろうか。
ジタバタ動くアリスを見てそう思ったが、すぐに「ウッ」と苦しそうな顔をして静かになったアリスを見て、それはやめておいた。
「ったくしかたのないやつだな」
「…すまん」
これくらいいつもいつもしおらしければ可愛げもあるのに。
………いや、やっぱりいつものほうがいいか。
病人の割には騒がしいアリスだが、それでも普段のアリスと比べると半分の騒がしさもない。
そしてそれが少しばかり寂しい。
「なに?」
「…なんでもねぇよ。それよりさっさと寝ちまえよ、アリス」
「といってもなぁ…あんま今は眠たないな」
「すぐに眠れるさ。目を閉じてじっとしていろ」
「火村、添い寝してくれへん?」
「バカ」
呆れて言うと、彼はマスクの下で唇を尖らせたようだった。
「やったら、手を握ってて」
「俺はレポートをやんなきゃいけねぇんだよ」
アリスが突然やってきたせいで、予定は大幅に狂っている。
「ケチ」
これだけ世話を焼いた俺にケチだと?
じろりと睨むと、彼は一瞬ひるんだような素振りを見せたが、すぐに「子守唄うたってや」ときた。
「お前な…」
いい加減にしろというと、彼は口の中でぶつぶつと文句をいっていたようだが、また「そやったら」と口を開いた。
「まだ言うのか?アリス」
「これが最後や」
「………それで?」
言うだけ言ってみろと促すと、彼は「ちゅう」と言った。
「ネズミの真似事か」
本気で意味がわからずにそう聞き返すと、「キス」と彼は言い換えた。
「キス?」
「そう、キスしてくれ。お休みのキス」
「お前な…」
俺がそれをするとでも?
「ほっぺたでええ」
「………」
「おでこでもええ」
「………」
ひたすら無言で見つめてやると、彼は「もうええ」といって目を閉じた。
どうやら拗ねてしまったらしい。
だがこれで静かになった。
俺はちゃぶ台の上に置いたデスクライトを灯し、部屋の明かりを落とした。
アリスは眠くないといっていたが、一度も寝返りを打たない内にすぐに深く寝入ってしまったようだった。
俺は30分ばかりアリスの寝息を聞きながらレポートをすすめ、それからアリスを見た。
薄暗い部屋の中でもわかる真っ赤な頬、少しばかり荒い息…。
やはり静かなアリスというのは見ていて落ち着かない。
俺は身体を捻ってアリスの顔をのぞき込んだ。
平凡な顔だと思っていたが、こうやってまじまじと見てみると案外整った顔をしている。
「アリス」
名前を呼ぶ。
返事はない。
反応もない。
俺は少し考えて、片方の手をアリスの向こう側につくと、寝る間際の彼のリクエストに応えることにした。
「アリス」
たぬき寝入りしていたら、朝まで気持ちよく寝れるように気持よく意識を飛ばしてやる。
だが、もちろんそんな心配はなさそうだった。
俺はゆっくりと顔を近づけ、口付けた。
額でも、頬でも、こめかみでも、瞼でも、顎でも、鼻でもない場所に。

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