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恋心リッパー

ヒムアリ(女)
アリスは女だけど、女って以外にほとんど変わりはない。
あまり読み返してない。なんか変かも。

友人の女性の話だ。
彼女は二十歳そこそこで一度結婚しているのだが、一年ほどで離婚した経験を持っている。
その彼女がつい先月に二番目の夫となる人と結婚しようとしたら、なんと、前の夫が離婚届を提出しておらず、彼女は実はこれまでずっと既婚者のままでだったという話があった。
彼女は怒って“元の旦那”と思い込んでいた“旦那”の元へ怒鳴り込み、なんだかんだがあったらしい。
そんな話があるものかと私は眉唾であったが、彼女は割と大雑把な人間であるし、役所も案外適当なところがあるからそういうこともあるのかもしれない。

まぁそれはそれとして。
彼女が二度目の結婚を前にしているのに対し、私はこれまで一度もしたことがない。
別に結婚に夢を見るような、ロマンチックな性格をしているわけではないし、ただ文字を書いて暮らしている生活を苦にしているわけでもない。
だが、やろうと思えば何度だってやれるはずのそれを一度も経験していないのはなんだかちょっと損をしているのではないかと思ったりした次第。
一度くらい結婚式をあげたいし、ハネムーンにいきたいし、名字が変わってみたいし、姑と喧嘩したいし、夫婦喧嘩したいし、友人たちと旦那の悪口を言いたい。
つまり、私は結婚したくなったのだ。

そして思い立ったが吉日。
私の行動派割と早い方だ。
特に用事のなかった私はその足で役所に向かい、結婚届けなる書類をてにいれた。
そして家に戻ると、さっそく妻の欄をきれいに埋めてしまった。
だが、当たり前だが、隣の夫の欄は空白のままである。
これでは結婚は出来ない。
「なんや、つまらん」
私はふくれてペンを無げだし、そのまま後ろに転がった。

そうしてそのまま私は眠っていたようだった。
多分、一時間ほども眠っただろうか。
ハッと目を覚ますと、なぜかすぐそばに火村…大学からの親友であり、この家にもよく出入りしている男がいて、妻の欄の埋まった結婚届けを見ていた。
ひどく不機嫌な顔をしている…と思うのは、私の希望的観測だろうか。
私と彼とは恋人同士ではないが、限りなくそれに近い。
私は彼に好意を持っているし、彼からも好意を感じる。
だが私たちはあえて親友から踏み出すようなことはこれまでしてこなかった。
この距離感が一番いいのだという一種の暗黙の了解が成立している。
そんな親友関係を築いている片割れが、結婚届けなど書いているのを見て彼はどう思うだろうか。
私がにやにやとしながら火村の横顔を見ていると、彼は面白くなさそうな顔で私を見て「これはなんだ」と聞いた。
「なにって見たまんまやないか」
「結婚するのか?」
「したいと思て」
微妙なニュアンスではあるが、頭のいい彼ならば正確に読み取ったはず。
しかし彼は期待したニヤリとした顔は見せず、ひどく無表情だった。
「火村?」
名前を呼ぶと、彼は不機嫌そうに眉間にしわ寄せ、小さく舌打ちをした。
なにやらもごもごと言っているようだが、私には聞き取れない。
「なんやねん」
私が聞くと、彼は恨みがましいような目で私を見る。
「お前な」
「ん?」
「……あぁ、クソ」
「口わるいなぁ…」
ははっと私は笑うが、彼は笑ってはくれない。
のりの悪い男なのだ…とはいえ、今日の沈黙は少々居心地が悪い。
こういう時こそ嫌味をいってくれると助かるのだが…。
「アリス」
「ん?」
「俺は結婚なんてする気はない」
「あぁ」
いきなりなんだ。それは知っている。
彼は女性と付き合う事はできても、暮らすことは出来ないだろう。
気の弱い女性ならば逃げていく。普通の女性ならば泣き寝入り。気の強い女性が相手ならば、仮面夫婦まちがいなしだ。
つまりどんな相手でも幸せな結婚生活は送れない。
「だけど」
「だけど?」
「お前がしたいというならしてもいい」
「は?」
私は予想外の言葉に口をぽかんとあけた。
一方言った本人は、ものすごく不本意な言葉を口にしたとでもいうような苦々しい顔をしている。
「君、なんやて?」
「…だからお前と結婚してやってもいいと言っているんだ」
「うわー…君、めっちゃ上から目線やな」
あまりにも彼らしくて、腹が立つよりも関心してしまう。
顔がいい男だから許されるのだろう。同じセリフを凡人が言ったとしたら…間違いなく私はサバットをお見舞いしているはずだ。
「アリス、どうなんだ?」
「…どうっていわれてもなぁ」
「結婚したいんだろう?」
「そりゃぁ…まぁ」
一度くらいはしたいとは思ったが…、それがまさか火村からのプロポーズにつながるとは予想外も予想外だ。大穴すぎる。
「けど、君結婚したくないんやろ?」
「あぁ」
ムスッとした顔で言う。
「けど、お前が他の男と結婚するというなら別だ。そんなことなら俺がお前と結婚したほうがマシだ」
“マシ” ときた。
これまた随分な言い草だな…と思ったが、よくよく考えるとそうでもない…か?
「えーっと、それは君が俺と結婚したいってことか?」
「そう言ってもいい」
あくまで上から目線か。
しかし、私と彼が結婚か。
少し考えてみたが…特に何も浮かばなかった。
いや、浮かばなかったというよりも、これまでの生活から何が変わるのだ…という感じ。
「まぁ苗字が変わるくらいやろか」
ポツンと言うと、彼はまたもや非常に不本意そうな顔をした。
だったら言わなければよかったのだ…とは思うが、それを押して言ってくれたのだと思うと少し気分が良かった。
「君と俺が結婚ってなぁ…」
「…嫌なのか?」
「嫌やないけど」
じゃぁなんなんだ…とは彼は聞かなかった。
ただ私が寝る前に放り出したペンを取って、夫の欄を淡々と埋めだした。
なんだか話が恐ろしい速さですすんでいく。
別に、先ほど言ったように“嫌”ではない。
一応、両想いだったという確信はあったのだ。
だけど…まさか、これまであえてお互いが超えまいとしていた親友という名の一線を、こんなことで飛び越えてしまうとは。
しかも着地の先が恋人同士ではなく、突然夫婦とは。
なんとも妙な感じだ。
そうこうしている内に、彼はあっという間に書き終えるとカバンを引き寄せハンコまで押してしまった。
「新しい本籍か…こりゃどうすればいいんだ?」
「…さぁ?」
「じゃぁとりあえず、お前の住所でいいな。それで後は…証人か。じゃぁ、これはお前の父親と、下宿のばあちゃんでいいか」
問われて肩をすくめると、彼はここではじめてニヤリとした笑みを浮かべた。
「後悔するなよ、アリス」
「それはこっちのセリフや」
私たちは共犯者めいた笑みを交わした。
まさかの展開、まさかの結果。
彼相手じゃ、素敵な結婚式もハネムーンも、嫁姑戦争も望めそうにない。
しかし、私は逃げないし、私は泣き寝入りはしないし、私たちは仮面夫婦にもならないだろう。
親友同士だった今までと変わらない。これまで通り。ただ苗字が変わるだけ。
…それとも、やっぱり何かが変わるのだろうか。
今まで執拗に避けてきた変化は、しかし恐れていたほど悪くはないような気がした。

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