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煙炎 09

スモーカーは不機嫌のどん底にいた。
というのも、裏切り者が居るはずの港に向かったはいいものの、ちょうど入れ違いになり取り逃がしてしまったからだ。
ただでさえ強面のスモーカーの顔が、今は鬼の形相だ。
泣く子も黙る…どころか、心臓発作起こして死んでしまうレベルで恐ろしい顔になっている。
そんなスモーカーにガクブルしながら、航海士は汗をびっしゃりと掻きつつ海図にコンパスを入れていた。
彼は天才といわれるような航海士ではないが、堅実で真面目な航海士だ。なかなか面構えがよく、女性にもモテる男なのだが…いまは半べそを掻いていた。
それほどまでにスモーカーの威圧感がすごいのだ。
あぁ、もうだれでもいいから助けてくれ。
彼が神に祈りを捧げた時、それを海の神あたりが聞き入れてくれたのか、二人のいた部屋の扉がバーンと開きエースが顔を見せた。
「うわ、すげぇ煙」
彼はゴホゴホとやりながら、スモーカーの吸うタバコの煙で真っ白になった部屋の空気を扉を開け閉めする事で入れかえる。
「こんな部屋にいたら薫製になっちまうぜ…ってなんだ、お前もいたのか」
エースは汗でずぶ濡れになった航海士を見て言う。
「あ、はい。こっちで作業させてもらってました」
「させられてたの間違いだろ」
エースはけらけらと笑うと、「もう行っていいぜ」と手を振った。
エースの言葉にスモーカーの視線は厳しくなるが、エースは飄々としている。
「見張りのやつが、漁船を捕まえた。それに乗ってたやつが“それらしい奴を見た”っていってんだよ。話きいてこい」
エースがそう付け加えると、航海士はハッと目を見開き「行ってきます!」と部屋を出ていった。
その航海士の背中に「後で報告しろよー」とエースは声をかけ扉を閉めた。
「さっきの話は本当か?」
「あぁ。詳しくは聞いてないが、手配中の船らしいのを見たそうだ」
「…そうか」
「ったく、天下のスモーカー大佐ともあろう御方がなぁに部下をびびらせてんだよ」
エースは椅子に腰を落ち着けると大袈裟にため息をついた。
「そうも言ってはいられねぇ」
スモーカーは短くなった葉巻を捨て、新たな葉巻をくわえて言った。
「さっき本部から通信が入った」
「なんて?」
火を取り出そうとするスモーカーを手で制し、エースは小さな種火を彼のくわえた葉巻の先に飛ばした。
「奴がやったのは裏切りだけじゃねぇ、殺しもだ」
「あ?」
「近くの安宿から死体が出てきた。出入りの配食業者の若いのだ。腹をズタズタにされてたってよ」
「…許せねぇな」
「あぁ」
「そういや、脱獄した方はどうなったんだ?」
「それは別隊が追ってる。たしか“たしぎ”んトコだ」
首尾は聞いていないが、あいつなら大丈夫だろうとスモーカーが信頼をおいている女性は、もしかしたらエースの代わりにこの船に乗っていたかもしれない人物だ。
人事の関係でそうはならなかったが、彼女は今でも会えば彼の下につきたかったと言ってスモーカーを慕っている。
「たしぎちゃんね」
「なんだ」
「いや、あの子は真面目でいい子だけどドジッ子だから…何かやらかすんじゃないかと思って」
「たしかにな。だが、あいつだって締めるとこは締める。大丈夫だろう」
「まぁそうだな」
そうでないならエースと肩を並べるような地位にいるはずがない。
「それより、スモーカー。夕飯は期待できるぜ」
「あ?」
「漁船がゴールデン・ロブスター積んでたんだよ」
「ゴールデン・ロブスターだ?」
その言葉を聞いて、少しだけスモーカーは驚いた顔をした。というのも、このゴールデンロブスターというものはかなりレアな食材なのだ。
全長は3メートル以上になり、その名の通り金色をしている。肉は甘みがあり極上だ。
「買い取ったのか?」
「あぁ、もちろん」
「そんな金…」
「えへへ、そりゃぁまぁ…」
「おい!エース」
声を低くするスモーカーにエースは降参というように両手を上げ、へらっと笑った。
「勘弁してよ、大佐。大佐の機嫌が悪くって、皆戦々恐々してんだぜ?」
だから、今回のゴールデンロブスターは、大佐の機嫌を少しでも良くしようという涙ぐましいヤツラの心意気だ…と、エースに言われると、スモーカーは怒るに怒れなくなった。
「しかし…ゴールデンロブスター…ありゃぁ、相当高かったろう…」
「あー…まぁそりゃ…でもまぁ、見逃してくれよ。経理のやつもなんとかやってみるっていってたし?」
「お固い経理がそこまで言うとなれば…相当だな」
「そういうこと」
スモーカーは大きく息を吐いて「わかったよ」と言った。
「とりあえず、今日は裏切り者を血祭りに上げる前祝いでもやるか」
「お、物分かりがいいなぁ」
「うるせぇぞ、エース、気が変わって欲しいのか?」
「おっとこれは失言」
エースは両手で口を覆うような仕草をし、「んじゃ、ヤツラに今夜は宴会だって伝えてくるわ」と言って部屋を出ていった。

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