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麝香薔薇

リュウ=イーかっこ良すぎるだろう。
アツキは扱いにくそうだったので、相手はアキラに。
読み返さない

体を鍛えるのがもはや趣味になってしまっていた俺に、それならと西条が“リュウ=イー”という中国人を紹介してくれたのは一週間前のことだった。
西条曰く、かなりシニカルなニヒリスト。厭世的なところはあるが根はいい人間、そして中国憲法の達人。
一体どんな人が来るのかと当日はかなり緊張した。事前に二十代だと聞いていたにも関わらず、なぜか髭の長い小柄なじいさんを想像していた俺は、現れたスラッとした男前を見て顔がカッと熱くなるのを感じた。
ものすごくかっこいい。
身長は180くらいで俺よりも若干高く、痩身、しかし柔らかな筋肉がついているのが外から見てもわかる。
彼は前にサウスエンドで見た古い映画に出ていた俳優に似ていた。
孤高のビリヤードのプロで、ギャングを持っていたキューひとつでのしてしまった俳優に。主役ではなかったが、この俳優に惹かれた俺は、上演中は何度もサウスエンドに足を運び、上映が終了してしまうとDVDまで手に入れたほどだった。
緊張でガチガチになる俺を、彼は不審そうに見つめ、それからバカにするように笑った。
その日、三人で行った道場で、俺はリュウ=イーにボコボコにされた。
誇張なしに言葉通り。
まったく手も足も出なかった。
彼は恐ろしく強かった。
悔しかったけど、しかし彼に“根性はあるな”と言われた事には無性に嬉しくてたまらなかった。
翌日、ミカやルカに“にやにやしすぎて”気持ち悪い と言われ、リョウに眉をひそめられる程度にはうかれていた。

そして今日、放課後に一人でTOY BOXに向かっていた俺は偶然彼と再会した。
俺がハッとして足を止めると、彼はすぐにその視線に気づいた。
彼は俺を覚えていないのか怪訝そうな顔をし、そしてニヤリと口角を上げた。
見る人によっては喧嘩を売っているとしか思えない笑みだが、“そういう奴”だと事前にアツキに聞いていたお陰か、もしくは彼に俺が強烈に惹かれているせいか腹は立たなかった。
いや、むしろ彼が覚えていてくれたことや、彼の笑みを見れた事が嬉しくて胸が高鳴ったほどだ。
まるで恋でもしているみたいに。
恋?
そう苦笑しかけて、まんざら笑えない事態に陥っていると気付き自分でも情けない顔になったのに気づいた。
「御堂…だったか」
そんな葛藤をしている内に、いつの間にかリュウ=イーが目の前にいて俺は慌てた。
「ええっと、あ、はい。そうです。御堂、アキラ…です」
まずい。
これではまるきり不審人物だ。
赤くなっていた顔がますます赤くなる。
「授業は終わったのか」
「は、はい」
「アツキは?」
アツキ。
その言葉に俺はなんとなく寂しい気持ちになった。
「どうかしたのか?」
「い、いえ。西条なら…まだ校内に残っていたと思います」
「そうか」
「リュウ=イーさんは、お仕事ですか?」
なんとか会話を続けたいと、そんな事を聞いてみると、彼は口の端だけで笑った。
「仕事中といえば仕事中、そうでないといえば違うな。俺の仕事は殆どが突発的でね、まぁ今は待機中といったところだ」
一体どんな職業なのだろうか。
首をかしげた俺にふと浮かんで来たのは、あの映画のビリヤードプレイヤー。…だがそんなわけはあるまい。(そういえば、あれから映画を見返したのだが、そっくりだと思っていた映画俳優はリュウ=イーとはあまり似ていなかった)
「お前は思っている事がすぐ表に出るな」
「え、あ…よく言われます」
頭をかきながらリュウ=イーを見ると、すべてを見透かすような鋭い目があり俺は怯みながらも照れるという非常に器用な事をやってのけた。
「面白い」
「へ?」
「興味深い。少なくともアツキよりは」
アツキっいう名を何故彼がわざわざ出したのかはわからない。
だが、俺は彼の彼の言葉に一気にテンションが上った。
西條、すまない。
そんな事に優越感を覚える自分が奇妙で、だけどそれでも西条より自分を面白いといってくれる事が嬉しくてたまらない。
俺が犬なら、きっとちぎれんばかりに尾っぽを振っていただろう。
俺が人間で良かった。なんて馬鹿な事を思っていると、またもや面白いものでも見るような目で見られて俺はバカみたいに動揺した。
「リュウでいい」
「え?」
「名前だ。リュウと呼べ」
「あ、はい。じゃぁ俺のことも…あの、アキラって呼んでください」
「わかった。アキラ」
あぁやばい。
なんだか死んでしまいそうだ。
くらくらする。

そこから俺の記憶は飛んでいる。

気づけば、国際新成病院近くの閑静な住宅街にいて、俺はぼんやりとリュウ=イーの後をついて歩いていた。
驚いて足を止めると、数歩前を歩いていた彼も気づいて足を止め、俺を振り返った。
そして俺をまじまじとみつめ、片方の口だけで笑った。
「ようやく気がついたか」
「え?…あの…はい」
キョロキョロとあたりを見回す。
気を失って(?)それほど時間は経過していないようだ。だが、一体なんでこんなところに…?
「何を言っても返事が“はい”だったんでな。放っておいても良かったが…」
そういって彼は意味有りげな視線を俺に向けた。
意味有りげ。
それはわかるが、その意味はわからない。
なんだろう。もどかしい。
何か言わなければと頭を巡らせるが、上手い言葉は出てこず、
「まぁいい」
無情にもタイムアウト。
落胆する俺を、彼はやはり面白がるような目で見た。
「向こうに見える赤茶色のマンションはわかるか?」
リュウ=イーの指さした先には、2年ほど前に立てられたばかりの新しいマンションが立っている。
建てられた当初、ミカが“すっごい高級マンションなんだよ!”と騒いでいたのを知っている。
「あの七階、端の部屋に俺の部屋がある」
「へぇ、いいとこに住んでるんですね」
「あぁ、住まわせてもらっている」
確か上に行くほど高くなるとか言っていたような気がする。七階なら真ん中よりも少し上の方。
彼の家であのクラスのマンションに住んでいるというのは結構すごいことではなかろうか。
そんな事を思っていると「お前は本当に思っている事が表に出る」と言われて顔が熱くなる。
「では、そろそろ帰る」
「は、はい」
返事をすると、また面白がるような視線を向けられ居心地が悪くなった。
「あの…」
「いや、暇な時には遊びに来るといい」
「え!いいんですか?」
驚く俺を、彼はおかしそうに笑った。
「もてなしは出来ないが、それでもよければ」
「そんなのっ!…行きます。絶対っ!」
勢いこむ俺に、彼は少しだけ驚いたように目を見開き、すぐに軽薄ともとれる微笑を浮かべ俺に背を向けた。
俺は立ち去る彼の背中を見つめ、胸をギュッと握りしめた。
心臓が半端なくドキドキしている。
あぁまずい、深みにはまりそうだ。
でも嬉しい。
部屋に誘ってくれた。
遊びに来いと言ってくれた。
顔が熱い。
体が震える。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
夢みたいだ。
だけど夢だけにしておくのは惜しい。
こんなにドキドキしたのははじめてだ。
あー、だけどとりあえず…!
俺は胸元を握りしめた手を離すと、両手で拳を握り「よし!」と大きな声で気合いを入れた。

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