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風に溶けて走る

作家 アリス×火村
雰囲気だけエロを目指して。 題名とあわなくても気にしない。
読み返さない 変でも気にしない でもがんばった。

大学時代からの友人であるアリスからメールが来たのは、休日の朝のことだった。
メールには京都に程近い大阪の住所が書かれている。
「なんだこれは?」
布団に寝転がったままそれを見た俺は眉を寄せ、どういう意味かとすぐに返信したがアリスからの返事はなく、電話をしてみれば繋がらなかった。
まさかどこぞに誘拐されたなんてことはなかろうが少々きになる。
俺はもう少し寝ていたい欲求を抑え、起きることにした。

アリスからの思わせ振りなメールはこれがはじめてではない。
作りかけと思われるトリックの一部や、編集者からの逃亡ルート、暗号文なんかが時々、気まぐれに送られてくるのだ。
俺は念のため、送られてきた住所が本当に存在するものなのかをネットで調べ、またルートを調べてから下宿を出た。
Googleマップで調べたところ、かなり大きな屋敷の敷地が表示されたが、さて。俺は長い付き合いになる古馬に鞭を入れ、途中にあるコンビニで朝食を買い込み地図の場所へと走らせた。

着いたそこは、ネットで調べた通りかなり大きな屋敷だった。
広さだけなら俺の下宿よりもずっと広いだろう。
延々とつらなる塀と、その内側に植えられた鬱蒼とした木々、ようやくたどりついた門は純和風。
引き戸には来訪を知らせるためのチャイムの類はつけられておらず、俺はそれを引いて勝手に中に入らせてもらうことにした。
門の中に入って見る家はとても古い二階建ての和風の屋敷だった。重そうな灰色の瓦屋根、長い年月でねずみ色になった木の壁。屋敷全体が少し歪んで見え、まるで幽霊屋敷のようだ。
門から玄関までは20メートル強はあり、左右には手入れの行き届かない雑草がぼうぼうと繁った庭。
育ちすぎた庭木が、すっぽりと屋敷を外から守っている。
今はもう秋であるから鈴虫やコオロギが日陰で鳴いているだけだが、夏場にはさぞ騒々しかったことだろう。
俺は間から雑草の伸びる飛び石を歩き、玄関へと渡った。
そしてたどりついた玄関。ここにも来訪を家主につげるためのものはなかったので、俺は仕方なく「すみません」と中に向かって声を張り上げるしかなかった。
「すみません、火村と申しますが」
二回目に声を張り上げると、中から人の気配がした。
パタパタと廊下を小走りにかけよる音。そして「はぁい」と返事をする声は…アリス。
「開いとるで、入ってき」
アリスの声に玄関を開けると、広い下足場の向こう三段の上がり框の上に紺色の着流しを着たアリスの姿があった。
「おい、アリス、ここは一体」
質問を浴びせようとした俺を、彼はまぁまぁと宥め、取り敢えず上がれと言った。
「悪いがスリッパなんてアメリカさんかぶれなもんはあらへんよ」
彼はそういうとさっさと右手に引っ込んでしまった。
俺も靴を脱いでそれに続く。
屋敷の廊下は歩くたびにギイッと鳴いた。
アリスが入ったのはすぐの応接間で、彼は座っててと席をすすめるとまたすぐに部屋を出ていった。
四角い大きなテーブルに、座布団がよっつ。
入って左手には床の間もついている。庭側の障子とその向こうの板張り廊下を挟んだ向こう側にある窓は開けられており、風が中に入り込んでくる。
「麦茶でええな」
戻ってきたアリスは、ガラスのコップとサーバーを持っていた。
「まるで大正時代にタイムスリップしたみたいだ」
俺がそういうと、彼は「そうやろ」と微笑んだ。
「実際、この家は大正の初期に建てられたんや」
「へぇ」
「うちのばあさんの実家や」
アリスがいうには、その家に住んでいたのはそのばあさんが最後。あとは子孫らが時々使っていて、ここ十年ほどは誰も寄り付かず、アリスの従兄弟が管理だけしていたのだと言う。
「その従兄弟がこないだ管理が大変やて愚痴っててな」
なんならただでえぇから、アリス、住んでみぃへんか? と話を持ってきたらしい。
アリスは、ばあさんの実家が残っているのは知っていたが、これまで来たことがなかったらしい。
「話を聞いて、まぁとりあえずきてみたら、見た通りのすごいあばら屋や。こりゃかなんと思うたけど、中は思ったより綺麗にしとる。それに窓を開けてたらえぇ風が吹くし、見方を変えればえらい風流やんか」
彼はひと目…ではなく、二目で気に入ったらしく、二日前からここに住み込んでいるらしい。
「着流しはわざわざ買い込んだのか?」
「これはじいさんのや。じいさんはいつも着流しをきとったハイカラさんでな、じいさんが死んだあとも、おかんが大切にしまっとったんや」
似合うか?と聞かれて俺は頷いた。それは世辞でもなんでもなく、彼とこの家の雰囲気に着流しはぴたりとはまったからだ。
「洋装をしている俺が浮いている気がするな」
「そうやな。俺もな、ここにノートパソコンを持ち込んだはいいんやけど、どうも違和感があってな。わざわざ原稿用紙を買ってきて文机の上に広げてみたりしたわ」
「ペンは進むか?作家先生」
俺の言葉にアリスは「いいや」と首を振って笑った。
「昨日、ついつい松本清張を買いに行ってしもうたわ」
「あぁ…雰囲気があるな」
「ここにおると、まるでほんまに大正の時代にタイムトリップしてしもうたみたいや。ペンは進めへんけど、次の作品はこんな雰囲気もええかもしらん」
ガラスコップの中の麦茶に浮かべられた氷がカランと音を立てた。
こちらを見るアリス。
見慣れない着流しを着ているせいか、妙に色っぽく見えて俺はドギマギとし、慌てて目を庭へと移した。
「確かに手入れは大変そうだな…この家」
「年に何度か掃除と、それから庭師を入れているっていっとったわ」
「立派な屋敷だが、確かに管理費は馬鹿になりそうにないな。いっそ手放すという話はないのか?来るときに見たが、このあたりは高級住宅地だろう」
手放すか、マンションを建てるかすればかなり儲かるはずだという俺の言葉に彼は「ダメや」と言った。
「あかんねん、それは」
「どうして?」
「庭に死体が埋まっとるから」
「は?」
冗談だろうとアリスを見ると、彼はいやに真剣な目をしていてドキリとした。
「まさか」
俺がつぶやくと、彼は途端にくつくつと笑い出す。
「からかうな」
「別にからかってはおらへん。実は本当や」
笑い続けるアリス。本当かどうかよくわからない。
じっと見ていると「ばあさんが…」と彼は口を開いた。
「ばあさんがまだ子どもの頃に、ばあさんの妹がいなくなったんや。一体どこへいったんやって家族総出、町に住む人総出で探したんやが出てきぃへん。人さらいにさらわれたか、それとも神かくしにあったのか、季節が変わり、年が開けてもばあさんの妹は帰ってこない。そんな時にばあさんは使用人さんの話を聞いてしもうたんやって。“旦那様があの子を殺して庭に埋めてしもうたんや”ってな」
「本当なのか?」
「さぁ。もうそのばあさんもいてないし、もちろん旦那様もいてない」
「庭を掘り返しはしなかったのか?」
「せぇへんよ」
アリスは笑った。
「婆さんも半信半疑。けど出てきたら怖いから、そっとしとったそうや。その遺言がな、この家を絶対に手放さないこと…や」
「なるほど…」
ありそうな話ではある。だが…
「旦那様に虐められた使用人の憂さ晴らしの陰口って線が一番高そうな気がするがな」
俺がそう言うと、アリスもそう思うと言った。
「人さらいか神かくしかはわからんが、ここにはいてへんような気がするわ」
その時風がふき、庭木がザワザワと大きく揺れた。
俺が庭の方に目を向けると…ひやりと俺の手に冷たいものがのせられた。
先ほどの会話が会話。まさかばあさんの妹が出てきたかと思わずびくつきそうになるが、もちろんそんなことはなく…
「アリス」
正面に座ったアリスだ。
しかも…
「お前な…」
呆れたことに彼は明らかに欲情した目をしていた。
「お前は自分のばあさんの実家を連れ込み茶屋にしようってのか?」
「あはは、それもええかもしらんなぁ」
「いいかもって…」
「ここやったら、うちのマンションよりも君の下宿に近いし」
「お前な…」
手を払おうとするが、俺より冷たいその手は離れず、少し苛立つと共に体温が上がるのを感じた。
感情はそう表に出るほうじゃない。
だからバレていないはずだ。
俺はアリスを責めるように見た。…が、彼は引かなかった。
むしろ挑発的な目で見つめ返され、無言の駆け引き。
そして俺の敗北は自分が一番よくわかっていた。
なにしろ俺は積極的に負けたいのだ。
言い訳ならいくつもあるが、所詮は“だからヤりたい”に帰結するとなれば、すべて飲み込むのが利口というものだ。
落としどころを探る俺と、勝利を確信しているアリス。
「いっそ此処に住むのも悪くはないと思うとる」
「無理だろう」
「どうして?」
「お前にこんな手間のかかりそうな屋敷の世話が勤まるとは思えない」
屋敷の管理や庭の手入れももちろんだが、屋敷はあまり手を入れていないと言ったのはアリスだ。
おそらく台所や風呂といったものもかなり古いものにちがいない。
一週間やそこいらは物珍しさもあって楽しめるだろうが、ずっと彼が此処に住めるとはとうてい思えなかった。
「別荘に使うのがせいぜいだろう」
「従兄弟も似たような事をいうてたわ。定年退職したあとならともかく、今はあの家には住まれへんて」
「あぁそうだろう」
頷いた俺の手を大正時代の文豪ぶったアリスがぎゅっと握る。
冷たかったはずの手が、いつの間にか体温を等しくしている。
ぼんやりと繋がった手を見ていると、焦れたアリスが俺の手を持ったまま立ち上がった。
「火村」
「なんだよ」
「二階に俺の部屋を作ったんや」
「それで?」
「行こうや」
つまらない上に、ストレート過ぎる誘い文句に俺は笑った。
「まだ真っ昼間だぜ、作家先生」
「あかんか?」
いや、ダメじゃない。
「いい年してさかるなよ」
「ええやん。人間素直が一番や。やりたい時がやり時」
「まったく、仮にも言葉を扱う商売をしている人間がなんて台詞だよ」
笑いながら、それでも俺が立ち上がるとアリスは満足そうに笑った。

二階のアリスの部屋には、くしゃくしゃになった布団が敷きっぱなしになっていた。
古い木枠の窓は開かれており、昼の日差しと共に秋の風が吹き込んでいる。
着流しのアリスが俺の腕を引き唇を啄みながら、俺の背中をゆっくりと撫でる。
「なんだか倒錯的な気分だ」
本当に大正時代にタイムスリップしてしまったかのよう。
アリスは確かに俺の知っているアリスなのに、まるで別人のような錯覚を受ける。
「お前が大正の文豪なら、俺はそのお妾さんといった役どころか」
アリスは俺の首にキスし、そしてシャツのボタンをはずしながらクスクス笑った。
「本妻の居ぬ間にか?…いや、大正時代やったら、妾さんも一緒に暮らしてたっていうのもありやな」
「ばか野郎。俺はいやだぜ」
「ん、俺もや」
彼は首筋に軽く歯を立てた。
「俺が留守の間に、車番とできとったなんて事はいややし」
「本当に馬鹿だ」
アリスが肩を軽く押さえつけると、俺は逆らわずにくしゃくしゃになった布団に座り込み窓の方に持たれた。
アリスの手が、器用な動きで俺の性感帯を撫で上げ俺に火をつける。
「火村……」
アリスが何か言ったが、俺はまったく聞いちゃいなかった。
もうそれどころじゃなくなっていたから。
俺は声を噛み殺すのに必死で、濡れた音から気を反らす為に、窓の外で鳴く鳥の声に集中しようと頑張った。
そんな俺に気づいたアリスが、俺の胸元から顔を上げ熱っぽい目で俺を見た。
「愛してる」
「知ってるさ」
そして俺の理性はバラバラになった。

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