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アレグロ02

ヤクザ幹部と組長の息子
とりあえず書きたかったところは書いた。
読み返さないのがデフォです。 

数ヶ月の付き合い、九年ぶりの再会、年は8つも離れているというのに勇との会話はとても楽しく弾んだものになった。充実を感じる程に。
それはこのレストランの雰囲気と料理のお陰でもあるかもしれない。
広めの店内の割にはテーブルは少なく各テーブル間にはほどよい距離があり、設計に工夫があるのか店内に流された音楽はきれいに聞こえる割に、他の客の会話は聞こえてこない。
料理の値段はそこそこだが、それにみあった味で満足だ。適当にと頼んだワインも趣味がよく料理に合っている。
いい店だ。
そんなことを思いながら店内を見渡す。
この店はやり方しだいではもっと儲ける事ができる。
こういう時にヤクザの下心をもって見てしまうのはもう商売病だろう。
最後にティラミスとコーヒーが運ばれてきて食事は終了。
普段はデザートなんか例えセットで出てきても手は出さないが、勇と一緒であればヤクザものには見えないかもしれないと気まぐれに手を出した。
ティラミスは甘味が苦手な俺でも美味いと感じる味だった。
そして俺は顔をあげ、真剣な目をした勇を見た。
なるほど。ただのおぼっちゃんとして育ったわけではないらしい。
彼の目は俺たちのそれと良く似ていた。

「場所を移すか?」
俺の言葉に彼は頷き、「奥にいきましょう」と言った。
「個室があるんです。そちらで貴方とお話がしたい」
「わかったよ」
彼が立ち上がり、俺が続く。
話は店側にはすでに通っていたらしく、ウェイターが他違った俺たちを黙って奥へと案内した。
完全に区切られた個室。俺達が話始める前に新しいコーヒーが運ばれてきた。
「こちらに席を移ったということは、俺はテストに合格したってわけか?」
俺の言葉に彼はニコリと笑った。
「昔貴方は父に心酔していた。今もまだ盲目的に父に着いていたとすれば、こっちの席への移動はなかったでしょうね」
つまり試されていたというわけだ。
俺が小さく笑った。
そう、思い出した。こいつは昔からそうだった。
無邪気に人の後を追い回し、ガキらしくわけのわからんことをべちゃべちゃ喋りながら、時々ものすごくするどい台詞を放ってくる。
俺はそのたびにドギマギして言葉が返せなくなっていた。
小賢しいクソガキ。
学のない俺は彼が大嫌いだった。
とはいえ、九年たった今はやはり俺も大人になったということだろう。
腹が立つ変わりに、彼を面白いと思う感情が沸き上がる。
俺はテーブルに灰皿があるのを見てタバコを取り出した。
「吸っても?」
「構いませんよ。…タバコの趣味は変わってないんですね」
「まぁな」
変える理由もないから変えていないだけだ。
「それで話ですが、率直に言って今の父を正樹さんはどう思いますか?」
これはまたドストレートにきたもんだ。
「率直に?」
「えぇ」
俺は勇の目を見つめ、タバコをふかし言った。
「老いたな」
彼は俺の言葉に目を丸くし、ついで笑った。
「それは俺もだって?」
「いえ、正樹さんは成長したんですよ」
「おい」
「でも、そうですね。父は老いた」
真剣な目をする勇に俺も表情を改めた。
「実は帰ってきたのは大学を出たからという意外にもう1つ理由があります」
「それは?」
「清水さんに泣きつかれまして」
「清水さんか」
俺は長いこと江藤さんの右腕をしていた男を思い出した。
生真面目で良い人だったが…彼は半年ほど前に組を出ていった。
表向きは病気療養の為だったが…実際はどうだろう。聞いた話じゃ、最後に女にうつつを抜かす江藤さんに釘をさしていったという話だった。
「清水さんと連絡をとっていたのか」
「いえ、特には。しかし随分と参っているようで。…いえ、私に連絡を入れたという時点で随分切羽つまっていたのでしょうが」
「あぁ、そうだろうな」
俺はタバコを深く吸い込み、正面に座る勇にあたらないようにゆっくりと吐いた。
「貴方はどうですか?辞めるつもりはありませんか?」
「無いよ」
俺が軽く答えると、勇は真意を探るように俺を見た。
「父に、江藤に恩義を感じてるんですか?」
「まぁそうだな」
女に腑抜けにされた江藤さんは、多分もうダメだろう。
まだ支えてくれるヤツがいるからパタンと倒れる事はないだろうが、それでも長くはないだろうと思う。
現にすでに勘のいい若いのは、俺の顔色を見ながら出方を探っている。
「心中でもするつもりですか」
不満げな彼に俺は小さく笑った。
「まさか。まだ死ぬ気はないよ」
ちゃんと打つ手は打っていざという時の準備はしている。
ただしそれは俺一人が助かる道であり、その先の未来に江藤さんはいない。
「どうする気です?」
探る勇に目を細め、俺は大袈裟に肩をすくめた。
「勇、それを言う前に自分の立場を明確にしろよ。俺は相手の意図も解らぬままに腹を探られるのは嫌いだ」
「…そうですね。失礼しました」
そう言いつつ、彼は少しだけためらい、それから「父には引退していただきたいと思っています」と告げた。
「引退か。組を潰す気か?」
「いえ、そうではなく俺に跡目を譲っていただこうかと」
「何?」
組を潰すか縮小させるという話は、ここまでくれば考えないでもなかった。
だがまさか勇が継ぐといい出すとは。
「冗談だろう」
笑う俺に彼は首を横にふった。
「本気ですよ。至極」
「…いくらお前が江藤さんの長男とはいえぽっと出のお前が組長になれると思ってんのか?」
「なれるかどうかではなく、なるんですよ。とりあえず清水さんの推薦状はいただきましたし、出来れば正樹さんもバックについてほしい。いかがでしょう」
「いかがも何も…、俺は…」
「確かに貴方よりも立場が上の人間はいます。しかし彼らも江藤と同様老いています。老人たちにはこの際揃ってご引退願おうかと」
「そいつはいいアイディアだ。しかしそう簡単に行くとでも?」
「さて、それは貴方次第でしょうね、正樹さん」
勉強をしてこなかった割に、俺は頭の回転はそこそこを自負していた。
しかし勇の話は完全に俺のキャパシティを越えている。
江藤さんを追い出し、勇が組長になる?老人方には引退だ?
馬鹿馬鹿しい。
少し考えただけでも無茶が過ぎる。
…しかし、勇がいうからにはそこに勝算があるように見えて一蹴できない。
本気か?それとも試しているのか?本音は別のところにある?
「当面の資金ならあります」
「金?」
「はい、うちの母親が田舎に山を持っていたんですけどね、そこを売りました」
「田舎の山ね…」
「もちろんそれだけでは足りないでしょうから、母の保険と遺産。しめて五億。それでどうにかなりませんか」
そういえば彼の母親は死んだのだったかと思いながら、俺は口の中で五億という言葉を転がした。
五億。
一口に言えば大きいが、目的を成すには心もとない。
だがもしあと数人味方につけば…いや、老人たちはあれでネットワークだけはしっかりしている。よその連中ともパイプを持っている。
…無理だ。
そう結論を出そうとしたが、勇の顔を見て言葉を躊躇った。
やれると信じている、俺を信頼している顔。
なぜこんな顔が出来るかさっぱりわからない。
だが…
「勝算はあるのか」
「もちろんですよ。ただしかなり荒っぽくなりますが」
「あんたの顔には似合わないな」
「かもしれません。しかし、老人方にはそちらの方が効果的でしょう」
不思議とそんな勇を見てると、こちらもやれるような気がしてくる。
さすが江藤さんの血を引いているだけある。
「荒事は苦手ですか?」
「いや、どちらかというと得意だな。近頃はやってないが。どんなことをやるつもりだ?」
「誘拐や拉致、監禁なんかでしょうか」
何でもないように言われた言葉の過激さに俺は思わず笑ってしまった。
「そりゃすごいな」
「出来そうですか?」
「問題ないといいたいが、近頃は武闘派ははやらねぇからな。少し兵隊を鍛えなきゃなんねぇ」
「そうですか。では時間がありませんから、当分は貴方の仕事になりますね」
引き受けてもいないのに、向こうは完全にその気でしゃべっている。
しかし悪い気はしなかった。
それどころか血がふつふつと熱くなるのを感じて気分が高揚した。
「とりあえず、弁護士の藤森と情報屋の牧島を抱き込むか」
俺が言うと、彼は色気すら感じさせる顔で微笑んだ。

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