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アレグロ

ヤクザ幹部と組長の息子
終わらなかったのであと1話くらいは書きたい

母親は17で父親が誰かわからない子供(=俺)を生んだ。
そのせいで家を追い出されて、以下水商売をしながら俺を育ててきた。
虐待こそされなかったが、ほぼ育児放棄状態。父がいない上に母親の愛も得られなかった俺はセオリー通りぐれた。
中学・高校とバイオレンスなに過ごした。そこそこ楽しくはあったが満たされない。毎日なにかといらいらしていた。
そんな俺を拾ってくれたのが、当時売り出し中だった神山組の若頭、江藤さんだ。
まさにクズ街道まっしぐら。
しかし俺はそこにやりがいをみつけた。
これまでまったく勉強はしてこなかったが、ヤクザとしてはかなり才能があったらしくいくつかの債権処理の後、空き店舗に高校時代の後輩を入れ飲み屋をやらせて大成功。それを元手に、そのあたりのビルを買収していったら、なんとちょうどその辺りに大型商業施設出店の話が持ち上がり、持ち主がヤクザと知らずにビルは言い値で売れた。
それから大陸との商売に手を出したり、優秀だと噂の人間を引き抜きライバルの組を乗っ取ったりと、自分で言うのもなんだがまさに八面六臂の活躍で、いまや神山組は押しも押されぬ組にまで成長し、古いだけの老舗にすら意見を通すだけの権威を得た。

尊敬していた。

江藤さんは、極道もんとしてはあまりキレなかった。
しかし人を見る目、人を惹き付ける力があった。
この人の為にいっちょやってやるか…というような気持ちにさせる何かがあった。

しかし、
残念ながらそれは過去形で語らなければならない。
死んだのではない。
いや、いっそ弾かれて死んだというほうがどれほど良かったか。
俺が尊敬し盛り立ててきた江藤さんは、五十を過ぎて女に狂った。
しかもまだ24の跳ねっ返り。
これまで三度結婚し、綺麗な愛人が何人もいた江藤さんが何でと思うほどにおかしな女。
自分の立場もろくろく理解していないバカ。
江藤さんに向かってタメグチをきき、我が儘放題の売女。
そんな女にメロメロな江藤さんが信じられない。
俺のような幹部がまだ隠しているから、大半の奴はしらないが、これを知れば離反者が出るのは必須で頭が痛い。
近頃は幹部で頭を付き合わせては、あのバカ女をどうするかでえんえん討論してるというアホらしい図が珍しくない。

今日もまたバカ女が、我が儘を言って江藤さんを離さなかったせいで大事な会合に江藤さんは欠席していた。
仕方なく俺が出向いたものの、まだ来年ようやく30になるばかりの俺では当然甘く見られる。
俺がいくら稼いでいるか知っていても、老人方から見れば俺はまだまだ赤ん坊みたいなもんとしか思われていない。
もちろんそれに甘んじる気はないが、だからといって今、拳を振り上げるのは時期尚早だという事くらいはわかっている。
俺が出来るのは、せいぜい会合先のホテルから出て「クソッタレが」と悪態を着くことくらいだ。
そうしてそれを実行したところで、俺の乗るはずだったレクサスの後ろのスモークガラスがゆっくりと降りた。
誰だ?
少しばかり緊張して待つと、中から顔を見せたのは若い男だった。
モデルか芸能人かというくらいに顔が整った二十そこそこの男。
見覚えは…ない。
誰だ?
そんな思いが顔に出たのだろう、彼は美しい顔でにんまりと笑った。
そして
「正樹さん」
と、俺を名前で呼んだ。
その時の笑顔と、呼び方で俺は彼を思い出した。
もう10年近く会っていなかった子どもを。
「お前…いや、勇君?」
江藤勇。
彼は、江藤さんの最初の奥さんの子供だ。
先ほどまでのいらだちを忘れ驚く俺に、彼は嬉しそうに笑い「乗ってよ」と言った。

「何年ぶりでしょうね。懐かしい」
車に乗って俺が言うと、彼は「9年ぶりかな」と彼はこたえた。
9年…。そう、そうだ、あの頃の俺はまだまだガキで何かにつけて物や人に当たり散らすしか能のないチンピラだった。
まだ債権を回収して回ることしか出来ない三下。江藤さんにくっついて回る金魚のフンだった。
そんな俺が最初に勇君に会ったのは、確か江藤さんの家で行われた新年会の席だった。
あの頃の彼は、まるで女の子のように可愛らしかった。
その彼は、大人たちを遠巻きにするだけで、父親に呼ばれてさえ近づいてはいかなかったというのに、なぜか俺だけにはなついた。
いや、なついたというより、勝手になつかれたというのが正しいか。
俺が彼に気に入られるような何をしたという覚えは一切ないが、会えばとことこと近寄ってきて、俺を見上げて笑っていた。そして俺の後を追い掛け回していた。
俺はガキの扱いなんてしらないし、そもそも小さいのは好きじゃなかった。だが江藤さんの子供だという事で邪険にできなかった。もちろん邪険にしなかったというだけで優しくもしなかったが、それでもガキは俺にくっついてきた。
だがそれも数ヶ月間の間だけ。
時期に俺は忙しくなったし、江藤さんも最初の奥さんとの離婚があったりして疎遠になっていた。
それがまさかこんなところで再会するとは思っても見なかった。
「本当に久しぶりだ」
俺が言うと、彼はくすくすと笑い「ずいぶん愛想がいいんですね」といたずらっぽく俺を見た。
「昔はちっとも笑ってはくれなかったし、しゃべり方もそっけなかったし、俺の事が嫌いだったでしょう?」
彼の言い方に俺は苦笑する。
「別にあんたが嫌いだったんじゃありませんよ。子供が嫌いだったんです。それに俺も大人になったんですよ」
「そうですね、前よりずいぶん落ち着いたように見えます」
生意気な言葉。
だが彼は昔から恐ろしいほど聡明なところがあったで苦笑こそ浮かべど腹は立たない。
もちろん9年前なら殴りこそしないものの、彼を納屋に閉じ込めるくらいの事はしただろう。
俺も大人になったのだ。
「今日はわざわざ会いに来てくれたんですか?」
「えぇ、向こうで大学を卒業して数日前にこちらに帰ってきたばかりなんです。それで戻ってきたら正樹さんに会いたくなって」
「向こう?留学でもしてたのか?」
俺が聞くと彼は不満そうな顔をした。
まるで俺が知らないことを非難するように。
「あなたに最後に会ってから少しして病気になったんですよ、俺。その治療の為にアメリカに渡ってそのまま向こうにいたんです」
「病気?」
「えぇ、少し難しいね。でも今はすっかり」
「それはよかった。ところでこの車はどこに向かっているんです?」
「海辺にあるイタリアンレストラン、アレグロに。食事は済んでいるとは思いますが、少しつきあってください」
「いや、助かる。会合ではろくに物が喉を通らなかったですから」
「それはよかった。ところで、俺相手に無理な敬語は使う必要はありませんよ。それに敬称も結構です。昔は“クソガキ”扱いでしたからね、“勇”で結構ですよ」
「そんなにひどかったでしょうか」
「えぇ」
彼は頷き、昔は俺に“近寄るなクソガキ”だの“また来やがった、どっか行ってろ”だの“ピーピーピーピーしゃべるんじゃねぇよ、さっさと部屋に帰ってうさぎのぬいぐるみでも抱いて寝てろ”だの言われたものだと口にした。
「はは、それは面目ない。若気の至りですから、水に流して下さい」
言ったおぼえはないが、言わなかった覚えもない。
「もちろん。ただし敬称と敬語をやめていただければ」
彼の言葉に肩をすくめ、「わかったよ、勇」と言えば、彼はとても満足に笑った。
「昔の面影があるな。昔、あめ玉をやればあんたはよくそんな顔で笑った」
最初はパチンコの景品を気まぐれに渡しただけ。
しかしそれを彼はとても喜び、またあめ玉を舐めている間は少し静かになったので、俺はあめ玉を常に持ち歩き彼に会うとそのあめ玉を彼の口に押し込んだものだった。
「あぁ、あめ玉。よく覚えてますよ。いろんなあめ玉をあなたは持っていた。あれ、結構楽しみだったんです。今日はどんなあめ玉をくれるのかなって」
さて、それは覚えていない。
何しろパチンコの景品や事務所においてあったもの、女にもらったものばかりで、しかも自分じゃ舐めた試しがなかった。
「勇。俺は敬語をやめたんだ。あんたも俺に敬語を使う必要はないぜ」
「いえ、この言葉遣いは癖みたいなもので、年下相手にもこんなものですからどうか気にしないでください」
「へぇ。えらいもんだな。…あぁそうか、御山の影響か」
彼の教育係兼ボディーガードを思い出して言った。
江藤さんがどこかからスカウトしたという四十くらいの男は、チンピラの俺にも丁寧な態度を崩さない変わった男だった。
「えぇそうですね。向こうに渡ってからは、日本語を使う相手は彼しかいませんでしたから」
「その御山はどうした?」
今、車を運転しているのは俺が使っている若いので御山ではない。気になってきくと、なんと彼は向こうで結婚し引退したのだと勇は言った。しかも相手はまだ若い金髪のグラマラスな美女であるらしい。
あのお堅い御山が。
そりゃ俺も年をとるはずだど頭がくらくらした。

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